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転生したので狂信します外伝:『夜神夕子の友達100人計画』  作者: 枝無つづく


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第7話 『やさしい世界』

side 夜神夕子


 『「転生特典の強さ=転生者」じゃない』。


 転生特典が『銃のようなもの』だと言うのなら、銃を持った人の強さがそのまま銃の強さになるわけじゃないのと同じように。


 それは、凄腕のガンマンと素人で撃ち合えば同じ銃でも明確に差が出るように、その力を上手く扱えるかで実力差が生まれる……というだけの話じゃなく、『銃を持ったからといって人間的に強い(すごい)人になれるわけじゃない』という意味でもある。


 たとえば、『剣道三倍段』というような言葉もあるけれど、かといって無刀の格闘技の達人よりも剣術の達人の方が『人間的にすごい人』として尊敬されるわけではないように。


 たとえ、銃でも剣でもない『世界に唯一無二の自分専用武器』があったとして、手にしたそれが強いからどんな振る舞いをしようと関係なく人間として尊敬される、なんてことはない。

 戦場ではそうやって持て囃されて戦いに乗り気になってくれた方が周りがそう振る舞うとしても、それはどちらかと言えば感情よりも合理の話。

 実際の『人間としての凄味(すごみ)』を感じさせるのは努力や経験の積み重ねから生まれる厚みや深さを持つ人間だけ。


 それは、そのまま私たち転生者にも言える話で……




「はあ、はあ、はあ……あの、美森教官?」


「ん? 何か質問かな、夕子ちゃん」


「美森教官の転生特典って、何系の、なんでしたっけ……?」


「変身系能力の『魔法少女』だけど、なんで今?」


「……能力、使ってないですわよね?」


「うん、今日はベルシィもノンも仕事でいないから、私が変身するのは蓬ちゃんとかリーナちゃんたちが巨大戦始めたらって約束したからね。今日の白兵戦で使ったのは全部、みんなでも練習すれば同じようにやれる範囲の技術だけだよ?」


「…………チートですわぁ」


 バタリ。

 今日の日付は、レイさんの研究所へ行った日の翌日。


 今日も今日とて蓬さんに手を引かれて登校した学校にて、午前の授業は私にとっては初めての『護身術』の授業。


 私たちにとっての『先生』としてそれぞれが別の仕事をしながらも時間を作って授業を付けに来てくれているのは三人。

 初日の『知見』の授業で顔を合わせたシエスタ先生に、先生たちの中で私たちの生活指導の責任を受け持つ千里先生……そして、『護身術』の美森教官。


 今日は初参加の私に授業内容を理解させるために一番わかりやすい方式を取るという話でしたけど……それがまさか、『クラスの全員で美森教官に挑んでコテンパンにされる』なんてものだとは。


 他の皆さんは美森教官のしごきにも慣れているのか、もう息を整えてシャワーを浴びに行ってしまいましたけど、私はまだ立てそうにありませんわ。


「言っておくけど、別に勝ちたければ頑張って勝っていいんだぞー。ほら、お互いにケガをしないように非殺傷加工した『安全な武器』を配ってあるのもそのためなんだし」


「『人間が数メートル吹っ飛ぶハリセン』が安全かどうかは疑問ですわ……」


「非殺傷化ついでに強化用の魔法も込めて威力上げてはいるけど、吹っ飛ばす相手とか方向とかは選んでやってるからね。さすがに神器とか転生特典の効果じゃないから二次被害の方は非殺傷化範囲外だし」


「魔法……そういえば、転生者って普通に魔法も修得できるのでしたね……なんか、転生特典が使える分そういう技は憶えられないイメージがありましたわ……」


「まあ、戦闘系の転生者なら多少魔法が使えても能力の方が使いやすいってなる方が多いからね。使う機会がなければ憶える機会も伸ばす機会もないし」


「そう言う美森教官はバリバリの戦闘系能力だったと思うのですけれど……そんなに才能があり余っていましたの?」


「いやー、そうでもないよ? 私の場合は特に才能があったわけじゃないというか、いろんなスキルの指導を受けられるお金と人脈と頑張るモチベーションが揃ってただけっていうか……能力頼りでやってた頃にそのせいで助けられなかった子がいて後悔したってだけだし」


「…………」


「夕子ちゃんが魔法も使ってみたいなら、そう難しくはないから教えようか? 基本の指先に小さな明かりを灯す魔法なら、ちゃんとした経験者が教えれば指パッチンと同じくらいの難易度で誰でも修得できるし」


「……いいんですの? そんな簡単に、新しい技術を教えてもらえるなんて」


「むしろ、戦英プロじゃ推奨してるくらいだよ。なんなら、ペリカンコインを払えば他のスキルでも指導員を呼んでもらって弟子入りしたりもできるし。社長サマがノギアスにコネあるから安く人材派遣も頼めるし、新しい事ができるようになれば新しい世界が見えるからってさ」


「……私が新しい事を『できてしまう』ようになるのは、いいことなのでしょうか……いえ……きっと……」


 最後これは、美森教官に向けたものではなく自問自答の呟き。

 それも、ネガティブな答えが出てしまいそうな問いかけに答えを出すのを恐れて途中で止まってしまった中途半端な思考の漏れ出したもの。


 今の私は、自分が信じられなくて……自分が真っ直ぐ歩けるかどうかすら信じられなくて、そのせいでどんな形であっても『進むこと』が怖いのだろうと思う。

 それが独り言の自問自答に答えを出すというだけのことであっても、怖くて仕方がない。




 昨日の怪奇現象。

 実験装置の中、それに棚の中。

 私が近付いただけで、いつの間にか『中身』の消えていた密室。


 正直に言ってしまえば……私には、それが『できてしまう』。

 やろうと思った憶えは全くないけれど、やろうと思えばきっとできてしまう能力がある。


 今の私には意図してそんな精密動作を制御できる自信はないけれど。

 装置の扉や棚の隙間から薄くした『不明』の触手を滑り込ませて中のものを呑み込めば、それだけで同じ状況になる。

 証拠は残らないし、私自身が装置や棚に触れられる位置なら他の誰にも気付かれることなくできてしまう。


 誰かに状況証拠から考えて私がそうやって物を消したのだろうと言われれば、やっていない証拠は『私はそんなことをやろうとした憶えはない』という容疑者の証言だけ。


 もしかしたら、今だって別にその証言を信じてもらえてるわけではないのかもしれないけれど。


 レイさんも夢川さんも、私が守護者を制御できなくなっているのは知っているから、故意にそういうことはできないし、仮に故意ではなく単なる暴発で迷惑をかけてしまっただけなら必要以上に責める必要はないと見逃してくれたのかもしれないけれど。


 もしも、これで私がまた守護者を使えるようになってしまったら……その後で、何かが消えるはずのない場所から消えるようなことが起きてしまったのなら。

 その時の私が『そんなことをやろうとした憶えはない』と言っても、信じてもらえないかもしれない。


 もしそれが、転生特典じゃなく、ほんの小さな種火を灯すような魔法だったとしても。

 それで原因のわからない火事が起きてしまった時に、私がたまたまその近くにいて、道具も何もなくても火がつけられる魔法を使えてしまったら……

 

 そう思うと、疑問に思ってしまう。

 私のような、そもそも人としてちゃんとしていない部類の人間にとって『新しい事ができるようになる』というのが良いことなのか。



「『新しい事ができるようになること』は良いことだと思うよ? そのために大人組が私たちの自由に責任持ってくれてるんだし」



 午後の基礎教養の時間。

 学習ゲームの合間の休憩にポツリとこぼした言葉に答えてくれたのは、隣でゲームを進めている蓬さん。

 彼女は、片手間でゲームを進めつつ、私の方へ視線を向けて言った。


「なんかずっと悩んでるっぽい匂いしてると思ったら、そんなこと悩んでたんだ。あれでしょ、レイさんの研究所で起きたって謎現象」


「……学校では誰も聞いてこないので誰も知らないものと思っていましたわ」


「私は一応、夕子のサポーターだからね。それに、夕子がホントにヤバい暴走した時には止めなきゃいけないポジションでもあるし。そりゃ、そういう話もこっちまで来るし、それが元で夕子に何かあった時のためにちゃんと見てなきゃだしね」


「なら……蓬さんは、どう思いますの? やはり、研究所の物を消したのは私の『不明』だと?」


 きっと、肯定されると、私が悪いと突きつけられると思って自分なりに心構えをしてからそう尋ねました。

 確か、蓬さんも転生してきたばかりの頃は守護者を上手く制御できずに周囲に被害を出していたという話でしたし……きっと、そういう悩みの先人として自分と向き合うべきだというようなことを言われると。

 けれど……


「いやー……それはないと思うよ? 他に誰もいない時ならまだしも、シックスさんとかレイさんの目の前でって話なら特に。それに、あのマサくんのお姉さんもいたならなおさら」


「それは……どういう意味ですの? それに、その夢川さんがすぐに能力で周囲一帯を調べてみたけれど逃げたり隠れている人も、消えたものも、それが隠せるような場所も、見当たらなかったと。それならもう……」


「まあ、確かに物が消えてることに関しては何かが起きたんだとは思うけどさ。その原因が夕子ちゃんってことはほぼ100%ないと思ってるよ、私は」


「なんで、そんなふうに……」


 私が守護者を制御できなくなっていることを実際に荒れ狂う『不明』に触れて受け止めてくれた蓬さんが信じてくれているのはわかる。

 けれど、だからといって私が原因で物が消えたというのがありえないと断言されるのは話が別のはず。


 けれど、蓬さんは当然のように言葉を返しましたわ。


「だってさ……こんなこと、傍迷惑な炎の守護者でやらかしまくってた私が言うと『お前が言うな』って話になるのはわかってて敢えて言うけどさ、戦英プロのみんなは……特に大人組は、夕子の能力が『他の誰よりも危ない』っていうのはよく知ってるし、その夕子が能力を制御不能になってるとか本気でやばい事態だって認識してるはずだからね」


「…………」


「だからこそ、夕子が能力の暴走なり暴発なりを起こしたならすぐに対処できるように、小さな異常も絶対に見逃さないように警戒し続けてたはずだよ。そうは見えないように態度には出さないようにしてただろうけど。だから、物が消えたのが『謎現象』である以上は、それが夕子のやらかしって可能性だけは逆説的に絶対ないと思う」


 私は無警戒に放置しておけるほど信用されてはいない。

 それは……確かに、逆説的に信じられる理屈ではありました。

 けれど……


「……だとしたら、物が消えたのは?」


「うーん……まだ見ぬ未知の転生者の仕業とか?」


「そんなことを言い出したら何でもありになっちゃいますわ……」


「いやー、確かに推理小説とかなら『犯人は無関係の第三者でしかもトリックなしでそういうことができる超能力者でした』なんてオチは通らないかもしれないけどさ……別にこの世界、推理小説の世界ってわけじゃないし。実際、偶にある案件だよ? 社長サマの初めての事件もそういう感じだったらしいし……まあ、あの人の場合、それを真犯人が自分に接触してくる前から看破して能力まで完全に見破って対策万全にしてからその転生者のアジトに殴り込みかけて倒したらしいけど」


「そこまで行くとファンタジー小説でも許されない展開だと思いますわ」


「しかも、その転生者が自分を狙ってるって思ったキッカケの最初の爆発が単なる事故だったらしくて、その転生者からしたらまだちゃんと攻撃を仕掛ける前の準備中にいきなり自分の能力まで完全看破して対策済みの社長サマが襲撃してきた感じになってたとか……」


「それはもう完全にギャグの部類ですの……」


「あ、ちなみにその時の話を詳しく聞きたかったらリーナに聞くといいよ。リーナはその時の転生者の側近だったけど不意打ちで瞬殺された第一四天王ポジションだったらしいから」


「えぇ……」


 レイさんの話といい、大人組のすごい話を聞くと大体この教室に関係者がいるのはなんなんですの?

 いえ、そもそもこの学校そのものがそういう『わけありの人間』を集めて保護してるような施設らしいので必然なのかもしれませんけども。


「まあ、話を戻すけどさ……夕子は自分が何かをできるようになるのが良いことかどうか、確信が持てないってことでいいんだよね?」


「それは……ええ、そう、ですわね。今回のような、原因のわからない何かが起こった時に私がそれをやろう思えばできてしまう人間であったなら……そう思うと、私は下手に新しい何かを求めてはいけないのではないかと、そう思ってしまって」


「今回のことは多分、結構なレアケースだと思うけどさ……さっき言った通り、大人組のみんなは私たちのことを『責任』を持って見ててくれてるよ。見守ってくれてるし、監視してくれてるし、何ができるかも把握して、どんなことをする人間かを理解しようとしてくれる。それに……私たちが実際に何か、自分ができることやできるようになったことで間違った時は、ちゃんと叱ってくれると思うし、必要以上に責められないように護ってくれると思う。責める立場も責められる立場も、任せられてくれてる……本当に、恵まれてると思うよ、今の私たちは」


「責める立場も、責められる立場も任せられて……それが、『責任』……」


「そう……だからこそ、私たちが外に出る時には必ず大人組の誰かが一緒に来てくれるし、そうとは見えなくても見守ってくれてる。私たちが『できてしまうこと』で大変なことをやらかさないように、やらかしそうになったら気付けるように、そして……たとえ、私たちがやらかしてしまっても、何が悪かったかを一緒に見つけて改善しようって言ってくれる。だからこそ、私たちは何かをやりたいって思ったら全力でそれをやるべきなんだと思う……全力でやってみて、そのまま全力で失敗してもいいってくらいに」


「全力で失敗しても……それは……」


 ……怖い。

 全力でやって失敗するだなんて、『何でそんなことを全力でやったんだ』って責められるに決まっているのに、そうなるイメージしかできないのに。

 なのに……蓬さんは、どうしてそんなにワクワクした顔ができるんだろう。


「夕子、今のあんたには少し難しいかもしれないけどさ。狂さんを……社長サマたち、私たちの周りの『大人』を信じてあげて。みんなが私たちを信じて未来を作ってくれてるように、私たちもその未来に飛び込んで行くのがきっと一番の恩返しになるからさ」


「それは……本当に、難しいことですわね。だって、そんな大人なんて私は知らなくて……信じられなくて、何が起こるかわからなくて、怖くて、怖くて、『不明(恐怖)』が溢れてしまいそう」


 ああ……本当に、本当に。

 蓬さんの見ている世界と私に見えている世界が違うのがわかってしまって。

 蓬さんの見ている世界を知ろうと思えば、私の知らない世界を覗き込むことになるのだろうとわかってしまって、その先に続く『明日』なんて何が起こるのか全くわからなくて。


 『明日』が怖くて。

 『未来』が怖くて。

 『不明』が怖くて、怖くて。


 蓬さんにも、『こっち側』にいて欲しいと思ってしまう。

 そんなワクワクした想いを覗かせながら未来に想いを馳せるなんて、私が置いていかれるような気分になるようなことをせず、一緒に沈んでいてほしい。

 蓬さんにも……他の、私とまるで『友達』のように接してくれるこのクラスのみんなにも……



「ほら、言ったでしょ。私も、ちゃんと見てるって」



 不意に視界に差し込む暖色の光。

 気付けば、蓬さんの炎に包まれた手が私の手から滲んだ『不明』を包んで止めていた。


「あっ、私……今のは、その……」


「うん、大丈夫。本当に怖くて溢れちゃっただけなのはわかってるから。こっちこそ、いきなり『未来の話』なんてしてごめんね」


「ご、ごめんなさい、私……信じたいと思っても、信じられなくて……今、私がなんでここにいるのかも、未来のことなんて考えていいのかも……だって、お友達が、お友達みたいな人たちがこんなに、私を信じてくれる人が、そんな優しい大人の人たちがいる世界なんて……そんな現実なんて、ありえない、そう思ってないと、お母様に不満を持っていると思われたら……いえ……なんでも、ありませんわ……」


「……うん……大丈夫。知ってるから、夕子が教えてくれたから。わかってるよ、みんな」


 『わかってる』。

 たったそれだけの言葉で視界がぼやけてしまった。

 私が恐怖を溢れさせて、それを蓬さんが炎で包んで止めて……同じ教室の中でそんな事が起きても、誰も騒がず、咎めず、ただ静かに成り行きを見守ってくれている。

 それが、蓬さんの言葉の何よりの証拠だったから。


「ここは、明るすぎて、ありえなくて……夢みたいで、この都合のいい夢の先へ進んで、どこかでふと目が覚めてしまうのが怖くて……その瞬間を考えるだけでも、死んでしまいたくなるくらい怖くて……それくらいなら、みんなで一緒に沈んで、ずっとずっと、眠りに落ちてしまいたいと、つい、思ってしまって……」


 後ろめたい、恥ずかしい、嫌われる。

 気持ちを言語化するごとに、はっきりとした闇が溢れ出る。

 けれど、それは熱さを感じさせない暖かな炎に包まれて、掬われて、そっと消えていく。


「いきなりこの世界の全部は信じられないかもしれないけど。その中の、ほんの少しずつでいいからさ……まずはこうやって夕子の心が溢れちゃってもすぐ止められる私と……それに、夕子を助けようとしてくれてるシックスさんだけでも信じようとしてみて。なにせ……あの人は、夕子の胸に入り込んだ不安の怪物を、『未来への恐怖(アンゴルモアの魔王)』を討ち倒すために生まれた勇者なんだから」


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― 新着の感想 ―
自分もまともな人間じゃないと思いながら生きてきたので、夕子ちゃんに共感しちゃいました。 登場人物と共感して自分も同じ言葉をもらった気持ちになれるのが、自分が小説を読む理由の一つだなと思いました。 …
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