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『改変された世界で、俺のスキルがチートだった件』  作者: ばずみかん
第一部:異変の始まりと『運』の覚醒
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第39話:異界からの観測者、その名は――

チュートリアルタワー九階層で、古のゴーレム三体を撃破し、『真贋鑑定』という新たな力を手にした田中 学は、探索を中断し、自宅へと戻っていた。全身を襲う疲労は、これまでの激戦を物語っていたが、それ以上に、自身の内に芽生えた確かな手応えが、学の心を満たしていた。疲労困憊の体でソファに身を沈め、ふと窓の外へと目を向けた時、学の胸に、九階層の遺跡で感じた微かな「視線」の残滓が蘇る。


---


東京湾岸エリアの放棄された倉庫街に、夜のとばりが降りていた。さびた鉄骨が剥き出しになった倉庫群は、コンクリートの亀裂から生えた雑草に覆われ、人気のない静寂に包まれている。しかし、その廃墟の一角、ひっそりとたたずむ高層ビルの屋上には、人影が一つ、都市の灯りを眼下に静かに見下ろしていた。


その人影――ヴァルハザード王国の斥候兵ゼクスは、地球の人間と寸分違わぬ姿をしていた。黒いフード付きのジャケットに身を包み、夜闇に溶け込むように佇む彼の肌は、地球人のそれと変わらない。しかし、その瞳の奥には、どこか冷たい、そして異質な光が宿っていた。彼の視線は、都市の複雑な情報網を読み解くように、無数の光点と線が交錯する様を捉えていた。それは、この惑星ほしで刻一刻と変化し続ける因果律の奔流を、彼が観測している証でもあった。


ゼクスの目的は、地球の戦力分析と、「特異点」の探索だ。数週間前、この東京湾岸で頻発し始めた小規模な地盤沈下や魚介類の異常行動、海水温の急変は、彼らが異界の法則を地球に浸透させ始めた兆候に過ぎない。彼の同胞は、この惑星の法則をゆがめ、資源を収穫するための「前哨戦」を開始していた。そして、その過程で予測不能な「変数ヴァリアブル」が現れることがある。それが、この地球における「特異点」だ。


「……面白い」


ゼクスは、自身の視界に映し出された膨大なデータの中から、一つの特異な情報源に焦点を絞っていた。それは、「名無し」と名乗る一人の冒険者。彼の活動は、他のどのランカーとも一線を画していた。


ゼクスは、過去数週間の「名無し」の軌跡を追っていた。驚くべきは、その攻略速度と、彼が持ち帰るドロップ品の質だ。通常の冒険者であれば、数人がかりで挑むべき階層のボスを単独で撃破し、その都度、市場には希少な素材が流れ込む。これは、彼の突出した「運:77」という初期ステータスだけでは説明できない何かがあった。


ゼクスは、過去の彼の戦闘記録を詳細に解析していた。

2階層でのフロア・ギルマンとの戦闘では、ギルマンの攻撃が不自然なほど僅かに逸れ、同時に弱点であるエラが露呈する瞬間が度々見られた。

4階層のラピッドホーンやウィンドシーカーとの戦闘では、俊敏な敵の動きが直線的になったり、学の攻撃範囲内に「偶然」誘導されたりする現象が観測された。

5階層のガイア・ゴーレム戦では、プニの能力と連携した「奇跡的な一撃」でコアを破壊した。

7階層のクラーケン・ロードとの死闘では、高圧水流ブレスが致命的な直前で僅かに逸れる、というありえない回避を成功させていた。

そして、つい先日報告された8階層の炎帝バルログとの戦いでは、レベルが格上であるバルログのブレスが僅かに逸れたり、プニが視界を塞ぐことで生まれた一瞬の隙に、学が致命的な一撃を叩き込むという、奇跡的な勝利を収めている。


これらは全て、彼が持つ『因果固定』というユニークスキルによるものだとゼクスは分析している。ゼクスは、この因果律への干渉が、通常のスキルとは一線を画する「イレギュラー」な現象であることを正確に認識していた。


さらに、学の『上限突破』というスキルも、ゼクスの好奇心を刺激していた。彼のレベルアップ時の獲得ステータスポイントは、一般的な冒険者のそれをはるかに上回る。彼の成長には限界がないかのようだ。この常軌を逸した成長は、地球の神が設定した「チュートリアル」の範疇を超えた、まさに「特異点」の証明だった。


「なるほど……。これが、この星が隠し持っていた『可能性』か」


ゼクスは口元に微かな笑みを浮かべた。彼の所属する異界文明は、ヴァルハザード王国のマグナス王の侵略政策に反対する穏健派ではあるが、彼らもまた、マグナス王とは異なる意味で、この地球の力を測る必要があった。地球の戦力は、来るべき「高次元の脅威」に対抗しうるのか。その問いに対する一つの答えが、「名無し」こと田中 学という存在だった。


彼は、情報解析を通じて、学が自身の特異性を隠し、「名無し」として活動していることにも気づいていた。目立たず、しかし確実に力をつけ、世界の法則すらも捻じ曲げようとするその存在は、ゼクスにとって極めて興味深い研究対象だった。


ゼクスは、自身の端末に「名無し」に関する分析データを記録した。この情報は、彼が所属する勢力にとって、そして地球にとって、今後の運命を左右する重要な鍵となるだろう。東京湾に現れ始めた「侵界の門」の予兆は、間もなく訪れる本格的な侵略の始まりを告げている。その時、この「特異点」は、どちらの側に転ぶのか。あるいは、彼自身が新たな「因果」を創造するのか。


ゼクスは静かにビルの屋上を後にした。彼の瞳の異質な光は、夜の闇に吸い込まれていく。その影が、再び東京湾の異変の蠢く場所へと向かっていることは、学には知る由もなかった。


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