プロローグ
何をしたらいいんだろう。
それがボクに生まれた最初の"意志"だった。
目の前には、1人の人間が地面に倒れている。
白銀に煌めく鎧と剣を持つ青年だ。
青年は、勇者と呼ばれている存在だった。
弱き純人族としては破格の能力を持ち、万を超える魔物達を前にしても一歩も引かず、逆にねじ伏せるだけの力を持つ、魔物の天敵。特に彼は、50代以上も続く勇者の歴史の中で、"歴代最強"と称えられた勇者だった。
――そんな人間が、ボクの前で一人静かに息をひきとっていた。
……魔王に殺されたのだろうか?
――『不正解』
……仲間に裏切られた?
――『不正解』
……運命に絶望して自殺?
――『不正解』
……修行中の事故?
――『正解』
そう、彼の死因は事故だった。
彼は、魔王との戦いに備えて、聖地と呼ばれる9000メルト級の山で一人修行に明け暮れていた。肉体を限界まで苛め抜くこと1年。遂に、魔王を倒せる力と技を手に入れる。
特に、彼が修行の集大成として完成させた奥義は、歴代の勇者が編み出した技の中でも、最大の破壊力を備えていた。
これで世界を救える、魔王と勇者の因果を断つことができる、と未来への希望に胸を高鳴らせた時――悲劇は起こった。
聖地は、歴代の勇者たちが修行地として選んだ大地だった。
勇者しか生存できない過酷な環境など、選ばれた理由は様々だったが、一番の理由は"頑丈だったから"だ。数々の希少鉱石が埋まる大地は、頑強さにかけてにかけては他の追随を許さなかったのだ。
勇者の力に耐えうる地面は貴重であり、故に歴代の勇者たちは、こぞってこの地を修行地に選んだ。
しかし――そんな堅牢な大地も、長年勇者たちの技々に曝され、限界を迎えつつあった。
そして、遂に今代の勇者の放つ奥義の破壊力に耐え切れず――崩壊してしまっ
たのだ。
身を削るような修行と奥義の反動により、立っているのもやっとだった勇者は、あっけなくその崩落に巻き込まれた。
9000メルト級の山頂から麓まで真っ逆さま。それほどの衝撃を受けもなお、五体を留めていたのは流石勇者といえるだろう。
だが、それだけの衝撃に耐える体力は既に無く――呆気ないほどに、"歴代最強"の勇者は、息を引き取った。
(なんというか……可哀想)
そんな勇者の前でボクはひっそりと彼に同情していた。
彼の死因は、十分に同情の余地があった。
人類のため、平和のため、仲間のため、一人修行に明け暮れ、遂にその未来を掴むだけの力を手にした瞬間からの死。
同情しないわけがない――
――魔物であるボクからみても。
そう、ボクはドッペルゲンガー。人間から魔物と呼ばれる不定形だ。




