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第3話 王妃の胸中




 エヴァンが去って、一人ただっぴろい部屋に取り残されたシャーロット。


 部屋の色調も、家具もどこか懐かしく、温かい感じがするが……シャーロットには広すぎた。実家の自分の部屋と比べると十倍近い広さだ。


 王妃様は、こんな広い部屋でおさびしくなかったのかしら?

 ああ、でも生まれながらに広い部屋に住んでいたらなれるものなのかしら?

 ……いつか私も慣れるのかしら。


 ここに夫であるエヴァラート様もいればいいのに……と、ふと一瞬考えて。

 いいえ! でも、いたらいたで落ち着かないです、と想像だけでシャーロットはドキドキする。

 パンと自分の頬を打ちその想像を抑えた。

 鳥除けも手に入ったことだし、気を取り直して庭いじりをすることにする。

 自分には豪華すぎて汚さないかハラハラしてしまう、王妃として用意された衣装から、家から持ってきた質素な服に着替えて庭にでる。

 この王妃の庭には、決められた周期に入ってくる庭師以外は、基本的に不可侵の秘密の庭だった。

 例外でエヴァン様が入ってきたぐらいだ。

 だから王妃としての体面を気にしなくていい、シャーロットがシャーロットとして居れる、大切な庭。

 シャーロットがこの庭を初めて見たとき、必要最低限に整えられてはいたがどこかよそよそしかった庭は、今ではシャーロットの手で彼女の色に染められていた。

 少しワイルドで野暮ったいが、かわいらしい庭で、さりげなく野菜や食べられるハーブも植えてある。



 嫌がらせと言うからには……あまり鳥除けは見えて気分のいいものではないのね。

 もし人が入ってきたときのことを考えて、あまり人からは見えない場所に吊したたほうがいいかしら?



 エヴァンが聞いていたのなら、また複雑な顔をしただろうな事を考えて作業を開始する。


 それにしても改めて思い知らされる。

 やっぱり私のようにエバラート様に恋い焦がれる女性は沢山いるんだわ。

 気にしていないと言えば嘘になるけれど、嫌がらせをしてしまう気持ちもわからなくもない。

 王宮で開かれた舞踏会でシャーロットと同じ年頃のきらびやかで美しい女性を沢山見たし、先程挨拶をしにきてくださった方々も洗練された貴族の子女で……王妃の体面ということで、どんなに着飾ってもシャーロットは彼女たちよりも、自分が数段劣っているのをハッキリ自覚していた。

 こんな平凡な私が、あんな素敵なエヴァラート様の妻になったなんて……納得できなくてもしかたない。

 シャーロット自身も納得できなくて、今でも夢の中にいるみたいなのだ。


 しかも自分はエヴァラート様と相思相愛で結婚したのではない。

 これからの政治的判断で、ランダムに選ばれたようなものだったのだから尚更だろう。

 王位を転覆する恐れのある力ある貴族でなければ、誰でも良かったのだ。

 タイミングが悪ければ、シャーロットの方が嫉妬する方だったのだ。


 だからこそ、シャーロットは自分の幸運に感謝して幸せをかみしめる。

 そんな夢のような出来事に、罰が当たってもそれは仕方ない。



 嫌がらせぐらいなんでもないわ。

 それに相談するとしても、エヴァラート様は本当にお忙しいんだもの。

 こんな些細な事ぐらいで、お時間を取らせるのは本当に申し訳ないし。


 シャーロットは雑草を慣れた手つきで抜きながら、ため息をつく。

 エヴァラート様は一国の王。

 そのお仕事は、国の民全員の為のもので。

 寝る間も無いほどお仕事が忙しいのに、シャーロットの個人的な事ぐらいで気を使わせたくなかった。

 これぐらい妻として自分でどうにかしなくてはと、思ってしまう。


 そう、エヴァラート様は忙しいのだ。

 あの夜から寝室には来てくださらない……それほど王様というのはお忙しい、仕事。


 「あの夜」とは新婚初夜。


 二人っきりで夜を過ごしたのは、その日一度だけ。

 その後、今日まで数か月。夫婦といえど別の寝室で寝起きしている。

 初めは……どなたか寵愛されている側室(こいびと)でもいらっしゃるんだろうと、侍女が言っていたし、初夜でのエヴァラート様の態度を考えると、そうであっても不思議じゃないとシャーロットは思っていた、のだが。

 王妃教育を教えてくれる教師に、エヴァラート様の一日のスケジュールを聞いて、驚いた。

 仮の王と言っても、分刻みのスケジュール。それは夜にまで及ぶし、たくさんの国民と他国を相手にすれば、急な案件が舞い込むことは日常茶飯事で、それがずれ込むと休むのは必然的に深夜に及ぶ。エヴァン様が次の王として楽に引き継げる地盤を固めようと考えてか、エヴァラート様は寸暇を惜しんでいるようだった。

 疑ったのはほんの数日。

 だけど、疑った自分をシャーロットは恥じた。

 自分がぬくぬくと広いベッドで寝ている間にも、エヴァラート様はお仕事をしていたのだ。

 それからは、本当に休まれているのだろうかと、心配で。

 

 シャーロットは自分に何かできないかと考えた。

 そして、自分のできることと言えば、(ガーデン)

 実はこっそりとエヴァラート様の部屋に安眠効果のある花を飾ったり……滋養にいい根菜を料理に使ってもらったりとしているのだが、シャーロットが作っていると知れると王妃の体面にかかわると言い張る女官長を拝み倒して、途中で人を介して、使ってもらってるのだ。だからエヴァラート様はそんなこと知らないだろう。というか、冷静な美女がお好みな陛下には知られたくない。秘密。

 旦那様に手料理を。

 なんて昔考えていたささやかな夢。それをそんな形で、さりげなく叶えている。


 だから今朝。

 すぐに帰ってしまったけれど、エヴァラート様が急に顔を見に来てくれたのはうれしくて。つい頬がこれ以上も無いぐらい締まりがなくなったのだった。

 あれは、危なかった。シャーロットは新婚初夜の時のような、胸の高鳴りを感じる。

 あの夜の事は思い出したら……今でもドキドキして、顔が真っ赤になり、顔を隠したくなる。


 二人の結婚式は、エヴァラート様が仮の王ということで、豪華な結婚式はあげず城にある教会でひっそりと執り行われた。



 これが一国の王の結婚式とは到底思えない、清貧な式だった。





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