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『2021年』世界一周阻止  作者: 珍百景
第二連邦制フィリピン
2/5

イースタシアの腫れ物



ユーラシア大陸極東部 日本列島

関東地方 東京近隣 調布飛行場

2021年 5月10日


硫黄島基地へ男を空輸する任務を帯びた機長は飛行計画の最終チェックを行いながら大人しく貨物室に座る男を観察した。


軍事基地への移送任務は何度もこなし、なんなら敵国捕虜でさえも運んだことがある50代のベテランだが、そんな彼女でさえ困惑する特徴の少ない風貌をその男はしていた。


10年前まで列島統治をイースタシア政府から委託されていた東議会の上級委員を彷彿とさせる顔付きだが、人口の大多数である労役者の様に浅黒く小汚い肌を持ち、軍人に似た小綺麗な肉付きだ。


保存食や予備部品が収納された貨物の隅に行儀良く体を押し込んでいると、彫像のような感じに見えなくもない。


離陸の時間になり機長は男に出発する旨を伝えると、彼は親指を立てて合図する。


どうやら必要ではない人間と会話する気はないようだ。


男にとって数日前の話である。


軍事偵察総局の本部は政府機能が収納されている首都圏に含まれ、八百万革命評議会の監督下に置かれている。


対外諜報組織として東議会に忠誠を誓い、宗主であるべきイースタシア政府に対しても、またその他の2大超大国とその係争地域にさえ触手を伸ばして、恐れられていた。


列島が東議会の統治から混乱へと滑り落ちる中で、議会残党が結集するイースタシア復帰政府から、決起した海軍閥との関連を疑われ合流を拒絶されたのだ。


「つまるところ、私達の立場は綱渡りのダンサーというわけだ。それも両端に棍棒で叩き落とそうとする部外者が待ち構えているね」


男の上司に当たる神経質でいて穏やかな笑みを絶やさない初老の男性が投げやりに言い放つ。


「評議会はなんといってるのです?」


「彼等は問題外だ。寧ろ私たちを歓迎している。数万の労役監督者の反発を抑えるのに、我々が提供した教義省の隠しアーカイブや資料保管場所の情報を早速有効活用している」


男は頷き首を傾げた。


「では何が問題です? 復帰政府か水産海軍は私の専門外ですよ」


「復帰政府を恐れる必要はない。教義省が列島に張り巡らしている密告監視網は依然として健在だが軍事と産業に乏しく、脱走者も相次いでいる。あてにしているイースタシアも日本海側を空と海の両方を封鎖されて手が出せない。遠からず権力闘争で分裂する。水産海軍はこれからの戦乱時代を切り抜けるのに私達を必要としている。ここだけの話、硫黄島会談の時に海外工作員の回収作戦を援護すると申し出てくれた」


声を顰めながら上司はチラリと部屋中央の天井を見る。


そこにぶら下がっているのはドリームライトと呼ばれる監視装置だった。


変哲の無い棒に大型電球が付いているだけの形状だが、全方位カメラ・収音マイクの機能があり議会が倒れる前には、中級・下級委員や委員補佐や補助職員の自宅や職場にも敷設されている。


街中でも郊外や田舎でさえも街灯や電柱に偽装して気の遠くなる数が設置されていた。


議会崩壊に伴い、ドリームライトの大半が破壊されるかリサイクルされるか運用網から切り離されるかの処置が行われ、今回の場合では一番後者である。


イースタシア大陸領土では恒常的に設置数が不足していたらしいが、この列島は旧宗主政府の機密指定エリアであるためそんな甘い処置は取られず、しかし監視権限は現地政府が優位であるため、長らく腫れ物扱いであった。


「浸透員7011号、君の任務は旅行代理店の排除だ」


「旅行代理店とは・・・ 越境或いは密入国業者のことでしょうか?」


「一種の例えだね。正確には、反列島思想を持った国外人のことだ。この10年で日本に入り込もうとする外国人は随分増えた。当然だ。資源を自前で用意出来ないくせに、何処の勢力も挙って利益を総取りしようと目論んだ結果、外国の言い値で国内資産を売り払い、外国人居留地までも拵えさせられる事態に発展した」


「イースタシア時代に人間の移動を禁じられていましたから、やむを得ないかと」


「ああ、今は自由で開かれた時代になったからね。問題は押し寄せた連中の大半が列島に良い感情を持っていなかったことだ。天道政府が結成されて最初にやったのは江戸時代の鎖国だ。しかし、この行為で随分と周辺に敵意を抱かせてしまった。無知で愚かな国内の開国主義者も問題だが、それ以上に活発に反列島活動を行う集団が国外で次々と勢いを増している」


「旧オセアニア・ユーラシア・イースタシアの残党も噛んでいるとの噂があります」


「さっさと滅べばいいのにしぶとくて困る。魔の四角地帯に逃亡した連中もいるからな。君が対処するのは追跡困難な地域で活動していると思われる者達だ。7011号、君はその周辺に詳しいだろう?」


「勿論です。浸透員ですから。しかし私は以前に背任行為で投獄されています」


「知っている。チームの1人がイースタシア総統政府の二重スパイだと気付き密告したね。しかし、教義警察はチーム全員を隔離した。君は唯一の生還者だ。身の潔白を証明出来たただ1人の真の愛国者だ」


「以後は浸透任務には携われなくなりました」


「そう。前線での対敵防諜に回された。しかし、君が赴任した区域では飛躍的にネズミ狩りの精度と確度が上がっている。少なくとも我々偵察総局の統計ではそうだ」


「期間はどのくらいになりますか?」


「例のハワイ会議が開かれるまでの半年間だ。我が国を開国、いや簒奪しようと涎を垂らす連中の集まりだ。同時に、天道政府にとっても今後の国策の岐路でもある。邪魔になるような不穏分子は潰しておきたいのだ」


「承知しました。いつから始めますか?」


「明日からだ。調布飛行場から昼過ぎの便で硫黄島へ飛んでもらう。そこで詳しい対象の説明を受け、すぐに従事して貰う。分かってると思うが、基地内では丁重な態度でな。軍機構との確執はまだ残っている」


「イースタシアと決別してから、少なく無い数の列島民が国外へ流出しています。対象者がその当事者或いは集団に紛れ込んでいた場合の扱いはどうなります?」


「議会時代ならあり得ないし、認知も存在も消されるのだが・・・ 時代は変わった。ああ、そういった集団のことは知っている。だが何も変わらんよ。天道政府の公式見解は列島に内包された民が臣民であり国民だ。私達はそんな同胞を持った覚えはない。成功の有無に関わらず、何をしようが自由だ。さて、質問は以上かな? それでは現地へ行きたまえ。世界が待っているよ」


硫黄島へ飛ぶ飛行機の中で思い返しながら男は考える。


敵地真っ只中での任務は通常、チームで行うのが鉄則だ。


いや、通常外任務だった。


自分の経歴のような奴を単独で装備も恵まずに送り出すということは、忠誠心テストであり鉄砲玉でもあり、対象相手への嫌がらせも兼ねている。


他国や前線に送られる工作員は自身を含めて全員が常に判定されている。


不穏分子同士を天秤に掛けるのを旧議会は好んだが、そんな政府はとっくに潰れている。


完成されたシステムは必ず何処かの誰かに踏襲されるのだろう。

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