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転生したので狂信します外伝:『夜神夕子の友達100人計画』  作者: 枝無つづく


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第4話 『妖怪退治』

side 夜神夕子


「夕子! とりあえずこれ持っておいて! 私の通信端末の予備!」


 鳴り響いた、けたたましいブザー。

 わけもわからず手渡されたオレンジ色の上着に袖を通しながら走り出した皆さんを追う私に押し付けられるのは、スマートフォンに似た機械。


「操作方法、通信だけならほとんどスマホと同じだけど使えそう?」


「ご、ごめんなさい、スマートフォンは持たされてなくて……」


「じゃあ最低限の使い方だけ教える。けど、移動時間ほとんどないから他のことは後で!」


 部室から直通路を通って、学園の裏手へ出る。

 すると、そこには車庫のような建物があって……


「コットン様! お願いします!」


 メメさんが叫ぶと、車庫の中の生き物が身震いしながら目を覚ます。

 それは、まるで巨大なぬいぐるみのような羊さん……その後ろに繋がっているのは、『窓のない馬車』。


 十人以上の人間が入るには心許ない大きさに見える乗り物。

 けれど、皆さんが疑問を持たずに馬車の入り口を通るのを追って中に入ると中は光る鉱石に照らされた部屋のようになっていて、外から見たよりも明らかに広い空間。


「途中で出ようとしちゃダメだからね! 下手すると妖精界で異次元の迷子になっちゃうから!」


 蓬さんに手を引かれて連れ込まれ、座席についたシートベルトを付けながら端末の操作法を説明される。


 電源の入れ方、非常用通信のアイコン、蓬さんの端末の番号。

 そんな基本的な説明を受けながら過ごすこと一分くらいで……


「ついた! とりあえず私の横に並んで立ってて!」


 皆さん、一分の間に各々の準備を済ませていたのか部屋の中の装備らしきものを……ベルシィさんに至ってはその身の丈よりも長い戦斧を手にして、全員で外に駆け出て並ぶ。


 すると……景色が違った。

 普通なら一分間では会社の施設区画から出ることも難しそうなのに、周りは見覚えのある施設が一つもない、どこかの平原。


 そして、そこは見知らぬ町の前。

 町を囲む壁に取り付けられた大きな門の前でしたわ。


「よく来た、初期対応部。今回の監視官のカサンドラだ。これより任務中、お前たちの身柄は我々ガロム王室直属部隊の預かりとなる。首輪を装着しろ」


 整列した私たちの前に立つ大人の女性。

 彼女から手渡された革ベルトの首輪(チョーカー)を手回しして、自分で首に巻いていく皆さん。


「あの、これは……」


「いいから付けて。あと、無許可で外したりもダメだから気を付けて。無理に外そうとすると……大変なことになるから」


 疑問符を浮かべた私に、小声でそう言ってくる蓬さん。

 その声色は真剣そのものでしたわ。


「外すと、どうなりますの? もしかして、爆発したり……」


「いや、凄いうるさい音が延々鳴り続けるから。命令違反とか逃亡罪になるとコイン没収されちゃうし」


「そこ! 任務中の私語は慎むように!」


「はい、カサンドラ監視官! ほら、夕子も!」


「は、はい! 監視官様!」


「監視官に様はいらな……というか、お前は夜神夕子か。そういえば回復したんだったな……蓬、夕子に任務の説明は済ませてあるか?」


「いいえ! その説明の直前に出動がかかりました!」


「そうか……それなら仕方ない。夕子、本来ならば時間をかけて詳しく説明するべきだろうが、今は一刻を争う。なので簡潔に状況を伝えるぞ。一度しか言わないからよく聞け」


「は、はい……」


「現在、この町の中で『妖怪』……特殊な能力を持つ魔法人形のような存在が暴走している。その確保に動いていた中央政府の派遣戦力は、既に町の住人共々ほぼ全滅状態にあると考えられ、救援として平均的な転生者以上の特級戦力であるお前たちの出動を要請した」


「つまり、その敵と……『妖怪』と戦えということですの?」


「そうだ。今は町の外部からの監視により敵の位置をこの壁の中に確定できているが、完全に日が落ちれば『妖怪』の性質的に位置情報を確定できなくなる。だから長々と説明する時間はない。今回は蓬の指示に従え。あの決戦を切り抜けたお前たちの連携なら戦力的な問題はないはずだ」


「わ、わかり、ましたわ……」


「…………」


「では、任務を開始する。この任務の結果がお前たちの恩赦承認に影響するものであることを忘れず、真面目に働くように」




 数分後。

 監視官の目を離れて、蓬さんは嘆息する。


「あの感じ、たぶん夕子の記憶喪失のことはキャシーさんまだ聞いてないみたいだね……夕子が目覚めたのつい最近だし、伝達遅れかな。本社に待機させちゃうと夕子に恩赦ポイント入らないからちょっと悩んだけど、やっぱ言ったほうが良かったかなー」


 ここは既に戦場。

 門を最低限だけ開いて注意深く入った町の中。

 一緒にいるのは私と蓬さん、それにマインさんとノンさん、ベルシィさんミュジカさんのアイドルコンビに、メメさんとリーナさんの八人。


 ダミーさんとトマルさんは町の外側でオペレーターを担当するそうで、町に直接入るのは私や蓬さんたちのような直接戦闘ができる人員だけなのだとか。


 それで、私も町の中の方の戦闘要員と……まあ、それこそ転生者としては戦闘しかできないくらいには戦闘特化なのでオペレーターの方に配置されてもなんにもできないと思いますけども。


「あの、町の住人が全滅って……ここ大丈夫、なんですの? そんな、大量殺戮のようなことが起きているようには見えませんけど……血の臭いとかもしませんし」


 一応、記憶喪失で思い出せない期間より前の記憶として戦場にいた記憶はある。

 戦場に満ちるあの独特の臭気は忘れていないけれど……この町は、そんな空気じゃなくて、けれど普通の町でもないようで。


 端的に言ってしまえば、人の気配がしない……家の中の夕食なんかがそのまま湯気を立てているのは、まるで話に聞く幽霊船のように忽然と人間だけが消えてしまったかのような……


「ああ、心配しないで。最悪でも……私たちが『全滅』したとしても、それで死ぬってことはないから。『妖怪』の相手はそこら辺、安全ではあるからね。だから、私たちの仕事は敵を倒すことってよりも、戦って情報を得ること……そして、あわよくば『初期対応(わたしたち)』で終わらせちゃうこと。長く続いた難事件を解決したって言われる英雄にはなれないけど、それが一番被害もコストも少なく済むしね。まあ、戦力的にもこのメンツがいれば大体は楽勝なんだけど……トマル、どう? そっちから見て敵の様子は?」


『残念ながら、外からじゃ見えないみたい。近くの人間が起動条件を満たすと活性化するタイプらしいね』


 通信端末から浮き出るように現れるトマルさんの立体映像。

 外の馬車はオペレーター室の機能も兼ねているようですけれど……


「これ、こんな機能も付いてますの? ハイテク過ぎて扱える気がしませんわ……」


「いや、これはトマルの能力。その遠隔操作用の機能も組み込んであるってだけだから、スイッチ入れればトマルの方が勝手に中継装置として使うだけでこっちは何もしなくていいよ。夕子にも後でスイッチの入れ方だけ教えるね。とりあえず、それなら町の中を歩いて活性化させてから誘い出すか……マイン、罠の用意しやすいポイント見つけておいて! いつも通り、できるだけ町を壊さないで戦えるようなところでお願い!」


『あ、待って。妖怪本体じゃないけど……変なのがたくさん……これ、卵?』


「トマル? 何か見つけた?」


『これ、見て』


 空中に映し出される町中の映像。

 現代日本なら防犯カメラのハッキングのように見えたりするのかもしれませんけど、防犯カメラなんて普及していないこの世界においてそれと同じようなことができるのはトマルさんの能力なのでしょうか。

 

 それはともかくとして、映像の中に怪しい物体が映り込んでいますわね。

 民家の中や裏路地で、独りでにダルマのように揺れる大きな卵が。


「大きさが少しずつ違うけど、小さくても子供が膝を抱えて丸まってるくらい……人間が一人そのまま入れそうなサイズ?」


「それに、この場所……日常の中で人がいるような場所も多いですけど、そこから広がるように裏路地や物陰に……異常を認識した人々が逃げた先に卵……?」


「……ダミー、『遺物』のリストから『人間を拘束するタイプ』でこういう卵が出てくるやつ、すぐ教えて!」


『はわっ、えっと、はい! たしか、卵の絵が出てくるのは……ありました!』


 ページを捲る音とダミーさんの慌てた声。

 そのすぐ後で、端末からの立体映像に開かれた図鑑のような本が出てくる。


「『警備目的のゴーレム』『怪しい動きをする侵入者を自動的に捕獲して拘束』……トマル! このデザインのオブジェか何か、私たちの近くに……」


『っ! いる! 直ぐ側の建物の屋上の装飾に紛れて……』


「総員戦闘態勢!! 敵は彫像に擬態して襲ってくるトカゲゴーレム!! 夕子っ! 守護者使って!」


「はっ、はい……っ!?」


 壁から飛びかかってくる何か。

 蓬さんはトカゲと言ったけれど、その大きさとフォルムはトカゲというよりかは……


「『恐竜』……ラプトル……?」


 蓬さんが狙われていた私に叫んだ瞬間、ゴーレムの瞳が私から蓬さんへ向いた。

 攻撃対象が切り替わった、それを認識した瞬間、私は反射的に能力を使っていた。


 けれど……その『不明』の闇を目にした瞬間、ドクンと胸が嫌な鼓動を打つ。

 まるで、その中に吸い込まれて落ち込んでいってしまいそうな感覚……それが、たまらなく怖くて……


「あっ、くっ!?」


「夕子!? っ! 落ち着いて!」


 まるで水圧が強すぎて暴走するホースみたいに激しくのたうち回る『不明』の触手。

 こんなこと、今まで一度もなかったのに。


「やばっ! 回避! 回避!! 夕子の能力は当たったら死ぬ!」

「メメちゃんこっち!」

「あぶっ! ノン、助かった!」

「ぐっ! 前より重い!」


 皆さんが慌てて闇色の触手から離れる。

 それとほぼ同時に、蓬さんが生み出した火焔の腕が暴れる触手を捕まえて抑え込む。

 そこで、恐竜の視線がまた移ったのが見えた。


「来るっ! ふんっ──きゃっ!?」


「ベル!? くっ、疾っ──」


 バクン、バクン。

 視線が追いついた時には、斧を持っていたベルシィさんとミュジカさんがいたはずの場所に二人はいなかった。


 代わりにいたのは、お腹が大きく膨らんだ恐竜。


 そして、困惑する私たちの目の前で、恐竜はお腹の膨らみを身体の前方から後方へと移動させていき、尻尾の根元まで移動させる。


 そうして、尻尾の下の穴から排出されたのは……粘液でベトベトの斧と、同じく粘液に濡れて産み落とされる卵。


 ベルシィさんとミュジカさん。

 体格の違う二人に合わせてピッタリと作られた殻に覆われた二つの大きな卵。

 それが、先程見た映像の中の卵の正体を証明するものであるのは明らかで……


「ベルシィが近接で対応できなかった……リーナ! 怪獣形態で飛んで安全地帯に……」


「うん! ヒトミ、大きくなるから離れ……」


「っ! リーナ! 一体だけじゃな──」


「えっ──」


 バクン、バクン。

 あっという間のことだった。


『やられた……もう一体……いや、もう二体……保護色だ、壁の質感に紛れるだけじゃない、建物の影の中にもいたんだ』


 合計三体。

 最初の一体に気を取られている間に新たに現れた二体がそれぞれメメさんとリーナさんを丸呑みにして、目の前で卵として産み落とす。


 敵の奇襲成功……『戦闘開始』から一分と経たない間にベルシィさん、ミュジカさん、それにメメさんとリーナさんの四人が卵にされた。

 その初動の失敗は、明らかに私の失敗のせいで。


「ご、ごめんなさい……私のせいで、ベルシィさんたちが……」


 視界の中の三体の恐竜は彫像のように固まって動かない。

 けれど、あの素早さで動き出せば今の守護者をまともに扱えていない私ではどうにもならないし。


「警備ゴーレム、なら攻撃の条件は……」


 残る味方は、蓬さんと、三体の恐竜像を挟んであちら側にいるマインさんとノンさん。


 三方から包囲するような形で敵を見張っていてるけれど、その疾さを警戒して目が離せない。

 緊張で呼吸が浅くなってきた辺りで……


「とにかく、このまま動きを封じて収容します!」


 マインさんがポケットから取り出した物体を恐竜像の頭上に投擲すると、それが爆発して恐竜像に液体が降り注ぐ。

 見るからに強力なトリモチのような粘着剤。

 三体の恐竜像をまとめて無力化するための拘束爆弾ですわ。


 けれど……


 ギギギッ……ブチィ!!


「なっ!?」


 すごいパワーで引き千切られるトリモチ。

 そして、逃げる間もなく地面から掻っ攫われるように丸呑みにされるマインさん。


 バクン! ゴクン!


 疾さだけでなく、膂力も規格外。

 動きを止めることすらできない以上、敵が動き出した時点で勝ち目がない。

 そう思ったところで……蓬さんが叫びました。


「夕子! ノンをジッと見つめて! ノンは私の方を見て!」


 思考停止したまま、強い指示の声に従ってノンさんへ視線を向ける。

 対してノンさんは蓬さんを見つめていて、蓬さんは……視界の端から感じる視線の圧力からして、私を見つめている。


 そうして……『ピタリ』と、恐竜像たちはまた動きを止めた。


「やっぱりだ……こいつらは、元々見張りをすり抜ける侵入者を捕獲するための警備システム。だから、コソコソしてる人間を……感知範囲内の『他人の視界に入ってない人間』を狙うんだ」


 最初、皆さんが周囲を警戒したことで互いの視線がチームの『外側』に向いたことで、チームの中心に守られるような位置にいた私を狙って攻撃が始まった。


 そして、守護者の暴走で視線が私に集まると攻撃対象が切り替わって、私たちから一番遠い位置にいて他の人の視界から外れたベルシィさんとミュジカさんが狙われた。


 そうして人数が減れば、互いを視界に収めていない瞬間も増えて恐竜像が動き、私たちは余計に周囲を警戒しようと互いを視界に収めなくなり全滅に近付いていく。

 物陰に隠れたりより遠くに逃げようとすれば余計に恐竜像の狙いを引きやすくなる。

 この町の人々も、そうやって加速度的に『全滅』した。


 けれど、今は偶然にも恐竜像を取り囲む形になって、その動きに注視していたことで味方同士で互いを視界に収めている状態になっていたことに蓬さんが気付いた。

 これなら……


「このまま三人で互いを視界に入れたまま動けば問題ない。互いが視界から外れないように気を付けて封印を……」


 これならいける。

 そう思った直後だった。


 ガッ!


「くっ!?」

「ノン!」


 私には何が起こったのかわからなかった。

 ただ、気付いた時にはノンさんが自分に齧り付いてくる恐竜像の顎を両手で押さえてギリギリで丸呑みを防いでいた。


「な、なんで……私、ちゃんとノンさんを見つめていたはずで……」 


「……『まばたき』、だよ……こいつら、瞼が閉じたコンマ数秒でも動くんだ……」


 三人で三角形に互いを見つめ合う作戦は、それぞれが目を逸らさないことが前提だったけれど、それがほんの一瞬のまばたきでも通じないのなら話が変わってくる。

 目を閉じないように意識し始めるけれど……普段無意識に行っている生理現象を止めるのは簡単ではなくて……


「うっ……目が……」


「っ……ノン、空に飛んで安全地帯から私たちを見下ろして!」


「わ、わかった! 飛ぶね!」


 全身を光に包まれて、空中へ高速で上昇するノンさん。

 けれど、その高速移動で視界から外れた瞬間に壁を足場にして跳躍した恐竜がノンさんに迫る。


「うわっ!? ひぅっ!?」


 光の中での瞬間移動。

 ギリギリ届かなかった大顎は火に炙られたように色を変えながらも壊れることはなく、恐竜像は跳躍しても届かない高さまで登ったノンさんを睨みながら屋上に待ち構える。

 そこで……


「夕子、私を見つめて!」


「は、はい!!」


 炎の壁に包まれる。

 不意に伸びてきた蓬さんの手で強引に両肩を掴まれて互いを見つめ合う形になった直後、蓬さんの背後で、走行の最中に硬直したような躍動感溢れる恐竜像が砂煙を上げながら停止する。


「……困ったね。視界に入ってても距離が離れすぎると無効みたい」


 背中から圧力を感じる。

 私の背後にも蓬さんの背後と同じように恐竜像が攻撃直前で停止している……


「一体がノンを狙ってる……視認成立判定よりも捕獲判定の範囲が広いんだろうね。それに……うぐっ!」


 炎の壁に衝撃が入る。

 その瞬間、蓬さんの背後の恐竜像のポーズが変わっていたことで、その変わり目を見逃したことで、自分が無意識に『まばたき』をしたのだと数秒遅れて気付く。


「見誤った……いつもは、もっと強引にルールを押さえつけて力で勝てるときも多いんだけどね。今回のは、ちょっと基礎能力も高いタイプだったみたい。このままだと、そんなに保たないかも……ぐっ!!」


 また、衝撃。

 ポーズの変わっている恐竜像。

 まばたきを抑えようとしても、数十秒と経たずに瞼が重くなってきて視界が閉じてしまう。


 蓬さんは私を見つめながら我慢しているのに、私だけ……これで、蓬さんが卵にされたら、私も……


「はあ、はあ、ど、どうしたら、はあ、はあ……」


 過呼吸気味になっている。

 まばたきどころか、このまま失神してしまいそうなほど脳から血の気が引いていく。


「夕子。落ち着いて、目を逸らさないで」


「で、でも……」


「大丈夫、死ぬことはないから。みんな、殻に閉じ込められても動いてるでしょ? 『妖怪』は森の民の人たちが付けた安全装置のおかげで非殺傷だから、最悪でも無力化されるだけなの。だから、落ち着いて」


「違う、ちがうの……蓬さん……私、暗くて狭い場所は……耐えられないの……」


 あれは、きっと私にとってダメな物だ。

 あの分厚い殻の中は、きっと真っ暗で。

 それに、狭くて動けなくて、それはきっと怖くて……死ぬほど、怖くて……


「ぐぅっ! そう、だったね……お願い、本当にもう少しだけだから、私のことを信じて、見つめ続けて」


 私を見つめながら、通信端末を操作する蓬さん。

 そして、そのまま手探りで番号を押す


「ニドラが護衛についてるなら……」


 数秒のコール音。

 その後、端末を耳に当てて蓬さんは言葉を発する。



「狂さん、ごめん……大事な会議の最中なのはわかってるけどさ。いま、妖怪退治でミスって緊急事態。というか、生きるか死ぬかの大ピンチ。お願い、今すぐに……一秒でも早く、助けに来て」



 蓬さんの苦しさを滲ませた声での懇願。

 端末からの答えは一秒すら待たなかった。


『すいません、ドレイクさん。ちょっと行ってきます。ニドラさん! 天竜の鎧を!』


『あ、おい!? 待てよお前!! そっち窓、っておいこら狂信者!!』


 通話が切れる。

 そして、蓬さんは……恐竜像の攻撃に耐えて脂汗を流しながら、笑った。


「十秒だけ、我慢して。そしたら、気絶して目を閉じちゃってもいいから」


「じゅ、十秒……?」


 そんな話、信じられない。

 けれど、蓬さんは確信を持って私を見つめながら、数字を口にする。


「10、9、8……」


 視界の端に光が見えた。

 蓬さんから目を逸らせないからよく見えないけど、それでもわかる眩い流星のような光が。


「7、6、5……」


 夜闇を迎えつつある夕空に尾を引く光。

 それが、私も知っている形を成していく。

 少女姿のニドラさんに手を引かれて、まるで水中にいるかのように重力を無視した社長サマの姿がそこにある。


「指揮に入ります。トマルさん、ニドラさん、ノンさん。『ゼット・ネイバー』のネットワークを直結」


「4、3、2……」


「皆さん、戦闘開始です」

「「『イエス、マム』」」」


 そこからは……何が起こったかわからなかった。

 ただわかったのは、空から降り注いだ光の柱と超高速で動く恐竜像たち、そして周辺一帯からほとんど同時に聞こえた戦闘音と……ズシンという地響き。


 突風に巻き上げられた砂煙が薄まると、見えてくるのは見覚えのある『最強の使役獣』の姿。


 一瞬前まで少女の姿だったはずのニドラさんが……巨大なドラゴンに、私も背に乗せられたことのある、あのドラゴンライダーさんの使役獣であるはずの『ニドラさん』が以前よりもさらに巨大に成長したドラゴンとしての姿で、三体の恐竜像全てを大きな顎門の鋭くて太い牙と両腕の鉤爪を使ってしっかりと捕まえていて。

 その頭上にはフォーマルなスーツ姿の社長サマと、彼女を守るように浮かぶノンさんとトマルさんの幻影が見えましたわ。


「1……0……戦闘終了。さっすが、第六位冒険者……『準最強の使役系転生者』だね、狂さんは」





妖怪図鑑『アシワリの牙騎馬』


 原材料『金域の魔王の無精卵』。

 魔王の分体として生まれるはずだった亜竜の因子を組み込んだ彫像型神器。

 活性化状態だと人間を丸呑みできるサイズになるものの、不活性状態だと自己収納機能で手の平サイズの置物になるため工芸品として旧都神殿から持ち出され、売買されていたものと考えられる。


 魔王の分体としての『魔王の縄張りだった金鉱脈周辺の警備』という創造理念を神器としての機能に転用しており、拠点への侵入者を無力化する警備ゴーレムのように運用できる。


 収容後の調査により、実は攻撃対象の条件には『他人から見られていないこと』という要素だけでなく『金属を身に着けていること(鉱脈に入った盗人を判別する基準)』も含まれていたことがわかっており、仮に感知された直後に金属を含む装備品を全て脱ぎ捨てれば襲われることはないと思われる。

 また、その性質からか基本的に金属を身につけない森の民には歴史上これにを乗騎として活用した神器使いもいるらしいが、初動から一瞬で凄まじい速度に到達するため素人だとすぐに振り落とされてしまうので真似する場合は注意。


「ちなみに、すぐに救出されたけど卵の中はわりと快適。ただ、魔眼が使えなかったから単なる親切設計ってわけじゃなくて発動系能力とかを発動する意志力そのものを削ぐような仕様になってるのかも」──by ヒトミ

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二ドラさんサクッと天竜のヨロイ使ってるし、ほんまドラライさんってなる 魔王関連のバカやばい代物じゃないですかこの卵
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