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『改変された世界で、俺のスキルがチートだった件』  作者: ばずみかん
第一部:異変の始まりと『運』の覚醒
8/60

第7話:初探索の終わりと神の沈黙

グリーンスライムとの奇妙な戦闘、そして自身の「運」が因果に作用しているかもしれないという漠然とした予感。田中学は動揺を抑えつつ、チュートリアルタワーの1階層の探索を続けた。スライム以外のモンスター、例えば硬い甲羅を持つカブトムシのようなモンスターや、動きの素早いウサギのようなモンスターにも遭遇したが、いずれも『鑑定』で弱点を見つけ出し、そしてやはり、どこか都合の良い「偶然」に助けられながら撃破することができた。


『倍々サイコロ』で強化した筋力と、どこからともなく湧いてくる「幸運」の恩恵は絶大だった。通常なら苦戦必至であろう状況でも、敵の攻撃が紙一重で避けられたり、隠されたアイテムや安全なルートが不自然なほど簡単に見つかったりした。まるで、このダンジョン全体が、学のために少しだけ優しくチューニングされているかのようだった。


気がつけば、学は広大な草原と森のエリアを抜け、洞窟のような場所にたどり着いていた。そこには、半透明の光の膜のようなものが張られた空間があった。近づいてみると、ステータスボードに「2階層への転移門」と表示される。これが、次の階層へ進むための扉らしい。


(まだ『倍々サイコロ』の効果時間中だけど、今日はこれくらいにしておこう…)


学は冷静に判断した。初めてのダンジョン探索で心身ともに疲弊している。何より、自身の「運」や「因果」に関する不気味な発見に、一人で整理する時間が必要だった。無理をして深層に進み、未知の危険に遭遇するのは賢明ではない。


転移門に触れる。すると、一瞬にして視界がホワイトアウトし、次に目を開けた時には、見慣れた自宅のリビングに立っていた。ダンジョンに入る前と同じ場所だ。体にはかすかな疲労感があるが、大きな怪我はない。


ステータスボードを開く。


【田中 学】

レベル: 5 (上昇していた!)

HP: 340/340

MP: 290/290

筋力: 23

敏捷: 24

体力: 27

魔力: 9

運: 77


短時間の探索で、レベルが5まで上がっていた。獲得したステータスポイントも、通常のレベルアップで得られるという5~10ポイントよりも多い気がする。これも『上限突破』というユニークスキルの効果なのだろうか? その効果の具体的な内容はまだ分からないが、自身の成長速度が異常であることだけは理解できた。


インベントリを確認する。討伐したモンスターからドロップした素材や、探索中に偶然見つけたらしい(これも『運』だろう)鉱石や薬草などが並んでいる。どれも『鑑定』で見ると、小さな数値ながら換金価値があると表示されていた。


(これ、結構な額になるんじゃないか…?)


サラリーマンの薄給に慣れきっていた学にとって、僅か数時間の探索で得たアイテムの価値は、驚くべきものだった。この世界では、「冒険者」として生計を立てることが、現実的な選択肢になりつつあるのだ。


テレビをつける。ニュース番組は、世界中でタワーが出現したこと、そして各国政府が対応に追われていることを報じていた。タワー内部で得られるドロップアイテムの公的買取制度が設立される見込みであること、冒険者向けの支援制度が検討されていることも伝えられている。世界は、学がダンジョンにいた僅かな時間の間にも、急速に変化していた。


「神」に関する報道は一切ない。改変直後の「共有夢」で世界に大宣言を行った地球の神は、それ以来完全に沈黙している。人々の間では、様々な憶測が飛び交っている。神はどこへ行ったのか? 本当に地球の意志だったのか? これは単なる気まぐれな実験なのか? 不安と困惑が、静かに、しかし確実に広がっていた。


学もまた、神の沈黙に得体の知れない不安を感じていた。壮大な試練を与えた後、放任する。それは人類への信頼なのか、それとも無関心なのか。どちらにしても、自分たちの運命は、もはや自分たちの手で掴み取らなければならないということだ。


窓の外を見る。ビルの谷間に、あの巨大なタワーが聳え立っている。それは、世界の変貌を象徴する存在であり、学の新しい人生の舞台となる場所だ。


僅かな時間で得た経験値とアイテム。異常な「運」と、それに伴うらしい「因果」への干渉。そして、謎に包まれた自身のユニークスキル。手応えはあった。この世界で、自分は生きていけるかもしれない。いや、この力があれば、ただ生きるだけでなく、何か大きなことができるかもしれない。


しかし、同時に、恐れも感じていた。自分の力は、あまりに規格外だ。この力が、自分をどこへ連れて行くのか。そして、沈黙した神の真意は何なのか。


初探索は終わりを告げた。しかし、これは始まりに過ぎない。学は、新たな世界の現実と、自身の内に目覚め始めた力に、静かに向き合い始めていた。沈黙した神の意志は測りかねるが、この世界がもう元には戻らないことだけは、確かだった。


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