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かざぐるまじぞう

掲載日:2026/06/28

最近書きましたが内容は昔話です。むかしまっこうさるまっこう。

 むかし、むかし。山合の集落のはずれに、六体のお地蔵さまが立っていた。村と別の村とを行き来する道の途中でもあったので、村人たちはそこでひと休みしたり、行く先の安全を願ってお地蔵さまに手を合わせたりしていた。

 ある夏の暑い日のこと、ひとりの村人がお地蔵さまの近くを通りかかった。この村人は、川に水をくみに行った帰りで、大きな桶ふたつにはさっきくんだばかりのきれいな水がなみなみと入れられていた。村人はいつものようにお地蔵さまの近くでひと休みする。

「いやあ、きれいな水をくんできたはいいが、こう暑いと、先へ進むのが大変じゃ。日が暮れるまでに村へ帰れるじゃろうか」

 村人はお地蔵さまに手を合わせたが、お地蔵さまに陽の光がこれでもかとふりそそいでいるのに気がついた。

「こりゃあ、お地蔵さまもたいそう暑かろう」

 そういいながら、さっきくんできたばかりの水を、六体のお地蔵さまひとつひとつにかけていく。

「この水で涼をとってくださいませ」

 そして六体目のお地蔵さまに水をかけたときには、桶が空っぽになっていた。

「ありゃ、空になってしもうた。まあでも仕方あるまい。もういちど川に行って水をくんでこよう」

 そして空の桶をふたつ抱えて、川のほうへ戻っていった。


 それから少し経ったのち、別の村人がお地蔵さまの立っている場所にさしかかる。この村人は行商人で、かざぐるまやお手玉のほか、お祭用の小物を別の村に売りに行く途中だった。

「おや? こんなことがあろうとは。あまりの暑さでお地蔵さまが汗をかいとる。お待ちください、お地蔵さま」

 と、手ぬぐいをとりだして、六体のお地蔵さまをひとつひとつ拭いていく。手ぬぐいはすぐにびしょびしょになり、何度もしぼりながらまた拭く。しかし手ぬぐいだけではらちがあかないと思い、こんどは昼飯のにぎりめしを包んだ風呂敷で、お地蔵さまを拭きはじめた。

 やっとぜんぶのお地蔵さまを拭き終えたころには、行商人は腹がへり、風呂敷から出したついでに昼飯のにぎりめしをすっかりぜんぶ食べてしまった。

「ありゃ、にぎりめしをぜんぶ食べてしもうた。この先はまだ長いのにのう。仕方ないわい、もういちど戻って、またかかあにつくってもらおう」

 そして行商人は、売りもの一式を抱えたまま来た道を引き返していった。


 それからまたしばらくのち、最初の村人が川の水をなみなみと入れた桶ふたつを抱えながら、またお地蔵さまのところにやって来た。

「あれま、何じゃこれは。水がもう乾いとる。今日の暑さはすごいもんじゃ」

 そういいながら、お地蔵さまひとつひとつにまた水をかけていった。

 すると、ちょうどそこにさっき水を拭いた行商人が、あたらしくつくってもらったにぎりめしと商売道具を抱えて通りかかった。

「おや、あんた何しとるんや?」

「何って、お地蔵さまが暑かろうと思うてな、こうして水をかけとるんじゃ」

「なんと、さっきお地蔵さまがこの暑さで汗をかいとると思って、わしがそれをぜんぶ拭きとったばかりじゃ」

「おやまあ、するとお地蔵さまが乾いとったんは、あんたが拭きとったからかいな」

 ことの顛末がわかると、ふたりは互いに顔を見合わせて大笑いした。


「しかし、今日はとにかく暑い。お地蔵さまもこんなところに立っていては大変じゃ」

「そうじゃのう、どうしたもんかいな」

 大笑いしたあと、村人と行商人は考えこんでしまった。


「わしが水をかけたのは、少しでも涼をとってもらいたくてな」

「そうじゃ、風を送るのでも涼をとってもらえるでないか」

「おや、何か案があるんかいな」

「これ、わしの商売道具なんじゃが、お地蔵さまの近くに立てれば、少しでも風があたるじゃろう」

 そういって、行商人は売りものが入った袋から六つのかざぐるまをとりだした。そしてお地蔵さまが立っている近くの土の中にひとつひとつ埋め込み、風があたるようにする。

 するとさっそく、かざぐるまがまわり出し、お地蔵さまに向けて風を送りはじめた。

「これはいいあんばいじゃ。きっとお地蔵さまも涼しいじゃろうて」

 こころなしか涼しそうにしているお地蔵さまを見て、村人と行商人はとても喜び、村人はまた川へ水をくみに、そして行商人は別の村へ行商に向かった。


 それからというもの、周辺の村々に不思議な声が聞こえてくるようになる。

「ありがとな」「助かったぞ」「暑さが防げそうじゃ」

 そんな声のほかに「この暑さも明日までじゃ」「この雨は夕方にはやむじゃろう」という声も聞こえてくる。村人たちは、お地蔵さまたちの声がかざぐるまの風にのって村に聞こえてくるのだろうとうわさしあった。

 以来、周辺の村々では、天候不順による作物の不作がなくなり、お地蔵さまのおかげだと思った村人たちは、かざぐるまが壊れたときは修理してまた立て、周辺の掃除も欠かさず、近くを通るときにはかならず手を合わせ感謝した。

 六体のお地蔵さまは村人たちから〈かざぐるまじぞう〉として親しまれ、ずっと大切にされたという。いまでも夏になると、周辺の山々をこえて不思議な声が響くことがあるそうな。

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