惑星争奪戦(ショートショート)
惑星争奪戦
「ちくしょう、出遅れた」
宇宙船に乗ったスヒント星人の一行は、とある惑星の軌道上で地団駄を踏んだ。現在は宇宙開拓の盛んな時代であり、所有権の定まっていない惑星を探し出し、自由に我がものと出来るのだ。
ただ、惑星なら何でも良いというわけではない。その星に埋蔵されている資源や、既に発生している生物の質などが考慮される。特に未分化の知的生命体が存在する惑星は貴重であり、様々な宇宙人たちの争奪戦となっていた。
そういった惑星の場合、条約によって、武力で制圧する事は許されていない。その惑星で一番優れている知的生命体を、思想により取り込まなければいけないのだ。当然、早く生命体たちに取り入った方が有利となる。
「隊長、既に多くの星の開発隊が、この惑星の知的生命体をたらし込んでいます。オツシリック星人は翼の生えたロボットたちを地上に遣わし、母星のシンボルである十字の形をしたアイテムを配っているようです」
慌てたように、隊員が報告する。
「それだけではありません。オッキュブ星人たちも、厳しい修行に耐えれば、自分達と同じ高みの存在に成れると吹聴しています!」
別の隊員も、切羽詰まったように叫んだ。
「では、我々の入り込む余地は、既にないというのか?」
様々な宇宙人たちが、この惑星のあちらこちらに勢力を伸ばしている事を知り、隊長が絶望的な声をあげる。
「いえ、こうなったら、我々で新たな土地を作ってそこに民を呼び込みましょう」
「そうです。それしかありません」
二人の隊員が、進言した。
「うむ、狭い土地しか作れんが、もはやそうするしかあるまい」
隊長は決断し、その男女の提案を受け入れた。
「では、お前たち二人に任せる。宇宙船の装備は、自由に使って良いぞ」
命を受けた二人のスヒント星人は、宇宙船の下部より長い長い鉾のようなものを伸ばし、それを惑星の海へと差し入れる。
コントロール・アームを握った二人が、意を決し「いざ!」と声を上げると、長い鉾は海をかき混ぜ、やがてそこには小さな島が出来た。これはスヒント星の科学の一つで、新しい土地を発生させる技術なのだ。
「よし、最初の取っ掛かりは成功だ」
スヒント星人ナギとナミの二人は早速その島へと降り立ち、既に勝ち目の薄い惑星争奪戦への第一歩を踏み出した。
「……変な夢を見たなぁ」
昨晩の深酒のおかげで頭がガンガンする俺は、頭痛薬を取りに、二階の寝室からダイニングルームへと降りていく。
「早くしないと会社に遅れるわよ。ほら、これ飲んでいきなさい」
息子の事なら何でもわかるとばかりに、母親が頭痛薬を差し出した。
「あ、もうこんな時間か。やっべぇ!」
薬を水なしでゴクリと飲みこんだ俺は、慌ててトーストをかっこんだ。
部屋へ戻ろうとする俺に、
「ちゃんと神様に、朝の挨拶をしていくのよ」
と、母親が指図をする。
俺は返事もせずに、しぶしぶ居間の片隅に奉じてある神棚に柏手を二回打った。
「あ~、うちは何で神道なんだろう。キリスト教や、せめて仏教だったら良かったのになぁ」
世界的にマイナーな宗教である神道を、俺は余り好きではない。取引先の外国人に説明する際、結構面倒なのだ。
その時、神棚から何か聞こえたような気がしたが、どうせ二日酔いによる幻聴だろうと、俺は自室への階段を駆け上がった。
【終わり】