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第1話 王妃の秘密






 私は、あの時からあの方に恋をしていました。






「エヴァラート様……どうされたのですか?」

「……なんでもない」


 ここはエルファン国の王宮。

 そして目の前にいるのは、この国の……王エヴァラート様。

 そして、シャーロットはそんな王の、妻だった。

 つまりは王妃。


 そんなシャーロットは今一大事だった。

 それというのも、夫とも言えるエヴァラートにじっと見つめられているからだ。


(もうそんなに見つめられると、だ、だめっ!! にへらって、にへやって、顔がにやけちゃう!!!)

 

 更に頬に、力を入れて、目にも力をいれてシャーロットはニヤケ顔を全力で抑えた。

 それには勿論、理由がある。


 夫でもあるエヴァラートの好みは、クールな才女だからだ。

 シャーロットの中身が本当は、落ち着きのない凡庸な女だという事はばれてはいけない。

 そんな事になったら嫌われてしまう。


 ふい、とエヴァラートの目が反らされる。

 シャーロットはほっとして、ため息をつくと、夫はマントを翻し、王妃の部屋から出て行った。

 引き止めたい気持ちをぐっと抑えて、シャーロットは見送りの礼をする。



(それにしても、エヴァラート様何の御用だったのでしょうか?)






 シャーロッティーヌ=クーゲルケラーは、中流貴族の娘だった。

 それが、王の妻に抜擢されたのは、本当に振って沸いた幸運だった。

 抜擢された当時は、本当に何で? 夢のようと、シャーロットは自分が選ばれたことが信じられなかった。


「もう、本当に面白かったものよ!」


 王がいなくなってからしばらくすると、王妃の部屋にやってきたのは小さなかわいらしいお客様。

 金の髪に、青い瞳。

 まるで、上級の職人が作り上げたお人形さんのような顔と、スタイルを持つ。

 エヴァラートにそっくりな、天使のような女の子。


 しかし、それは見かけのみ。

 油断していると何時寝首をかかれるか分からないと、侍女達にシャーロットは言われていた。

 その相手はエヴァラートの妹で時期王のエヴァンジュール様。

 今年で御年十歳になる姫君だ。

 どうみても寝首をとるような子供には見えない。


「面白かったなんて……」


「ですから、王妃の座を争って両大臣派が争って。

 それはそれは、お互いのアラの探し合い、潰しあい。

 そして肝心のお兄様が王にならないと知ったときの顔ったら!

 見ものでしたわお姉さま?」


 そう、エヴァラートは、この小さな姫君が成人するまでの仮の王。

 この国では正妃の生んだ子供が、王座に付くのだが、この国には王妃が二人いた。

 亡くなったセルヴァン王妃と現王妃のセルジュ様。

 エヴァンジュールは先の王妃様のお子様で、エヴァラートは第二王妃様だったセルジュから生まれた。


 とにかく、この国の貴族達はこぞって次期王は、男子のエヴァラートだと思った。

 王の正妃に自分の娘をと……ごたごたを繰り返し、蹴落とし、候補がだんだん減る中。


 エヴァラート自身は、王位に付くのを望まなかった。

 妹のエヴァンジュールこそ、王に付くものだと。

 まだ幼い妹の為に、今は仮初の王座に付くと、国民の前で宣言したのだ。


 苦境を乗り切っても、得るものが少ないと思った貴族達はこぞってエヴァラートへの婚約話を取り下げた。

 波が引くように。

 しかし、初めから権力争いから引いていたシャーロットの両親は取り下げることを忘れていた。

 貴族としての義務で、数合わせのように出したようなものだったし、まさか自分の娘が選ばれるということなど露にも思って居なかったからだ。


 しかし、晴天の霹靂。

 数がめっきり少なくなった候補達の中。

 勢力争いに全く関係ない、もし王が譲位した際にも後ろ盾になって火種にならぬ、安全安心だという理由で、有力な候補となり、その中からエヴァラート本人に王妃として選ばれたのだ。

 それを聞いたとき、恐れよりも何よりも、シャーロットには凄く嬉しいことだった。


「お姉さまは、お兄様のどこがいいの?」

「え、ええええっと、そのっ!」

「しかも、それにしても兄様の前と、いつも私の前ではイメージが違わなくて?」

「そ、それはっ……!」


 シャーロットは顔を赤らめる。

 その姿は、先ほどのエヴァラートの前とは雲泥の差だった。

 ただの町娘のようにうろたえる。


「前から、エヴァラート様のことをお慕いしていたのです、私」

「で、それが何の関係がありますの?」

「あの、エヴァラート様のその好みの女性のタイプがクールな才女とお聞きして……私はせっかちなものですから……」

「それで、あの態度」

「ええ、内緒にしていただけますか? エヴァンジュール姫様」

「勿論、あなたがそう望むなら。あとエヴァンでいいわ。私、貴女の妹なんですもの」

「い、妹っ……!!」


 そのうろたえっぷりは、王女を妹呼ばわりなんてとんでもないと言った物ではなく。

 エヴァラートの妻ということが強調されたゆえの恥ずかしさだった。


 正直エヴァンジュールは宮廷にいた様々な美女達に目もくれず、彼女を王妃に据えた兄は趣味が悪いと思っていたが……。


 今では彼女はシャーロットの事をそれなりに気に入っていた。

 本当はシャーロットとはじめてあった時、気に入らない女ならばイビリ倒して王宮から追い出そうと思っていたのだが。

 貴族の娘らしくない、おっとりで善良で、自分の感情に素直すぎる……それは貴族としては品がないともいえる。

 まるで褒める所のない娘ではあるが、一緒にいるだけで何故かほっとする所に、呆れながらも惹かれてしまったのだ。


「まあ、確かに少しは王妃らしく過ごしてもらわなければ、兄上も心配かもしれないわ」

「私、頑張りますからっ!!」

「ええ、精々頑張って?」


 二人の会話が盛り上がっているときに、ドアがノックされる。


「いつもの通り、私がここに来ている事は内緒にして頂戴」

「は、はい」


 そう言うと、エヴァンジュールは隠れる。

 そこに現れたのは予想に反して、エヴァンジュールを探しに来た者達ではなく、貴族の子女達であった。

 後ろで、召使たちが、お通しして申し訳ありませんというような表情で見ている。

 無理矢理、部屋に入ってきたらしい。



「あらぁ、ご機嫌はよろしくて? 王妃様?」

「御機嫌よう、フェルマー様、アディライラ様、オージュフィン様」


 シャーロットは、内心名前を間違えないかドキドキしながら答える。


「丁度、午後のお茶の時間でしたの、皆さんもいかがですか?」


 王妃としての威厳を持って……

 ロイヤルスマイル! と、心の中で念じながらシャーロットは答えていたが。

 傍から聞いているエヴァンには、感情のこもらない、ツンとすました声に聞こえていた。

 つまり、目の前の貴族令嬢達を、はなから相手にしていない冷たい態度。

 しかし、令嬢達は友好を深めようと思っていたのではないのでへこたれなかった。


「こんな田舎くさい場所ではちょっと、ねぇ」


 クスクス、と彼女達は バカにしたように含み笑う。

 それは「田舎から出てきた弱小貴族」シャーロットに向けての嫌味だった。

 よく言いに来る、暇人ねと隠れながらエヴァンは思っていたが。

 シャーロットを助ける気は毛頭ない。


「そうですか? 古くはあっても元王妃セルヴァン様のお部屋をそのままいじってはおりませんが」

「!!」

「いいお部屋だと思っていましたが……やはり貴族の流行というのは(わたくし)には難しいです」


 貴族の流行はシーズンごとで変わる。

 それはドレスの型、色でも顕著だが、部屋の装いもその部屋の主人の趣味を量る物差しだ。


 勿論、シャーロットは心の底から、事実だけを素直に返していた。

 こう返すことで、貴族令嬢たちが亡き王妃セルヴァンの趣味にケチをつけているということになるなんて気付かずに。

 

「い、いきましょう!」

 裏の裏まで読み取る、貴族令嬢たちは、シャーロットの言葉を勝手に解釈して、これ以上揚げ足を取られないように去っていく。

 シャーロットは、突然去っていくので、何か失敗したのかとしょんぼりと落ち込んだ。

 そんなシャーロットに、更に追い討ちをかけるように、エヴァンの声が聞こえる。


「悪かったわね、私のお母様の趣味が古臭くて」

「え、え、あ! そういう意味じゃないんです!」


 そういわれて、自分の言葉が王妃様を遠まわしに「趣味悪い」と言っているのに気付き、あわてて謝罪するシャーロット。


「すごく、私はこの部屋が落ち着くので、大好きです。なので流行にそって模様替えするのはもったいなくて……」

「もういいわよ」


 悪気はなくとも墓穴を掘っていくシャーロット。

 しかし、全く悪意は感じられず、王妃への敬意だけが伝わってくるのは分かるし。

 事実、エヴァンの母が死んでから五年は経っていて、その日から取り残されていたような部屋だった。

 普段この部屋を大事に使ってくれているシャーロットを見ているので、エヴァンは本当は気にしていない。



 ただ、彼女が純粋な分、からかいたくなるのだ。







11/11日ルビのタグがそのままだったので修正しました。

読んでくださった方申し訳ありません。

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