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『2021年』世界一周阻止  作者: 珍百景
第二連邦制フィリピン
4/4

第四世界へ感謝を



イースタシア、とりわけ日本列島では各勢力の緩衝地帯とされたタンジール、ブラザヴィル、ダーウィン、香港を頂点とする四辺形の領域を魔の四角地帯と呼ぶことが一般的だった。


イースタシア政府と東議会が健在時に列島中で行われた宣伝キャンペーン、所謂、国営放送・街頭演説・国営ラジオ・配給新聞・創作出版物・正式ポスター等では、頻繁に該当領域内でオセアニアとイースタシアを相手取り戦争が行われている体で刷り込みを行っていた。


因みにイースタシアはユーラシアとは陸路で衝突していたが、イースタシア側は空白地帯を挟んで国境線全てを要塞化することで封鎖し、対するユーラシア側は列車砲による核砲弾で威嚇していたため、この方面に関しては適当なミサイル報復による人口抑制と絵空事の空戦が入り混じるのが定番であった。



西太平洋 日本領小笠原諸島

硫黄島 港付近

2021年 5月12日


海岸線をなぞりながら長身の兵士は男を港に停泊するボートへと送り届けていた。


昨日いっぱいを医療処置や事前準備に費やした男が浮動要塞へ向かうためだ。


「あれはなんだ?」


波打ち際に木造の大型雲梯が置かれ、潮風にボロボロにされた死体が10体程度吊るされていた。


「教義警察の密告者やスパイさ。見つける度にあそこに吊るして射的練習で遊ぶんだ。10年前の決起の時には東議会の委員もあそこに吊るされてたな」


男が難しい顔をするのに長身の兵士はケラケラ笑った。


「こんなこと慣れっこだろ? 本土じゃ、議会が生きてた頃からの公開処刑かリンチがまだ続いてるそうじゃないか」


「政府は推奨してないし、国際承認のためにゆくゆくは完全廃止するつもりだ」


「染み付いて慣れ親しんだ習慣は消えやしない。これから新政府は刺激に飢えた群集をどう統率するのかで四苦八苦するだろうさ」


兵士の不思議と感情の籠った批判に男は思わず眉を顰める。


「随分突き放す言い方だな。海軍だっていずれは天道政府に合流して正式な国軍へ昇格されるだろ」


「俺はこれでも国を愛してるんだぜ。母親が教員で、議会の教訓やお言葉を毎日叩き込まれ、イースタシア政府への忠誠をしつこく誓わされたんだ」


「そうなのか」


「ああ、おたくの上司が俺についてとやかく言ったかもしれないが、そうなのさ。でも実際は母親は学舎でガキに密告を教えてたから俺にやられるのが怖くて言い募っただけだろうな。父親、これも腰抜けだ。味方のふりして母親を密告するように言含めてきたからな」


「したのか?」


「その代わりに兵士になったんだ。意外と才能があってね。ドジってユーラシアの捕虜になったが、列車が駅でゲリラの攻撃で遅延した隙に抜け出せたんだ」


「よくイースタシアに入れたな。万里の長城で普通は殺されるだろ? 生きてる英雄はいらない」


「もうユーラシアは寿命間近で難民がかなり密入国してたからな。懐かしきイースタシア政府も改革運動とかいう格好つけた大粛清でガタガタだったから、軍の給料も司令官のポケットマネーから出てた時代さ。国境を抜ける手引きをしてた連中は多かった。それに混じったのさ」


「帰国できたのにこの僻地か」


「自分は気に入ってるんだ。向こうで処刑されなかっただけマシだよ。それに勘が鋭くなってね、裏切り者を見つけるのも上手くなってた。ここじゃ重宝してる」


「私はどうだ?」


「まだ違う。でも裏切れる側だな。せいぜい注意することだ」


「ありがとう」


「礼はいいよ。生きてたらまた話したいだけさ。それと浮動要塞の内勤連中は信用するなよ。奴等の教義警察やスパイや密告屋嫌いは筋金入りだ。議会があった頃から事故死や行方不明で人間が消えてる。どうするか知ってるか? 頻繁に示威や訓練のために実弾演習やるだろ? 砲塔の真ん前に立たせて吹っ飛ばすそうだ。証拠は発射の燃焼でパアだし、破片は魚どもの餌になる。上には送り出したと報告し、あんたを消してもばれないんだ」


そう語る長身の兵士は無表情だったが目で笑っており、男がボートで浮動要塞に向かうのを楽しんでいるようだ。



工廠型浮動要塞 「海月級ダザイフ」


浮動要塞は一種の検問所のようにシーレーン切断に役立つ極めて先進的な発明だった。


工廠機能に特化するダザイフは優れた万能工場であると同時に軍港の機能もあった。


正八角形の柱体である建造物が海面に浮かんでいる。


その内部の港湾に横付けされた潜水艦を浸透員である男は見上げている。


「こいつももう老朽艦に入るんだ。よく頑張ってくれてるよ。もっとも、議会の頃はどれも現役でどれも退役だったがね」


話しかけてきたのは頬が痩せこけた中佐の階級章の軍人だった。


「本艦艇の艦長を務める満岡だ。貴官をルソン島東岸近隣へ送るように指示を受けた」


その後ろには中尉と水兵5人が佇んでいる。


「気になるだろうが構わんでくれ。久々の本土からの客人で神経質なのだ。それよりも荷物は何もないのかな?」


「はい。向こうで直接調達することになっているので身軽なもんです」


「通信機もなしか・・・ そうかね。いや、よしわかった。それなら直ぐに出航だ。4日間程度だが、君は浸透員だろうから慣れているね」


男が目が僅かに見開いたのを見逃す艦長ではない。


「かつてはオセアニア領内での隠密任務に従事していたから、偵察総局やら参謀本部やらの工作員を大勢扱ったのだ。雰囲気を隠せていないよ。危ないね」


前線兵士として対敵防諜ばかり行ったので、浸透員としての溶け込み方を男は忘れかけていた。


慣らし期間もなく、彼は樺太の基地から本部へいきなり呼び出されたのだ。


これから行く第四世界では明らかに歓迎されない人種だった。



1964年に各国首脳部が秘密裏に結んだ“消費保存条約”内で決定された永久戦争を行う魔の四角地帯は、オセアニア・ユーラシア・イースタシアに属さないことから自らを第四世界と定義した。


核戦争とその後の革命と粛清を経て産声をあげた超大国達は資本の概念を支配地域から全て消し去ることに専念した。


用済みになった資本達は60年代から70年代に魔の四角地帯の急速な経済成長と発展に帰依する。


植民地群は旧宗主国それ自体が無くなったため、独立戦争や革命や内戦は無意味となり、ただただ法外な富をスポンジのように吸収すれば良いだけだった。


超大国達が国外で行なっているとされた戦争は、同地域内の友好国の要請に準して行われる戦闘で傭兵のように振る舞うか、敵対国が余剰生産物と交換で買い付けた資源が支配地域内へ送り届けられるのを阻止するかの2択である。


ルールは簡単で、核開発と保有を企てることは厳禁、地域内の人・物資・情報媒体を超大国内へ送り出さないこと、違反者は核を撃ち込まれる、それだけ。


永久戦争は第四世界にとってボロい商売だったろうし、超大国にとっても支配のための権力維持には不可欠だったろう。


しかし現在は大型の納屋が倒壊し、有害な粉塵が撒き散らされたことで、魔の四角地帯は疑心暗鬼となっている。

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