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『改変された世界で、俺のスキルがチートだった件』  作者: ばずみかん
第一部:異変の始まりと『運』の覚醒
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第49話:斥候の接触、迫り来る真実

学はプニを伴い、自宅を出た。向かうは、東京湾岸エリアだ。自身の『真贋鑑定』と『魔力感知(微)』を最大限に活かし、政府が隠蔽する情報、そして異界の魔力の真の姿を、自らの目で確かめるつもりだった。


夜の湾岸エリアは、ニュースで報じられた通り、異様な空気に包まれていた。封鎖線が張られ、自衛隊員や冒険者ギルドの警備員が厳重な警戒を敷いている。しかし、その厳戒態勢を掻い潜り、学は廃墟となった倉庫街の奥へと進んでいく。彼の『隠密の香炉』と、プニの擬態能力が、その潜入を可能にした。


黒いもやが立ち込める中で、『魔力感知(微)』が激しく反応した。空気中の魔素が異常なまでに濃密で、空間そのものが歪んでいるのが肌で感じられる。


「プルル…こわい…」


プニの思念が学の頭に届く。その声には、普段のプニらしからぬ怯えが混じっていた。


「大丈夫だ、プニ。俺が守るから」


学はプニを抱きしめ、さらに奥へと進んだ。すると、瓦礫の陰から、微かな光が漏れているのが見えた。学は慎重に近づき、その光景に息を呑んだ。


そこに立っていたのは、一人の男だった。全身を黒いフード付きのジャケットに身を包み、夜闇に溶け込むように佇む彼の肌は、地球人のそれと変わらない。しかし、その瞳の奥には、どこか冷たい、そして異質な光が宿っていた。


男は、手にした端末を操作し、空間に投影された無数の光点と線が交錯する様を静かに見つめていた。それは、この惑星ほしで刻一刻と変化し続ける因果律の奔流を、彼が観測しているかのようだった。


学は咄嗟に身を隠した。彼の『真贋鑑定』が、男の存在が「異界」から来たものであることを告げていた。そして、その男が、先日九階層で感じた「冷たい観察者の視線」の主であると、学は確信する。


男は静かに呟いた。その声は、どこか諦めにも似た響きを含んでいた。


「…やはり、マグナス王のやり方では、この星は破滅するだけだ」


マグナス王? その名に、学は初めて「異界からの侵略者」の具体的な固有名詞を聞いた。男の視線が、学の隠れている方向へと向く。学は身構えたが、男は敵意を見せることなく、静かに語りかけた。


「そこにいる、名無し。君のことは、以前から観測していた」


学は驚きを隠せない。自分が「名無し」として活動していること、そしてその特異な能力に、この男は気づいていたのだ。


「私を恐れる必要はない。私は敵ではない。少なくとも、君が戦うべき相手ではない」


男はフードを僅かにずらし、その顔を僅かに晒した。その顔は、ニュースで見た地球人と寸分違わぬ、整った顔立ちをしていた。


「私の名は、ゼクス。君が『特異点』として、この星の因果に最も深く干渉し、予測不能な変化をもたらしている存在であると確信し、接触を試みた」


ゼクスはそう言って、再び端末に視線を戻した。


「この東京湾に現れ始めている『侵界の門』は、我々の星『ヴァルハザード』の一部勢力によるものだ。彼らは、自星の資源枯渇を救済という名目で、この地球を収奪しようとしている」


学は息を呑んだ。「ヴァルハザード」「収奪」。それは、神が語った「脅威」の真の姿を明らかにしていた。


「彼らの軍勢は強大だ。指揮官クラスの存在もおり、地球の兵器や、今の人類の力だけでは対抗は難しいだろう。貴殿の持つ因果律を操る力、そしてその成長速度は、私が観測してきたどの存在よりも異質だ。故に、君こそが、この絶望的な状況を覆す『変数』となりうる」


ゼクスの言葉は、学にとって衝撃的だった。自分という存在が、これほどまでに大きな意味を持つというのか。


「なぜ、俺にそのような情報を?」学は警戒を解かずに尋ねた。


ゼクスは静かに答えた。「我々もまた、マグナス王の強引なやり方に反対する者たちだ。無益な争いを望まない。しかし、彼の進攻を止めるには、外部からの力が必要となる。君は、その『可能性』を秘めている」


ゼクスは端末を操作し、空間にヴァルハザードの軍勢の一部を思わせる、巨大な魔獣や戦艦のホログラムを投影した。それらは、チュートリアルタワーのボスなど比較にならない、圧倒的な存在感を放っていた。


「これらは、彼らの先遣隊の一部に過ぎない。本格的な侵攻が始まれば、地球は瞬く間に焦土と化すだろう。貴殿は、この星を守りたいのだろう? ならば、もっと力をつける必要がある」


ゼクスはそう言って、学の瞳を真っ直ぐに見つめた。彼の言葉は、学がこれまで漠然と抱いていた不安と焦燥を、決定的な「危機感」へと変えた。


「俺は…」


学の脳裏に、妹の明日香の顔が浮かぶ。そして、まだ平和な日常を信じて生きる人々。彼らを守るためには、今、この瞬間にできることを全てやらなければならない。


「…分かった。俺は、やる」


学は静かに頷いた。ゼクスへの不信感が完全に消え去ったわけではない。だが、彼の言葉が真実を語っていることは、『真贋鑑定』が告げていた。そして、何よりも、今、自分に与えられたこの力を使うしかない。


「タワーの、最終階層…」


学は呟いた。まだ見ぬチュートリアルタワーの最終階層には、まだ未知の力が隠されているはずだ。そして、そこにこそ、この因果を切り開くための、さらなる進化の鍵があるはずだ。


「プルル…マナブ…!」


プニが学の腕の中で、強く震えた。その瞳には、学と同じ、強い決意が宿っている。


学はゼクスに背を向け、東京湾岸を後にした。彼の足取りは、もはや迷いを断ち切った者のそれだった。


「チュートリアルタワーの11階層…、そしてその先の最終階層へ。神の試練は最終段階に入る…」


学は、己の内に秘めた『運』と『因果固定・改』、そしてプニとの絆を信じ、来るべき真の戦いに備えるため、最後の試練へと挑むことを決意した。


その先には、一体何が待ち受けているのか。


彼は、まだ知らない。しかし、世界の命運は、今、彼「名無し」の手に委ねられようとしていた。


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