第12話:小さな相棒、運命の邂逅
自宅に戻った学は、ソファに身を沈め、大きく息を吐いた。ダンジョン内の張り詰めた空気から解放され、ようやく自分の部屋に戻ってきたという実感が湧いてくる。体には程よい疲労感が残っていたが、それ以上に、二階層を自分の力で踏破できたという達成感があった。
ステータスボードを開く。レベルが僅かに上昇し、インベントリには二階層で得た素材やアイテムが幾つか追加されている。中でも目を引いたのは、「ガチャコイン」の枚数だ。二階層のモンスターは一階層よりもドロップ率が良いのか、あるいは自身の『運』の効果か、まとまった数のコインが貯まっていた。
(よし…二階層突破記念に、やってみるか)
学は心の中でガチャを引くことを決めた。そして、自身の最大の武器である『倍々サイコロ』の発動を念じる。目の前に、光を帯びた不思議なサイコロが現れる。指定ステータスはもちろん「運」だ。
「頼む…!」
学がそう念じると、サイコロは宙に浮き上がり、カラン、コロンと音を立てて回り始めた。その間、学の心臓は激しく高鳴っていた。最高の出目を願いながら、じっとサイコロの動きを見つめる。そして、やがて止まったサイコロの出目は――**「6」** 。
「っ、よし!」
学は思わずガッツポーズをした。ステータスボードの「運」の数値が瞬時に更新される。【運: 462 (77 × 6)】[4]。桁違いの「運」が、学の全身を駆け巡るような感覚に陥る。
この最高の状態で、学はステータスボードの「ガチャ」の項目を選択した。貯まったガチャコインを投入する。SEが頭の中に響き、アイテムアイコンが表示されていく。
期待と緊張が入り混じる中、表示されたアイテムの中に、見慣れないアイコンがいくつか含まれていることに気づいた。一つは本の形をしたアイコン、そして、見たこともない武器や装飾品のアイコンだ。
表示されたアイテムの説明文を『鑑定』スキルで確認する [5]。
【『召喚』スキルブック】
使用するとスキル『召喚』を習得できる。
【『深淵の外套』】
防御力+20、暗闇での視界を微かに向上。
【『エラのピアス』】
水中で呼吸が可能になる。
「…っ!」
学は驚きを隠せなかった。『召喚』スキルブック! そして、二階層攻略に役立ちそうな装備品まで。特に『エラのピアス』は、6階層以降の攻略に必須となる水場での活動にうってつけだ。
学は迷わずスキルブック『召喚』を使用した。スキルブックが光の粒子となって学の体内に吸収されていく。そして、学の眼前に新たなスキルが習得されたというメッセージが表示される。
学が『召喚』スキルを念じると、足元に小さな魔法陣が出現した。魔法陣が輝き、その中から、プルプルと震える緑色の半透明な塊が現れる。それは、チュートリアルタワーの1階層で最初に出会ったモンスター、「スライム」にそっくりだった。
小さなスライムは、学を見上げてプルプルと揺れている。どこか頼りない、しかし純粋な気配を感じた。
「お前が…俺の相棒か」
学は自然と笑みがこぼれた。平凡なサラリーマンだった自分に与えられた、最初で唯一の仲間。学は、その小さなスライムに優しく語りかけた。
「よし、お前は今日から…プニ、だ。よろしくな、プニ」
「プル…」
プニは小さく鳴き、学の足元にまとわりつくように寄ってきた。学はプニを抱き上げた。まだ柔らかく、少しひんやりとした感触だ。
新たなスキルと相棒、そしてガチャで得た装備品。学は、この変貌した世界を生き抜くための、そして深まる世界の謎に立ち向かうための新たな「鍵」を手に入れたことを実感していた。平凡なサラリーマンと小さなスライム、そして規格外の「運」の力。彼らの奇妙な冒険が、今、ここから本格的に始まろうとしていた。
---




