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転生したので狂信します外伝:『夜神夕子の友達100人計画』  作者: 枝無つづく


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第8話 女神の隠れ家

 今日は二話同時投稿です。




side 夜神夕子


 これは、千里先生から聞いたお話。

 『戦後英雄プロダクション』には、あの奥田りりこさんのいた牧場と同じような『関連施設』が、私たちの生活する区画の外にもいくつもあるらしい。


 というよりも、もっと正確に言えばそういった『関係者の経営する施設』の間での協力関係を円滑にするための中心として造られたのが私たちの寮や学校も含まれる『本社区画』なのだとか。

 元々、ピークドットでは昔から街ぐるみで転生者を集めてその能力を効率よく公共の利益に繋げようという試みが実践されていたそうなのだけれど……



「少し前まで、『転生者同士のコミュニティ』っていうのはそれだけで文化的に独立した勢力ができかねないってことでそれとなく禁止されてたんだよね。でも、いろいろあって『転生者が孤立していると社会に馴染めずに犯罪やテロに走る危険性が高まるんじゃないか』って話になって、実験的に転生者中心のコミュニティを作ろうってことでその運営を任されたのが社長サマって感じ」


「……改めて考えると、戦英プロの構造って一歩間違えれば私がいた独立軍の再来じゃありませんこと? それを任されるなんて、社長サマはやっぱりすごい人なんですわね……」


「まあ、実際には任されたと言うよりも実績と強力な後ろ盾のおかげで無理を言ってやらせてもらってるって方が近いけど」


 学校を終えた放課後。

 今日はレイさんに会いに行った時と同じように『初期対応部』としての活動をお休みしてのシックスさんとの外出。

 例のごとく変装をした私を連れて、今回はピークドットの都市内ではなくアビスの箱庭を通って転移した先は、『ラタ市』という街。


 なんでも、近年石油が発掘されたとか、社長サマの偉業認定から自治領扱いされていて近々女神ディーレ信仰の聖地として正式に認められる予定だとかで、成長途中の活気が感じられる街並み。

 そんな中、シックスさんが私を連れてきたのは大通りを少し外れた裏道にある商店でしたわ。


「やっほー、視察に来たよー。ジャネットちゃん、客入りはどう?」


「いらっしゃい、シックスさん。お客さんは……あはは、まあボチボチです。いえ、まだあんまりお客さんが入り過ぎても困るからちょうど良いくらいなんですけど、やっぱり大通りのお店は羨ましいですね……あ、夕子さん。退院したんでしたね、久しぶり……って、私のことは憶えてる?」


「聖女様……ジャンヌさん、ですわよね?」


「まあ、うん、そうではあるんだけど、ちょっと呼び方は変えてほしいかなって……ほら、私の顔って変な形で世間に広まっちゃったし。シエスタさんたちが写真使って違う人の顔を定着させてくれてはいるけど、まだちょっと危ないからさ」


 ひっそりとした隠れ家のような商店でエプロンをして商品の整理をしていたのは、私もあの砦で話したことのある聖女様……ジャンヌ、いえ、シックスさんの呼び方に合わせるならジャネットさんでしたわ。


 私たち以上にあの独立軍の錦の御旗として不本意に知名度を上げられてしまった立場であるだけに、大通りに店を構えるわけにはいかないからここに店を開いているということでしょうけど……


「ママー、戦英プロからのお客さん?」


「うん、ちょっと奥のお菓子持ってきてくれる?」


「わかったー」


 額に傷のある店員さんとの会話。

 さらっとすごいワードが流れていきましたけど……


「ジャ、ジャネットさん……? あ、あなた、ママって、もしかして子持ちで……それも、あんな大きな娘さんが……? 私よりも歳上に見えるのですけど、そうだとするとジャネットさんは……いえ、確かにあんな立場に祀り上げられて落ち着いているというか達観しているような気はしていましたけど、てっきり同年代かと思い込んでいて……」


「あ、いや、ちゃんと同年代だからね? これはちょっと私の中の神様の事情というか、アンナは特別だから気にしないでね?」


 なにやら複雑な事情があるらしくすぐに訂正して来るジャネットさん。

 そういえば、社長サマも種族的に血が繋がってなさそうなニドラさんやトマルさん、それに軍の正規勇者だったノンさんを自分の娘のように扱っていましたわね。

 この世界では『母親』という概念が単なる血縁だけを意味するものではないのかもしれませんわね。


 しかし、それはそれとして……


「ジャネットさん……今はお店をやっていますのね。確か、前は馬車で旅商人をしていたと言っていましたが……出世、ということでいいのでしょうか?」


「あははっ、今はまだ戦英プロの支部を兼ねた施設の管理ついでに小物屋さんをやらせてもらってるだけだけどね。ほら、いろいろあって気軽に旅商人を続けるわけにもいかなくなっちゃったから。アンナも護衛みたいな感じでいてくれてる部分はあるし」


「そうそう、その話だけど、事前に連絡しておいたセキュリティの方は大丈夫そう?」


「はい、シックスさんの指定した通りにセッティングしてあります。けど……もし、これですり抜けられたとしたら」


「うん、確定でいいと思う。とりあえず、しばらくはこのままの設定で……」


 戦英プロの大人組として何やら難しい話を始めるシックスさんとジャネットさん。

 同年代であったとしても、元々商人として一人前に自活できていたジャネットさんは私よりも充分に『大人』ということなのでしょう。


 しかし……


「クンクン、うーん……やっぱり、少し違うかな?」


「あの、アンナさん? 私、もしかして臭いますの?」


「うーん、臭うっていうか……処女臭い?」


「しょっ!? いきなりなんてこと言いますの!?」


「あ、臭くなったってことじゃないよ。なんか前に会った時と『違う』ってだけ。前の感じだとちょっと難しそうだったけど今はユニコーンに乗せてもらえそうな感じになったね、不思議。穢れを清める儀式とか頑張った?」


「そもそも穢れた憶えがありませんけど!?」


 いえ、そもそも長期間の記憶喪失なので自分の身の清さに自信が持てないのですけど。

 私、まさか知らない間に大人の階段登ったりしてませんわよね?

 もしそうだとして、私にはあまり親密な異性なんていませんし相手の殿方に全く心当たりがな……


「……レイさん……じゃ、ないですわよね? 確かに同じ部屋で生活してはいましたけど、まさか私が寝ている間にとか……いえ、落ち着きなさい夜神夕子。別に穢れた匂いがついたというわけではなくむしろ清い身体になったと言われてもそんなふうに変化するなんてありえませんしきっと前の時はなんらかの事情で変な匂いがついてしまっていただけで私は元から清い身体だったはず……」


「夜神さん、なんかブツブツ言いながらすごい考え込んでるけどどうしたの?」


「んー? 悩みでもあるんじゃない?」


「悩み……あー、そうだった。その件も早めに済ませちゃおっか。夜神さーん、カムバックー。現実に戻ってきてー」


「はっ! そうですわ! 今夜は一応おヘソをしっかり洗っておくことにしますわ!」


「いや、うん? おヘソを綺麗にしたいなら綺麗にすればいいと思うけど、やりすぎるとお腹痛くなるから気を付けてね。って、そうじゃなくて『守護者』の話」


「はっ! そうでしたわ! それがここに来た本来の目的……だったと思いますけど、なんでこのお店なのかまだ聞いてませんでしたわ」


「うん、言ってないからね〜。ということで、初公開。はい、こちらアンナさん」


「はい!」


「この人、こう見えても世界有数というか、私が知る限り現役中最古参のベテラン転生者だから。たぶん、今生きてる範囲でならこの世界で一番たくさんの転生者と戦ってるし、一番たくさんの転生者を見てきてるからね。『守護者使い』についても詳しいと思って」


「な、なるほど……人は見た目によりませんわね」


 振る舞いはむしろ外見年齢に対して幼児退行気味に見えるくらいですけれど。

 いえ、それはともかくとして……


「では、その……アンナさん? 私が『不明』を制御できなくなってしまったのを解決できますの?」


「うーん、とりあえずどんな感じか見せてみてくれる?」


「は、はい……制御できる範囲だけなので、本当に少しだけなら……」


 手の平から湧き出す『不明』。

 以前は蓬さんの火焔の魔人とも渡り合えた能力も、今では暴走を恐れずに使える範囲で出力を絞ると人差し指程度。

 とても戦いには使えませんわ。


「なるほど……これ、動いてなくても触ったら怪我するやつ?」


「はい、発光しているもの以外が触れると呑み込まれてしまうので物を運んだりとかにも使えな……」


「えいっ」


 突然のこと。

 アンナさんが私の手をさっと自分の両手で掴むと、そのまま私が『不明』を操作する間もなく握り拳を作らせて……


「ちょ待っ!? そんなことをしたら……」


「指、なくなっちゃうかもって思った? けど、『守護者』は使う人を守るものだから、いくら制御できてなくてもわざとそうしようとしなかったら夕子ちゃんの身体を傷付けたりはしないよ?」


「はぁ、はぁ、だとしても、心臓に悪いことをしないでくださる? 私の前世での死因、心臓の病気ですのよ?」


「ならむしろ今の心臓は普通の人より健康な新品だと思うけど……夕子ちゃん、この守護者は触れたものを勝手に呑み込んじゃって抉ったり消したりしちゃうから使いにくいって思ってる?」


「はい、そうですけれど……」


「でもこれ、触れたものを消さないようにもできるはずだよ。そういうふうにできない『守護者』って見たことないし。夕子ちゃんの場合、制御できないっていうよりも制御できるって自信がない感じ?」


「自信の問題……なのでしょうか?」


 自信の問題。

 つまりは、私自身の問題。


 実際、触れたものをなんでも燃やしてしまう守護者になってもおかしくないはずの蓬さんの『魔人』も守るべきものや無傷で運びたいものは熱を伝えずに触れることができるわけですし。

 蓬さんにできることが私にできないというのは私の努力の問題ということになるのかもしれませんけど……


「……ダメですわ。『不明』で物を傷付けずに動かしたりするイメージができる気がまるでしませんわ」


 そういうイメージをするには、私は『不明』を武器として、危険物として使いすぎた。

 繊細な扱いなんて考えずにただただ指定された敵を傷付ければいいという戦場に担ぎ出されて、言われるがまま能力を振り回して、人や物が『不明』に呑まれる姿をあまりに見過ぎてしまった。

 今更、そのイメージを捨てるだなんて……


「そっかー。あ、じゃあこれならどうかな? 大戦のとき、『毒ガス』の守護者使いの人がいてね。その人がやってた方法。『毒ガス』は元々見えないし防ぎにくいから強かったけど、本体を守ったり物を動かしたりが苦手だったからこうしてたの。ちょっと待っててね」


 そう言って、アンナさんが店の奥から取ってきたのは……何かの作業用の長手袋。

 アンナさんはそれの穴を私の方に広げて内側を見せるようにして来ましたわ。


「これにその守護者を入れて、中から動かしてみて。最初は本物の手と同じように、慣れれば三本目の手みたいにできると思うよ?」


「い、いえ、しかし! 『不明』が手袋に触れてしまえば内側から呑み込んで破ってしまうだけで……」


「じゃあ……ママ! ちょっと『祝福』してくれる? この手袋に!」


「え……あー、なるほど。そういうことだね、わかった。夕子さん、憶えてるかわからないけど、私の祝福がかかってるものなら夕子さんの守護者にも呑まれないから安心してやってみて」


 そう言いながらジャネットさんが触れた手袋に宿る『祝福』の光。

 魔法の光を信じて、手袋の中を『不明』で満たすと……


「あっ、本当に……制御、できてる気がしますわ」


 言われたとおりに、自分の手と同じ動きをする手袋をイメージすると、その通りに指が動く。

 さっきまでは指一本分までしか制御できていなかったのに。

 少なくとも、指五本分以上……手袋を満たす分の守護者を制御できている。

 これだけで、大きな進歩ですわ。


「うん、いい感じだね。それじゃ、ちょっとそのまま目を瞑って十秒数えてみてくれる? 指を使って」


「動きの訓練ですの? 自分の手を見ずにイメージ通りの動きをさせると。まあ、十秒数えるくらいならできるとは思いますけど……」


 言われた通りに目を閉じて、指を折りながら五つ数えて、折り返しで指を伸ばしながらさらに五つ数えて十秒。

 自分自身の手を動かしているのを意識しながら、『不明』にも同じ動きをさせるイメージで……


「八、九……十秒。はい、ちゃんとできたかしら?」


「うん。ところで、これを見て何か気付かない?」


 指差された手袋。

 それは、私の本物の手と連動するように動いている以外は何の変哲もない、道に転がっていたら単なる落とし物かと思うようなもので……?


「あら? 『祝福』の光は?」


「夕子ちゃんが五秒数えた辺りでもう消えてたよ?」


「え?」


「ほら、壊そうと思わなければ壊れないでしょ? 毒ガスの人も、触れたら溶けちゃうガスを気球とか袋に入れたら他の守護者みたいに物を動かしたり空を飛んだりするのに使えるようになってたから」


 ……なんだか、知らない内に自転車を押す手を離されていたような感覚ですわ。


 いえ、よく考えたら小学生に入る前に自転車の練習をしていた頃、急にお祖母様が脳卒中で倒れてから自転車の練習も途中でうやむやになってしまって補助輪なしで走れた記憶が数回しかないのですけども……。


 けれど、とにかくそんな『知らない内にできてしまっていた』という感覚で、守護者の制御に成功してしまっていたのは事実。

 確かに今の私は発光しているわけでもない手袋の中に『不明』を満たして自分自身の手のように動かせている。

 これなら、私がずっと抱いていた『私の転生特典は戦闘くらいにしか使えない』という考えも改める必要があるわけで……


「やったね夜神さん! じゃあ、これからは容れ物に入れた守護者を動かす方針でいろいろ考えてみよっか。あと、レイさんが言ってたみたいにポイントを使ってスキルを伸ばして『容れ物を壊さないように動かす』って段階だけでも飛ばせば練習も安心してできるし……」


 と、シックスさんがそこまで言ったところで。



 『グラリ』と、私のすぐ傍の商品棚が大きく揺れましたわ。

 そして、それは目の前のシックスさんへ向かって……



「ママ。予定通りに釣れたね」


 ピンと、まるで糸に吊られるように傾いたまま止まる商品棚。

 その中の商品も、棚の正面に張られた見えない網に止められるように棚から飛び出すことなく静止して……


「『大気(ラフィー)』! 捕まえて!」


 ジャネットさんが叫ぶと同時に店内に吹き荒れる暴風。

 それは、私を空中に巻き上げて……いえ、私の足を掴んで靴の裏側を引っ張り上げるようにしたかと思えば……


 『シュッ』っと、そこから外に飛び出していく何かとそれを追う暴風。


「きゃっ!?」

「おっと!」


 巨人の手のような風の拘束から解放された私をキャッチしたのはシックスさん。

 彼女は今の一連のイベントが起こることを最初からわかっていたかのように落ち着いた様子で『何か』が暴風に追い立てられながら飛び出していった外を見遣っていましたわ。


「なるほどね、認識操作系じゃなくてあのレベルまで縮小できるタイプの変身能力なら生体感知系の結界にもなかなか引っかからないわけだ。変身というよりも変形かもだけど」


「あ、あの、シックスさん? 今のは……?」


「うん、ごめん。実は今回の外出は今のやつを釣るための囮作戦だったんだ。この前のシィさんの研究所での動きで、あっちが夕子ちゃんに執着してるっぽい感じはしてたから。今回も夕子ちゃんに疑いがかかるような『悪戯』を仕掛けてくるかもって、事前にジャネットちゃんたちに備えててもらったんだ」


「それじゃあ……この前の研究所の件も、今のあれが?」


 蓬さんが学校で言っていたこと。

 実験試料や棚の中の物が消失したのが『謎現象』であるのなら、それは私がやった可能性だけはないということ。

 何故なら、シックスさんやレイさんたちは私の能力の危険度を知っているから……私がどんなに安定しているように見えても、急に暴走したらいつでも対処できるように私の一挙手一投足に警戒してくれているから。


 だからこそ……逆説的に。

 私自身が本当に何もしていなくて、私の仕草や動きに一挙手一投足とも表現できない範囲の影響しか与えない形態で私にくっついている『何か』が悪さをしていれば。

 それは、警戒対象となっている私を隠れ蓑とした完全犯罪になる。


「自分のせいだとか思わないでいいからね。あんまり余計な心配をさせたくなかったから夜神さんたちには殊更に注意しては来なかったんだけどさ……実はずっと前から、なんの恨みかはわからないけど『戦英プロ(うち)』に変な能力を使って嫌がらせをしてる奴がいるっぽいって話はあったんだ。やり方から隠密性の高いタイプの転生者じゃないかって推測はできてたんだけど……今回のことでようやく尻尾が掴めた」


 シックスさんは、目にも止まらぬ速度で逃げ去った何かを睨むように夕空へ視線を向けながら言いましたわ。


「もうあんなのに好き勝手はさせないよ。私たちのことを好きになれないのはしょうがないかもしれないけど、だからってまだ迷い道の途中にいる子に自分を疑わせるような嫌がらせをするのは許されないことだから」


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