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『改変された世界で、俺のスキルがチートだった件』  作者: ばずみかん
第一部:異変の始まりと『運』の覚醒
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第35話:炎帝バルログ、運命の一閃

チュートリアルタワーの八階層、灼熱の溶岩地帯。田中 学は、相棒のプニと共にその最奥へと足を踏み入れていた。身体を焦がすような熱気が肺を満たし、呼吸は浅く速くなる。足元の岩場は熱を帯びており、所々から溶岩が音を立てて流れ落ちていた。


この階層で幾度となく遭遇したフレイムサラマンダーやマグマゴーレムとの戦闘は、肉体的にも精神的にも学を疲弊させていた。特に『因果固定』をより意識的に制御しようと試みた後、その代償として生じた頭痛や、些細な不運の連続が、学の心身に重くのしかかっていた。この力が世界の理に深く干渉するほど、その反動も大きくなる。だが、東京湾岸で感じた不穏な異変や、異界からの侵略という「真の脅威」を前に、立ち止まる選択肢は学にはなかった。


学の足元で、プニが不安げにプルプルと体を震わせる。灼熱の環境はプニにとっても過酷だろう。だが、その瞳には、学を案じ、共に戦おうとする健気な光が宿っていた。


「大丈夫だ、プニ。あと少しだ」


学は優しくプニに語りかけ、深呼吸をする。この先に待ち受けるのは、八階層の支配者、「炎帝バルログ」だ。事前に集めた情報によると、その火力と範囲攻撃は桁違いで、生半可な防御では瞬く間に灰燼に帰すという。学は、すでに手中に収めている『高速回復薬』や『強化ポーション』をインベントリから取り出し、いつでも使えるよう準備を整えた。


溶岩流が合流する巨大な空洞にたどり着いた時、その異様な存在は学たちの目の前に現れた。


ゴオオオオオオォォォォ!


背筋を凍らせる咆哮が、溶岩の熱波を揺らしながら空間に響き渡る。灼熱の溶洞の奥から、巨大な漆黒の影が姿を現した。それは、まさに「炎帝」の名に相応しい、炎と溶岩で構成された体躯を持つ魔神のような存在だった。その巨大な角は天井を突き破らんばかりに伸び、全身からは絶えず溶岩が滴り落ち、地面に触れる度にジュワッと音を立てて熱気を発していた。


【炎帝バルログ】


レベル:45


HP:2500/2500


特性:超高火属性攻撃力、広範囲攻撃、自己再生(炎環境下)、物理攻撃耐性(全身)、魔力攻撃耐性(特定の部位)


弱点:核(胸部に隠された部位、特定条件下で露出)、水属性(極大)、冷気属性(極大)


学は咄嗟に『鑑定』スキルを発動させ、バルログの情報を確認した。レベル45――学の現在のレベルを遥かに上回る。HPは2500。そして、その特性の多さに、学は思わず息を呑んだ。「超高火属性攻撃力」、「広範囲攻撃」……何よりも厄介なのは「自己再生」と「物理攻撃耐性」だろう。まともに戦っていては、こちらが消耗し尽くす。


「プニ、弱点は…核、か。それに水属性と冷気属性…」


学は呟いた。プニは『放電(微)』スキルを持つが、水属性は専門ではない。しかし、自身もプニも『因果固定』という、切り札がある。


ゴオオォォォン!


バルログが巨体を震わせ、その体から周囲に溶岩が飛び散る。学に気づいたバルログは、その巨大な口を開き、真っ赤な灼熱のブレスを吐き出した。熱波が空間を飲み込み、視界が歪む。


「くっ!」

「プニ、回避!」


学はプニを抱え込み、岩陰に転がり込んだ。しかし、ブレスは学たちがいた岩場を瞬く間に溶かし、その勢いは止まらない。灼熱のブレスはそのまま岩壁に激突し、巨大な岩を溶岩に変えながら空間に衝撃波を響かせた。


学の身体からは、止めどなく汗が吹き出る。MPゲージに目をやると、先ほどの一瞬の『因果固定』による回避で、大きく減少している。バルログの攻撃は、これまでの敵とは比較にならないほど強大だ。無自覚に『因果固定』を使い続ければ、MPが枯渇し、その代償として激しい疲労や「世界の修正力」からの反動が顕在化するだろう。


「このままだと、ジリ貧だ…」


学は『シャドウダガー』を構え、バルログに肉薄しようと試みた。しかし、その圧倒的な存在感と、周囲に広がる熱気に阻まれ、なかなか間合いを詰められない。バルログが腕を振り下ろす度に、地面が揺れ、頭上から灼熱の岩石が降り注ぐ。学はひたすら回避に徹するが、攻撃の隙は一向に見つからない。


プニも学を懸命にサポートしていた。バルログの周囲に満ちる炎の魔素を吸収し、その体表を赤く染めながら、僅かな熱風を放ち、バルログのブレスの軌道を微かに歪ませる。また、学の足元にまとわりつくことで、溶岩の熱から彼を守ろうとする。しかし、プニの体も、バルログの放つ高熱にじゅんじゅんと焼かれ、その体が僅かに小さくなっていくのが見えた。


「プニ…!」


学はプニがダメージを受けていることに焦りを覚える。だが、プニは小さく「プルル…!」と鳴き、学に「大丈夫」と伝えようとするかのようにプルプルと震えていた。その健気さに、学は胸を締め付けられる。


この状況を打開するには、一か八かの大技に賭けるしかない。学は自身の奥底に眠る力を引き出すことを決意した。


「『倍々サイコロ』…!」


学は心の中で、強く念じた。目の前に光を帯びたサイコロが現れる。いつもならば「運」以外のステータスに振ることも考慮するが、今回は違った。この絶望的な状況を覆すには、彼の最大の武器である「運」の力を最大化するしかない。


「『運』に…全振りだ!」


学がそう念じると、サイコロは宙を舞い、カラン、コロンと音を立てて回転を始めた。その間、バルログの巨大な爪が学を捉えようと迫る。学は歯を食いしばり、サイコロの動きに集中した。そして、やがて止まった出目は――「6」。


運:462(77 × 6)


桁違いの「運」の奔流が、学の全身を駆け巡る。それに呼応するように、学の瞳が鋭さを増し、バルログの巨大な体が、まるで因果の糸で繋がれたかのように、僅かに、しかし決定的に揺らいで見えた。


「ここだ…! 『因果固定』!」


学は、MPの消耗が激しいことを承知の上で、意識的に『因果固定』を最大限に発動させた。彼の脳裏には、バルログの攻撃が致命的な瞬間に僅かに逸れ、同時にその核が露呈するという明確な未来のビジョンが描かれていた。


「バルログのブレスが、海底の微細な地形変動によって、致命的な一撃となる直前で僅かにズレる。そして、その一瞬の隙に、プニの酸と俺のシャドウダガーによる連撃が、最も有効な弱点に集中する!」


強引な因果の操作は、学に激しい頭痛をもたらした。まるで脳を直接掻き混ぜられるような不快感が襲い、視界が歪む。MPゲージはみるみるうちに減少し、ほぼゼロに近づいていた。意識が朦朧とするが、学は歯を食いしばり、この戦いに全てを賭けた。


轟音と共に、バルログの高熱ブレスが炸裂する。しかし、その軌道は学が固定した未来の通り、ほんの数センチだけ逸れた。学は紙一重でそれを回避する。その瞬間、彼の視界の端に、バルログの胸部が微かに、しかし確かに光るのが見えた。核だ!


「今だ、プニ!」


学が叫んだ瞬間、プニは学の意図を汲み取ったかのように、バルログの巨大な顔面へと飛びかかった。プニの体から放出される粘性の体液が、バルログの巨大な目を覆い、視界を奪う。


ゴオオォォォ!


視界を奪われたバルログが、混乱したように身をよじる。その一瞬の隙、学は残された全力を込めてスキルを発動させた。


「『運否天賦』!」


自身の「運」462という桁違いの数値を消費し、文字通り「天からの一撃」を放つユニークスキル。学の背筋を冷たいものが走るが、躊躇はなかった。ダガーがバルログの胸部に吸い込まれるように突き刺さる。そして、青白い光が爆発的に輝いた。それは、学の因果固定が導き出した「核」の弱点に、彼の全存在を乗せた一撃が吸い込まれた瞬間だった。


ゴォォォォォォォ!


断末魔とも絶叫ともつかない、耳をつんざくような音が響き渡る。バルログの巨大な体が内側から崩壊を始めた。全身から溶岩が噴き出し、漆黒の岩石が砕け散っていく。数秒後、そこには何も残らなかった。


学は荒い息を整えながら、崩壊したバルログの跡地を見つめた。満身創痍。全身の筋肉が軋み、頭の奥には激しい頭痛が残っている。MPゲージは完全に底を突き、意識が朦朧とする。これが、『因果固定』を極限まで使った代償、そして『運否天賦』を発動した反動か。


だが、学の顔に、疲労困憊の中に確かな達成感が浮かんだ。


「やった…! プニ、お前のおかげだ…!」


学は力なくプニを抱き上げた。プニは小さく「プル…」と鳴き、学の頬にそっと体を擦り寄せる。


その時、学の視界に、勝利を告げるメッセージが浮かび上がった。


「炎帝バルログを撃破しました。」


「経験値を大量に獲得しました。」


「レベルアップしました!」


大幅な経験値を獲得し、学のレベルは一気に34まで上昇した。獲得したステータスポイントの多さに、学は改めて『上限突破』の恩恵を実感する。


そして、地面に転がるドロップアイテムに学の視線が引き寄せられた。


『バルログの心臓』(超希少素材)、そして『炎獄の魔石』(レア素材)。


破格のドロップ品だ。これだけあれば、強力な耐火装備の製作や、さらに高品質な強化ポーションの生成が可能になるだろう。


しかし、その喜びも束の間、学はプニの体に異変が起きていることに気づいた。バルログの心臓を捕食したプニの体が、微かに虹色に明滅し始め、その不定形だった体が、少しずつ球形に近づき、まるで心臓のように微かに脈動している。プニの体内に、膨大な炎の魔素が吸収され、それが新たな進化の段階へと導いているかのようだった。


「プニ…お前、また…」


学はプニを見つめた。この灼熱の地が、プニに新たな進化の扉を開こうとしている。彼の相棒は、この過酷な試練を乗り越え、さらに強力な存在へと変貌しようとしていた。


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