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転生したので狂信します外伝:『夜神夕子の友達100人計画』  作者: 枝無つづく


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第3話 『テーレ魔法等総合学園』

side 夜神夕子


 まず初めに、私がどうしても忘れてはいけないこと。

 それは……私が『元テロリスト』であるという事実。


 私自身に思想や体制への革命意識がなかったとしても。

 転生して来てすぐ社会の事情とかを知らずに流されて所属しただけの『独立軍』がその実『クーデター軍』だったという背景があったとしても。

 そもそも、私の中に最初から『大人からの指示に逆らう』という考え方自体がなかったとしても。


 私のしてきたこと、そして、それによってこの世界に与えてしまった影響は『それじゃあしょうがない』で済ませるにはあまりに大きなもので。

 本来なら、この世界に少年法みたいなものがあるかどうかはわかりませんけども、そういう情状酌量措置も抜きにして死刑にされても文句は言えないような立場で。


 しかも、そんなことができてしまった理由……『転生特典』という力は未だに健在で。


 何か殺してはいけない理由、死なせたくない理由があるとしても、本当に扱いに困る存在だろうとは思いますわ。


 過ぎたる力の自覚はあれど、それを手放す手段はなし。

 転生者のテロリストなんて、戦場で死に損ねた『悪い転生者』なんて、どうしたものか。


 普通の更生施設に入れるには危険すぎる。

 けれど、『少しでも悪事を働けば転生者でも脱出不可能なほど厳重な牢獄に入れてそのまま終身刑』というシステムにしてしまうと、どれだけ今いる人間を捕まえてもいくらでも流入してくる転生者からの反発が強くなりすぎる。


 聞くところによると、そういった場合についての『受け皿』になっていたのが『冒険者ギルド』という組織だそうで。


 転生者だろうと素性を隠したまま簡単な手続きで登録ができてしまう組織形態。

 逆に言えば、全く社会的な履歴を持たない人間に身分を与えてどこで何をしたかを辿り、悪事を働いていればわかるようにするシステムを持つ組織。


 どれだけ経歴が真っ白だろうが真っ黒だろうが身分証と収入を確保できる斡旋所は、『経歴のせいでまともな職に就けないから悪事を働くしかない』という言い訳を駆逐する。


 危険な転生者も、その戦闘能力を仕事に活かせる荒事師として迎え入れることで危険度を注目度と認知度に変えることができる。

 そうして、悪事を働くことへのリスクを高めながら仕事と報酬を与え続けることで犯罪行為への道をを『生きるための最適解』から遠ざけるシステム。


 そして、それでも犯罪行為を繰り返すようなら、『身内の不祥事』として暗黙の内に他の転生者や上位冒険者の武力で処断できる。


 実際、社長サマが決闘という形で殺めた『悪い転生者』についても、そういった処理が行われて殺人事件としては扱われなかったとか。


 そして……日暮蓬さん。

 私と同じ『守護者使い』で、転生してきたばかりの頃は守護者を制御できずに人を殺してしまっていたという彼女も『冒険者』としての身分を持つことで罪状に関して執行猶予の状態となり、その間に能力を社会貢献の方面へ振るったことで初期の罪状に情状酌量が認められたと。


 であれば、順当に行けば私も『冒険者』として社会貢献することで罪を償うことを考えるべきなのかもしれないけれど……


「今ではちょっと事情が変わってね。去年までは開拓を進めるために森をつつけばいくらでも攻性化した魔獣が飛び出してきたから仕事はいくらでも作れたけど、これからはそうはいかないからって」


「それで、戦い以外の生き方を見つけるための『戦後英雄プロダクション』が出来たのですわよね? けれど、その『学校』というのも……もしかして、それも社長サマが?」


「そう。狂さ……社長が、これからのためにちゃんとした教育機関を作ってみようって、戦英プロの下部組織として。まだ実験段階だから、クラスメイトは身内だけなんだけどね」


 『戦英プロ』入社翌日の朝。

 二度寝しかけていた所を起こされて困惑するまま急いで箱の中にあった学生服に着替えた私を連れて前を歩く日暮さん。


「ちなみに、見ればわかると思うけど、その『学校』も社内施設だから。迷うほど遠くはないし部屋数も少ないけど、何かあっても『壁』の外側には勝手に出ないようにね。私や夕子の能力だと物理的には行けちゃうけど、それやると美森教官にめっちゃ叱られるから」


 強調された『壁』という言葉。

 昨日はあまり気にしなかったけれど……歩いていると、なんとなくわかってくる。


 私が目覚めた病室のある診療所も、入社のための書類にサインしたあの事務所も、私が与えられた寮部屋のある建物も。

 みんな同じ区画に……高い壁で囲われた大きな施設の中に小さな町のように収まっている。


「日暮さん、もしかして……」


「蓬でいいよ。で、なに?」


「あ、いえ……私は昨日、『壁』の外の牧場まで連れて行ってもらいましたわね……あれは、よかったのかしら?」


「ああ、それ? 聞いてるよ。シックスさんと一緒にでしょ? あの人も一応は『大人組』だから。あっちからの『連れ出し』は基本問題ないよ」


「つまり……問題があるパターンもありますのね」


「まあ、『Cクラス社員』……『子供組(チルドレンクラス)』の私たちが自由に動きすぎるといろいろと『危険』だからね。一応、欲しいものとかは大人組に頼んで仕入れてもらう方が手続きとか楽かな。あっ、ちなみにあっちには社員用の商店とか喫茶店とかもあるよ。外出申請すれば外の店にも行けるけど、敷地の外に出る時には大人組の誰かの同伴が必要だから気を付けてね」


 そうして話している内に、目的地らしき場所へ。


 『テーレ魔法等総合学園』。

 そんな看板がかけられた校門の奥にある運動場付きの施設……一階建てで、フェンスに囲まれた屋上には家庭菜園でもしているのか緑が見え隠れしていますわ。


「『テーレ魔法等総合学園』……なんだか立派なお名前ですわね」


「便宜上は『戦後英雄プロダクション』が経営する私立学園ってことになってるからね。テーレさんは一応……って言ったらなんだけど、『孤児院の守護神』でもある女神ディーレの眷属の天使だから私たちみたいなのを受け入れて育てる場所の象徴として名前を入れるのは縁起が良いって」


「なるほど……あら? けれど、確かロバートさんはテーレさんについて、『彼女は不幸の呪いを振りまく天使だから何があってもその血には触れないように気を付けるべき』というようなことを言っていたような……本当に縁起が良い名前ですの?」


「あははっ、確かにそういう見方をすると縁起が悪い名前になっちゃうかもね……けどまあ、どちらかというと『わけありの子供を拒まず受け入れる場所』って意味で名前を使うのが一番テーレさん自身のイメージアップにも繋がるって感じなんだろうだけど。ちなみに、みんなは長いから『テレ魔』とかシンプルに『学校』って呼び方してるよ」


「あの、先ほどから口にしている、その『みんな』というのは……」


「うん、お察しの通り同じ『Cクラス社員』……まあ、管理体制で上下に『組』を作りやすいようにって今のところ『C(チルドレン)組』ってことにしてるだけでまだ厳密な階級とか昇進のシステムがあるわけじゃないんだけど、今の『Cクラス』は大体が私たちと同じくらいのわけありで、しかも野放しにできないくらいには強い子とか、危ない技術の持ち主の集まり。まあ、半分以上は知っての通りの『ピークドット・レジスタンス』のメンバーなんだけど……ごめん、改めて紹介するね」


 『知っての通り』と言ってから、私がそのメンバーとの関係をおそらくほぼ完全に忘れてしまってしまっていることを思い出したらしく謝罪の言葉を口にする蓬さん。


 けれど、この『学校』の理念はおおよそ理解できましたわ。


「まあ、妥当なところですわよね……」


 いいえ、むしろ見張り付きでも外出が許されたり、形だけでも『学生』として学校へ行かせてもらえるというだけでもかなりの温情だとは思いますけども。

 これでは、あの砦の中で戦力として囲われていた時と大きな違いは……


「夕子ー! ひっさしぶり~! ぐえっ!?」

「ちょっとベル! 記憶喪失の話聞いてたでしょ? 困らせないの」


 校舎の入り口の下駄箱で、突然飛びかかってきた人影。

 そして、その襟首を掴んで止めたもう一人の人物。


 飛びかかって来たのは少し小柄で活発そうな茶髪の娘で、それを止めたもう一人は身長も胸もお尻も……とにかく、全身の発育がよくて雑誌のモデルでもしていそうな女性。

 二人を見て、蓬さんは慣れたように挨拶の言葉を発しましたわ。


「おはよっ。ベルミュジ、今日は仕事なかったんだ?」


「けほっ、けほっ……二人で写真集の撮影の予定だったんだけどね……夕子の初登校って聞いて、昨日の内に頑張って終わらせたよー」


「タカラはいつものようにルビアさんの研究所の方の仕事でお休みよ。まあ、あの子はこういう時に予定合わせるタイプじゃないから」


「基礎教養とかもう大概憶えたし、それより研究やってた方が稼ぎもいいって堂々と言っちゃうしねー。ま、『素晴らしき子供たち計画』の時からそういうタイプで飛び級みたいに脱出したやつだし」


「あと、『こんな女だらけの教室にいられるか!』とか言ってましたしね……こっちは『十一歳なんて全然男の子って感じしないし、みんな弟みたいに思ってるから気にしない』って何度も言ったのに」


「ステージの上では本人も『アレ』なのにね……ていうか、この前のベルミュジとコラボ写真集見たけど、メッチャノリノリだったじゃん」


「タカラ、コスチューム着ると性格変わるから。脱いだ後で写真見せると悶えるけど」


「あれ、可愛いわよねぇ……あの子の専属ファンの気持ちもちょっとわかるわ」


 談笑する二人と蓬さん。

 困惑する私を見て、蓬さんは苦笑しながら紹介してくれましたわ。


「あー、ごめん。説明まだだったね……改めて、こちら我が社の看板アイドルグループ『アウトゾーン・ティーンズ』のベルシィとミュジカ。こっちのいろいろとちっちゃい方がベルシィ、こっちのいろいろと大きい方がミュジカ。二人とも、元々は軍の特殊暗殺部隊員だったんだけど、社長サマに返り討ちにされて捕まったの。で、人権剥奪とか洗脳とかいろいろされて、完堕ち反戦ネガキャン系アイドルとしてプロデュースされて今に至ると」


「ちょっと待ってくださいまし? さっそく情報量が多いのだけれど……なんかこの会社、私が思っていたよりもあけすけにヤバいことしてません? 人権剥奪とか洗脳とかってワード聞こえましたわよ?」


「ゆうこぉ、洗脳はいいぞぉ、気持ちいいのはシアワセだぞぉ?」

「人としての権利を手放すのはとっても気楽で素敵なことですわよぉ?」


「ここやっぱりヤバい会社ですわ!? 目がいっちゃってますわ!?」


「おーい、ベルミュジぃ。夕子をからかうのはやめなさい。あんまりやると炙るから」


「「はーい!」」


 さっきのは冗談だったらしく……いえ、どこからどこまでが冗談だったのかちょっとわからないので怖いのですけれど、逃げるように廊下の先へ行ってしまうベルシィさんとミュジカさん。

 そして、そんな背中を見送っていると横から足音が聞こえてきて……


「あら。退院おめでとう、夕子さん。私のことは……憶えてるかしら?」


「はわわっ、お久しぶりの夕子ちゃんですぅ……でも、なんか……裏返し、じゃなくて、なんでしょうこの感じ?」


「あ、おはよう。マイン、ダミー」


 下駄箱で靴を上履きに履き替えながら声をかけてきたのは、眼帯とマスクが特徴的な娘と、ミュジカさんほどの背丈はないけれど胸の大きさは負けていないツインテールの娘。

 蓬さんの呼びかけによれば『マイン』と『ダミー』、というらしいけれど……


「えっと……マイン、さん……? 確か、あの砦で……何度かすれ違った、ような……?」


「ええ、合ってるわ。まあ、こんなファッションじゃ忘れないわよね」


「うーん、夕子ちゃん。ちょっと失礼しますね?」


 私がマインさんとの微かな面識を確かめ合っていると、いつの間にか近づいて来ていたダミーさんが私の胸に頭を埋めるように耳を押し当ててくる。

 本当に、ほんの一言の断りだけで。


「ひゃっ! な、なんですの!?」


「うーん、あー……ん? この心音の感じは、やっぱり夕子ちゃん? うん、なんか神様が治してくれた感じの心臓してるし夕子ちゃんだね。でも……んん?」


「ダミー、今の夕子からしたらあんた初対面で心音チェックしてくる変態になってるから自重しなさいってば。ほら、夕子も固まってないで教室行こう」


 蓬さんの手で強引に引き離されながら、何かを悩むように両手の人さし指でこめかみを押さえて頭を捻り続けるダミーさん。

 そういった奇行はよくあることなのか、ダミーさんを下駄箱の前に放置したままマインさんを加えて廊下を歩き出す。


「そういえばマイン、もうシィさんに培養してもらった新しい皮膚は大分馴染んできたんじゃないの? そろそろ教室でもマスクとか外してみたら?」


「それは……やっぱり、ずっとこういうふうにしてきたから、ちょっと恥ずかしくて……」


「培養? 新しい皮膚?」


「ああ、マインはちょっと昔の怪我がね。それを隠すためのマスクとか眼帯だったんだけど、シィさんのおかげで今はもうほとんど……」


 と、そこで。

 教室の前で新たに二人、新しい顔が見えてくる。

 椅子を運んでいて、マインさんと同じく片目に眼帯をしていて、黒髪で……『猫耳』が生えた娘と、頭に羽飾りをしていてそこまで筋肉質に見えないのに片手ですごく軽々と机を持ち上げて運んでいる娘。


「あ、メメにリーナ。その机って……」


「おはよ、蓬。それに夕子も久しぶりー。夕子の分の机と椅子、倉庫から持ってきたよー」


「場所は蓬の席の隣でいい?」


「うん、そうしといて。夕子もそれでいいよね?」


「え、ええ……それで構いませんけども……」

 

 ……どうやら、目の前の猫耳も見た目に合わない腕力も蓬さんやマインさんにとっては見慣れたことらしく、特にツッコミなし。

 私もそういうものとして受け入れるべきなのだろうと思ったところで……


「あ、夕子ちゃん来たー! 昨日ぶりー!」

「みんなー、そろそろ授業。教室入った方がいいよ」


「あ、りょうかーい。夕子、あの二人は……昨日会ったんだっけ? あの銀髪の子がノン・ブレイブで、あの犬耳の子がムジルシトマル。狂さんところの三人娘で……トマルー! ニドラって今日は狂さんの護衛だっけ?」


「そだよー、大事な会議だって言ってた」


「じゃ、一応ドラゴン形態の時だけど夕子も面識はあったはずだしニドラの紹介だけはまた次の機会にしておいて、これでCクラスの皆は大体顔合わせできたかなー……っと」


「いや、自分も一応クラスメイトっすよね!? 半分大人組だからって仲間外れにしないでほしいっすよ!!」


「あー、ごめんごめんって! 夕子、あそこの赤毛で眼鏡の人が小野倉ねねさん。あの人だけは『大人組』でもあるけど私たちのクラスメイトとして一緒に授業を受けてるっていうか、なんかそういう実験らしいから年齢差とかは気にしないであげて」


「ホントなんかすごい留年してる人みたいになっちゃうから年齢差はガチでスルーして欲しいんすけど……一応、この学校での教育法について生徒側の視点から改善点とかを見つけるっていう大事な仕事を任されてるんすよ?」


 少し複雑な立ち位置なのか、単なる留年学生みたいに認識されたくないらしく、机に突っ伏してむくれ顔で俯く小野倉さん……その様子がちょっとやっぱり大人らしくないと思えてしまったのは内緒として。


 授業開始時間までもうあまりないらしく、蓬さんたちと一緒に教室に入る。

 今いる生徒の数で私を含めて十二人、それに二つの空席で十五人のクラス……人数に対して少し広く感じるけれどそこまで不便な広さではないと感じる程度の清潔な教室。


 リーナさんとメメさんが置いてくれた机と椅子に……一応、何か悪戯をされていたりしないかを確かめて座った辺りで、教室の入り口から一人の大人が入ってくる。


「は〜い、みなさんおはようございま〜す。今日は〜、夕子ちゃんはお久しぶりの初めましてでしたね〜。私はこの教室の担任教師の一人、シスター・シエスタで〜す。担当授業は『知見』、これでも少し前まで新聞社での仕事もしてたので、世の中のことを面白おかしくお伝えするのは得意ですよ〜」


「よ、よろしくお願いいたしますわ……けれど、その、『知見』の授業というのは……」


「はい〜。文字通り、皆さんの知見を広げるための授業ですよ〜。物事を深く考えること、自分自身にとってより良い道を選ぶこと、それにはたくさんの経験や知識、そして『現実の世界ではどういうことが起こり得るか』という視野の広さが必要になりま〜す。けれど、この教室にいる皆さんの多くは、見てきた世界の側面が偏っていたり〜いなかったりしま〜す。ですので〜、まずは皆さんに『世界にはこんなこともあるのか』と、知らなかったことをた〜くさん知ってもらう。そういった授業で〜す」


 『知見』は文字通り、知見を広げるための科目。

 試験で点を取るためだけに模範解答を暗記させられてきた私には、初めて触れる形。

 教室の正面、黒板の前にスクリーンが下ろされると同時に前からプリントが回されてきて、みんながペンを用意し始める。


「いつも通り、この授業にはテストも発表もありませ〜ん。ただ、これから目にする世界の切れ端の中に、あなたにとっての『知らなかったこと』があれば、それをそのプリントにメモしていってくださ〜い。『自分が何を知らずに生きてきたのか』を知る、これはただ、そのためだけの時間……それだけを深〜く深〜く考える時間ですからね〜」




 時間はお昼時。

 午前いっぱいを使った『知見』の授業は長時間をかけて一つの映画のDVD鑑賞とその解説を行うというものだったらしく、授業を受けたという感じはあまりしないまま、いつのままお昼になってしまった。

 けれど……


「なんというか……とても、自分の無知を教え込まれたような感覚ですわ……」


 私の知っている『授業』と違ったけれど、私の知っているそれよりもずっとためになる時間だった気がする。

 思い返せば学校の授業というのはお稽古の宿題として出された自主練習で削った睡眠時間を補うようにうつらうつらしながら眠気に耐えていた思い出しかないけれど、今日の授業は眠くなる暇なんてなくて、ずっと『知らなかったこと』を書き続けてプリントを何枚もおかわりしてしまった。

 例のごとく、後遺症のせいで文字を上手く書くのは難しいのだけれど、それも途中でつい忘れてしまうくらい知らないことがたくさんあったから。


「シエスタ先生、あんなフワフワした感じだけどなんでも面白く教えてくれるからいいよね。あ、夕子お昼それにしたんだ?」


「あ、はい。オススメと書いてあったので選んでみたのですけれど……このヘルシーハンバーグって、なんのお肉なんでしょう? 豆腐ハンバーグみたいにも見えますけど、それにしてはわりと重厚というか……なんにせよ、満足のいくお味ですわね」


 ちなみに、昼食はコックさんの服装をした魔法人形(ゴーレム)がワゴンと一緒に教室にやってきて、目の前で提示されるメニューからコースを選ぶと目の前でプレートに盛り付けてもらえましたわ。

 デザートも目の前で素早く切り分けられたフルーツ盛り、味も行程も新鮮でしたわ。


「そのハンバーグの材料、レイさんが研究してるって『空気肉』だね。水と空気から無限に作れるってやつ」


「はい? レイさんって、あのレイさんですの? あの身体から虫を生み出す能力の?」


「うん、そのレイさんで合ってるよ。今はシィさんの研究助手やってるからあの人。『空気肉』はまだレイさんしか使えない魔法で生成してるから社内施設でしか食べられないけど、それをレイさん以外の人でも再現できるようにするのが当面の目標なんだって。ちなみに、『オススメ』っていうのは『味の改良の方も目下研究中だから実験台になってね』って意味」


「…………」


「まあ、最初の頃の『食べれはするけど……』って味から比べるとだいぶ良くなったけどね。私たち、こういう新技術のテスターも兼ねてるから不満とか改良点があったら大人組に気軽に言った方が喜ばれるよ」



 他にも、昼休み中にこの学校の制度や授業のことを蓬さんから説明を受けているとチャイムが鳴り、午後の授業の時間。


 すると、皆さん机の天板を裏返して……?


「パ、パソコンですの?」


「いや、タッチパネルだからどちらかというとデカいスマホだと思えばいいよ。今日の午後は『基礎教養』だからね。あ、夕子は初めてだからまずは今の能力測定からになるかな。パネルの出し方わかる?」


「えっと、あれ?」


「ちょっと貸して。ここをこうして……はい、ここ押して起動」


 蓬さんに手伝ってもらって天板を裏返すと、出てくるのは液晶画面。

 『デカいスマホだと思えばいい』と言われはしましたけど……私、スマートフォンなんて使ったことありませんわ。


「こ、この世界ってこんなハイテクありましたの?」


「これも戦英プロで作ったやつ。まあ、構造とかは転生者の持ち込んだスマホをほぼ丸写ししたらしいけど、『ゼット・ネイバー』が……ダミー! これって端末の方と同じで『ゼット・ネイバー』直接入れてあるんだっけー?」


「こっちはマザーコンピュータの方だけですよー」


「わかったー、ありがとー。説明が途中だったけど、社長が研究してる『ゼット・ネイバー』が電子機器とわりと相性良くって、自分でプログラム改良して、学習ゲームを作ってくれるから、遊びながら憶えられると思うよ」


「最初はスマホに入ってたアプリゲームのシステム丸パクリしかできなかったのに、今では自分たちそれぞれの好みに合わせてオーダーメイドしてくれてるっすからねぇ。前世にも欲しかったっすよ、こういうの」


「ねね、『勉強』って聞くだけで苦手そうにしてたもんね……『異世界来てまで学校の勉強なんて嫌っすよー!』って。あ、ちなみに『ゼット・ネイバー』が測定結果からレベルに合わせた学習ゲームを独自生成してくれるから、ついて行けないとかゲームが苦手とかっていうので悩むこともあんまりないと思う。あと、これも今のうちに教えておこっか」


 そう言って、蓬さんがポケットから取り出したのは……


「スマートフォン……ですの?」


「まあ、インターネットがないから本物のスマホほどなんでもはできないけど、一応通信機能はついてる端末。夕子にも後で配られると思う。で、これ見て?」


 蓬さんが見せたのは、『口の袋にお菓子をいっぱいに詰め込んだペリカン』のアイコン。

 その下にはお財布のマークと数字が表示されていますわ。


「『ペリカンコイン』っていう、社内施設専用の独自通貨(トークン)。大人組と違って、私たちCクラスのメンバーは外の通貨は所持も使用も禁止だから……そうしておかないと外で騙したり奪ったりした方が簡単ってなっちゃう人がいるし。転生特典使ってカジノでイカサマしまくって捕まった前科持ちとか……」


「ちょっ、唐突に人の黒歴史を掘り返さないでほしいんっすけど!?」


「まあ、それはともかく、私たちが趣向品を買ったりする時には基本これね。生活必需品の類は大体支給されるから自由に使えるお金だと思っていいよ。で、これを稼ぐ方法は色々あるけど、学習ゲームはわりと効率いいからみんな午後の基礎教養の授業は結構楽しみにしてる。レベル上がるともらえるコインも増えるし、注文できるマンガとかゲームアプリの種類も増えるよ。まあ、他の授業でもコインは入るし、夕子は知見の授業でたくさん書いてたから、もうお菓子くらいは買えるかな。後で『購買機』行って実際に買い物するやり方も見せておこっか」


 物質的な金貨でも紙幣でもなく通信端末をお財布代わりにするシステム……いわゆる、電子マネーというものなのでしょうけれど。

 そもそもお小遣いというものを与えられたことのない私には自分が知らない内に『お金』を稼いでいたという事実が新鮮で驚きでしたわ。


 そして、午後の基礎教養の時間を私の今の学力を測るテスト問題とチュートリアルに費やして……私の個人的な『後遺症』にまだ慣れなくてゆっくりしか読み書きができないのも相まって、気付けば思っていたよりも時間が過ぎていたようで。

 教室の皆さんの姿は蓬さん以外にありませんでしたわ。


「午後の『基礎教養』は設定されたノルマの分が終わったら自由に終わってもいい授業だからね。夕子も次からは好きなところで切って自由時間にしていいからね」


「あの、こんな時間までお付き合いさせてしまったなんて気付かなくて……」


「いいっていいって。こっちはその分ゲーム進めてコインゲットしてたし。でも、そろそろ夕方になっちゃうから今日の自由時間はなしかな。集合時間もうすぐだし」


「集合時間……ですの?」


 そういえば、『戦後英雄プロダクション』の社員としての仕事の説明で、私が社員として働くのは夕方辺りからになると言われていたはず。

 つまり、今からは一人前の社員としてのお仕事が……


「じゃ、部室行こっか。あ、その前に購買機でお菓子買って行くからちょっと寄り道するね」


「部室……?」




 十分後。

 宣言通りに自動販売機のような形の魔法人形(ゴーレム)から袋入りのお菓子の詰め合わせを買った蓬さんと一緒に校舎の中を歩いて、やってきたのは『初期対応部』という看板がかかった部屋。

 蓬さんがその扉を開けると……


「みんなごめーん、ちょっと遅くなっちゃった。はい、これみんなで食べよ」


「ん? ああ、今日のお菓子当番は部長だったっけ。どおりでお菓子が少ないと思ってた」


「夕子ー、七並べあと一人なら入れるけどやるー?」


 そこは、仕事場……とは思えないようなリラックス空間。

 クラスメイトの皆さんが集まってソファーで寝転がったり、カード遊びやボードゲームをしたり、本を読んだり何かを作っていたり。

 まるで……


「学校の部室……ですわね。私は……前を通り過ぎるだけだったので、よくは知りませんけど」


「うん、私たちの『仕事』は基本的にいつでも動けるように待機してることだからね。緊急出動がかからなければ日没が確認できるまで部屋で暇潰し。別にその間に遊んでても怒られないし、みんなでコインを出し合って、こういうボードゲームとか設備を買って空間を充実させてたら、いつの間にかこんな感じになってた。あ、別に自分はコイン出してないとか気にせず使ってね。夕子はまだコイン少ないし」


「は、はい……けれど、想像と違うという……私たちの、『戦後英雄プロダクション』のお仕事は……」


「入り口の看板に書いてあった通りだよ。私たちは『初期対応部』って部署だから。そうだね、とりあえずそっちの仕事内容から教えて……」


 と、蓬さんがそこまで言ったところで。


『ビィーッ!! ビィー!! ビィーッ!!』


 部室の天井から鳴り響く、けたたましいブザーの音。

 驚いて飛び上がった私と、私とは違う反応の素早さで手を止めて顔を上げる皆さん。


「Aパターンのブザー! 全員出動案件! ねね、片付けはお願い! 他のみんなは緊急出動!! 夕子もこれ着てついてきて!」


 壁にかけられていたオレンジ色のジャケットを投げ渡してくる蓬さん。

 皆さんもなんの相談もなく自分用らしいぴったりのサイズの上着をすぐに手に取ると、やりかけのものもそのままに部屋から駆け出していきますわ。


「え、あの、なんですの?」


「私たちの部署の仕事! これからみんなで『妖怪退治』! 夕子も急いで!」


「よ、妖怪退治ですの!?」




 ……pixivの方を覗いて『なんか変なことやってるなこの作者』と困惑していたであろう皆様。

 『こういうこと』でございます。


 どうぞこの先もお楽しみに。

 ご感想、コメント等も大歓迎ですのでよろしくお願いいたします。

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なんだこのフワフワ空間…。あとリーナさんの名前見る度に小柳さんがチラつく…本当いいキャラしてた ベルミュジさん達は好意ぶつけた相手に助けられたと思ったら人権剥奪されて奴隷アイドルやらされて真っ先に殴ら…
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