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第9話:工房防衛戦 ~炎と知恵と、絆の力~

1. 嵐の前の静寂、固まる覚悟


煤煙地区の夜は、いつも以上に深く、重たい沈黙に支配されていた。月明かりすら、厚い煤煙の雲に遮られ、路地は濃密な闇に沈んでいる。時折、遠くで響く工場の低い唸りや、野良犬の遠吠えだけが、この街がかろうじて生きていることを示していた。だが、その音さえも、今夜はどこか不気味な響きを帯びて聞こえる。


工房『再生の枝』の中は、ランプの乏しい光が揺らめき、壁に幾重もの影を落としていた。外の静寂とは裏腹に、工房の中は、張り詰めた緊張感で満たされていた。エミリア、サラ、フィン、そして日雇い労働者のまとめ役であるボルグ。さらに、ボルグの呼びかけに応じ、最後までエミリアと共に戦う覚悟を決めた、数人の屈強な男たち。彼らは皆、言葉少なに、しかし決意を秘めた目で、工房の入口や窓の外を警戒していた。


いつ来るか分からない、黒爪ジャックの手下たちによる襲撃。それは、もはや避けられない運命のように、彼らの頭上に重くのしかかっていた。菜園が荒らされ、倉庫が放火されかかったあの日から、工房周辺には常に不穏な空気が漂い、見えざる視線が注がれていた。カラスからもたらされた、「ジャックが本気で動き出した」という情報は、その脅威を決定的なものとしていた。


「…本当に、来るんでしょうか」

若い労働者の一人が、不安げに呟いた。彼の声は、静寂の中で妙に大きく響いた。

「ああ、間違いなくな」ボルグが、低い声で答えた。「奴らは、俺たちが希望を持つことを許さねぇ。俺たちが、自分たちの力で立ち上がろうとすることを、何よりも恐れてるんだ。だから、潰しに来る。徹底的にな」

その言葉に、皆、息を呑んだ。恐怖が、じわりと肌を這い上がってくる。


エミリアは、工房の中を見回した。壁には、ギブソン親方が急遽取り付けてくれた、錆びた鉄板が補強として打ち付けられている。窓も、厚い木の板で内側から塞がれ、僅かな隙間だけが残されている。入口の扉の前には、作業台や、重い材料の入った袋などが積み上げられ、簡易的なバリケードが築かれていた。

そして、工房のあちこちには、エミリアが最後の悪あがきとして準備した、「錬金術師のトラップ」が仕掛けられていた。それは、決して強力な兵器ではない。だが、彼女の持つ知識と、限られた資源を最大限に活用した、知恵と工夫の結晶だった。


(これで、少しでも時間を稼げれば…皆を守ることができれば…)

エミリアは、震える手で、作業台の上に並べた薬品の小瓶を確かめた。アンモニアを濃縮したもの、唐辛子や催涙効果のある植物から抽出した刺激成分、そして、燃やすと眩い閃光を発する、マグネシウムに似た性質を持つ(しかし、より安価で不安定な)金属粉末…。どれも、扱いを間違えれば、自分たちにも危険が及ぶものばかりだ。だが、今は手段を選んでいられない。


隣の金属加工所では、ギブソン親方が、炉に火を入れたまま、巨大なハンマーを傍らに置いて、工房の方を窺っている気配がした。彼は、「俺は関わらん」と言いながらも、明らかに臨戦態勢だった。薬草店『癒しの葉』でも、マリアがランプの灯りの下、薬草を煎じながら、万が一の事態に備えていることだろう。

(私たちは、一人じゃない…)

その事実だけが、エミリアの心を支えていた。


フィンは、工房の隅で、ボルグにもらった短い鉄の棒を、固く握りしめていた。彼の顔には、恐怖の色もあったが、それ以上に、エミリアや仲間たちを守るのだという、強い決意が浮かんでいる。サラも、落ち着かない様子で工房の中を行き来しながらも、時折、不安げな表情を見せる仲間たちに、力強い言葉をかけて励ましていた。

「大丈夫だよ! あのエミリアさんが付いてるんだ! きっと、何とかなるさ!」


エミリアは、深呼吸を一つした。怖い。正直に言えば、足が竦むほど怖い。だが、ここで逃げるわけにはいかない。ここで立ち止まるわけにはいかないのだ。

彼女は、胸に下げた、小さな革袋にそっと触れた。中には、アカデミー時代の恩師から、卒業の際に餞別として贈られた、小さな羅針盤が入っている。それは、どんな状況でも正しい方向を示す、錬金術師にとってのお守りのようなものだった。

(先生…見ていてください。私は、私の信じる道を、進みます)

エミリアは、瞳に強い意志の光を宿し、工房の入口へと向き直った。


2. 闇を裂く怒号、襲撃開始


その時は、突然訪れた。

深夜の静寂を破り、工房の外から、複数の男たちの怒号と、木製の扉を乱暴に打ち破ろうとする鈍い衝撃音が響き渡ったのだ。

ドン! ドン! ドンドンッ!!

「開けろ! この中にいるんだろ、錬金術師の女!」

「さっさと出てこねぇと、火を放つぞ!」

下品な罵声と共に、扉の隙間から、松明の赤い光が揺らめくのが見えた。


「…来たか!」

ボルグが、低い声で呟き、手に持った鉄パイプを握りしめた。他の男たちも、緊張で顔を強張らせながら、それぞれの得物(?)を構える。

「みんな、落ち着いて! 私の合図があるまで、動かないで!」

エミリアは、震えを抑えながら、指示を出した。心臓が、胸の中で激しく鼓動している。


バリケードで補強された扉は、しばらくの間、襲撃者たちの攻撃に耐えていた。だが、相手は多人数で、しかも躊躇がない。ついに、バキィッ!という嫌な音と共に、扉の一部が破壊され、隙間から数人の男たちが、棍棒やナイフを手に、雪崩れ込んできた!


「今よ!」

エミリアが叫ぶのと同時に、彼女が仕掛けた最初のトラップが作動した。入口付近に置かれていた、加熱された薬品の入った壺が倒れ、中から強烈なアンモニア臭と、唐辛子由来の刺激成分を含んだ白い煙が、勢いよく噴き出したのだ!

「ぐわっ! な、なんだこりゃ!?」

「目が、鼻が…! 痛ぇ!」

突入してきた男たちは、不意打ちの煙幕と催涙効果に、激しく咳き込み、目を押さえてうずくまった。視界を奪われ、呼吸もままならない。


「今だ! やっちまえ!」

ボルグの号令で、待ち構えていた仲間たちが、煙の中から飛び出した! 手にした鉄パイプやハンマーで、混乱する襲撃者たちに殴りかかる。不意を突かれた手下たちは、まともな抵抗もできずに、次々と打ち倒されていった。


だが、敵はそれで終わりではなかった。工房の外には、まだ多くの手下たちが控えている。そして、彼らを指揮しているのは、あの冷徹な男、グレイブスだった。

「怯むな! 煙に構わず突入しろ! 女を生け捕りにするんだ!」

グレイブスの冷静な指示が、闇の中から響く。彼は、煙の中から現れ、手にした長いナイフを煌めかせながら、冷静に状況を観察していた。その目は、一切の感情を映さず、ただ冷ややかに、獲物であるエミリアを探している。


第二波、第三波の襲撃者たちが、煙をものともせずに工房内へ突入してくる。ボルグたちは、数の差に押され始め、徐々に後退を余儀なくされた。工房の中は、怒号と悲鳴、金属がぶつかり合う甲高い音、そして刺激臭の混じった煙で、まさに地獄絵図と化していた。


「サラさん、お願い!」

エミリアは、工房の隅で熱湯を沸かしていた(これもトラップの一環だ)サラに合図を送る。サラは、頷くと、煮えたぎる湯の入った桶を抱え、突入してきた手下たちに向かって、勢いよくぶちまけた!

「ぎゃああああっ!」

熱湯を浴びた数人の手下が、悲鳴を上げて転げ回る。その隙に、エミリアは次のトラップを発動させた。床に撒いておいた、粘度の高い油(石鹸製造の副産物と、入手した廃油を混ぜたもの)だ。

「うわっ!」「なんだこれ!?」

後続の手下たちが、滑りやすい床に足を取られ、次々と派手に転倒する。体勢を立て直そうにも、油で滑ってままならない。


「フィン、今よ!」

エミリアは、工房のはりの近くに隠れていたフィンに合図した。フィンは、頷くと、事前に準備していた、金属粉末(マグネシウムに似た性質を持つ、不安定な合金の粉)の入った小さな袋を、下の混乱めがけて投げ落とし、同時に、エミリアがアルコールランプの火をそれに向けた!

パァァァァッ!!!

一瞬、工房全体が、目も眩むような強烈な白い閃光に包まれた!

「ぐっ…! 目が、目がぁぁ!」

閃光をまともに見た襲撃者たちは、一時的に視力を奪われ、完全に混乱状態に陥った。


「今だ! 一気に押し返すぞ!」

ボルグが叫び、仲間たちと共に、最後の反撃に出る! 混乱する敵を、容赦なく打ち据える。

その時、工房の隣から、地響きのような雄叫びと共に、巨大な影が飛び込んできた!

「うおおおおおっ! 俺の縄張りで、好き勝手させっかよぉぉぉっ!!」

ギブソン親方だ! 手には、愛用の巨大な鍛冶用ハンマーを構えている。彼は、目を眩ませてうろたえる手下たちの中に飛び込むと、そのハンマーを、まるで竜巻のように振り回し始めた!

ゴッ! バキッ! ドガッ!

鈍い音と共に、手下たちが次々と紙屑のように吹き飛ばされていく。その圧倒的なパワーと迫力に、残っていた手下たちも、完全に戦意を喪失したようだった。


3. 揺らぐ心、試される絆


工房内での激しい戦闘が続く中、外では別のドラマが進行していた。

襲撃の物音と怒号は、静まり返っていた煤煙地区の夜に響き渡り、多くの住民たちを不安な眠りから覚まさせた。窓の隙間から、工房が襲撃されている様子を目の当たりにし、彼らの心は激しく揺れ動いていた。

「…やっぱり、ジャック様は本気だ…」

「エミリアさんたちは、もう駄目かもしれない…」

「俺たちまで巻き込まれるのは、ごめんだ…」

恐怖に支配され、固く家に閉じこもる者。あるいは、この機に乗じて、ジャック側に寝返ろうと考える者もいたかもしれない。実際、襲撃者の中には、工房の内部構造や、エミリアたちが準備していたトラップの情報を、事前に知っていたかのような動きを見せる者もいた。誰かが、裏切ったのだ。


だが、全ての住民が恐怖に屈したわけではなかった。

「…ちくしょう! このまま見てるだけなんて、できるかよ!」

ボルグと共に戦う覚悟を決めていたが、家の事情で工房に入れなかった若い男が、意を決して家を飛び出した。彼は武器を持たない。だが、手に石ころを掴むと、工房を取り囲む手下たちに向かって、力いっぱい投げつけた!

「ジャックの手先ども! 出ていけ!」

彼の行動に呼応するように、他の家からも、石や、野菜くずや、汚物などが投げつけられ始めた。最初は数人だったが、その輪は少しずつ広がっていく。

「エミリアさんをいじめるな!」

「俺たちの畑を返せ!」

「もう、あんたたちの言いなりはごめんだ!」

それは、武器を持たない、名もなき住民たちの、勇気ある抵抗だった。彼らの声と行動は、直接的な戦力にはならないかもしれない。だが、襲撃者たちの動揺を誘い、そして、工房の中で戦うエミリアたちの心を、強く、強く励ました。


一方、マリアは、襲撃が始まると同時に、彼女の薬草店の地下にある、小さな隠し部屋を開放していた。そこは、彼女が万が一のために用意していた、安全な避難場所だった。彼女は、戦闘の中で負傷したボルグの仲間や、恐怖で泣き叫ぶ子供たちを、手際よく地下室へと誘導し、落ち着かせた。そして、手持ちの薬草と道具を使い、迅速に応急手当を行っていく。

「よしよし、もう大丈夫だよ。すぐに良くなるからね」

その穏やかな声と、確かな手当ては、混乱と恐怖の中にあって、唯一の安らぎとなっていた。彼女の瞳の奥には、かつて修羅場を経験した者だけが持つ、静かな覚悟が宿っていた。


4. 影の介入、計算か、気まぐれか


戦闘は佳境に入っていた。ギブソン親方の圧倒的なパワーと、住民たちの予想外の抵抗、そしてエミリアの仕掛けたトラップによって、ジャックの手下たちは大きな損害を受け、数も減っていた。だが、彼らを率いるグレイブスは、依然として冷静さを失っていなかった。彼は、乱戦の中から、的確にエミリアの位置を捉え、一直線に彼女へと迫ってきたのだ。

「…見つけたぞ、錬金術師」

グレイブスの手にしたナイフが、ランプの光を反射して、冷たく煌めく。その殺気に、エミリアは身動きが取れなくなった。ボルグやギブソン親方は、他の手下たちと交戦中で、助けに来られない。フィンは、エミリアを守ろうと鉄の棒を構えるが、グレイブスの威圧感の前に、足がすくんでしまっている。

(…ここまで、なのか…!)

エミリアが、覚悟を決めて目を閉じた、その瞬間だった。


ヒュッ!

鋭い風切り音と共に、どこからか一本の投げナイフが飛来し、グレイブスが振り上げたナイフの手元を、正確に弾き飛ばした!

カラン!と音を立てて、ナイフが床に転がる。

「!?」

グレイブスが、驚いて周囲を見回すが、投げナイフがどこから来たのか分からない。工房の屋根裏の梁の影か、あるいは、外の闇の中か。

その一瞬の隙を突いて、フィンが叫びながら、グレイブスの足元に体当たりを食らわせた! 子供の力では、びくともしないはずだった。だが、体勢を崩していたグレイブスは、不意を突かれて、わずかにバランスを崩す。

「小僧っ!」

グレイブスが、怒りに顔を歪め、フィンを蹴り飛ばそうとした、その時!


ガラガラッ! ドシンッ!!

工房の天井の一部が、突然、大きな音を立てて崩れ落ち、瓦礫と埃が、グレイブスの頭上へと降り注いだ! 幸い、直撃は免れたが、グレイブスは瓦礫に足を取られ、動きを封じられてしまう。

(罠…!? いや、こんなところに罠を仕掛けた覚えは…)

エミリアも、何が起きたのか分からず、呆然としていた。


その混乱の最中、遠くから、微かに、しかし確実に、都市管理局の衛兵たちが使う、警笛の音が聞こえてきたのだ。

ピーッ! ピーッ!

「…ちっ、衛兵だと…?」

グレイブスは、忌々しげに舌打ちした。なぜ、こんなタイミングで衛兵が? 誰かが通報したのか? ジャックが手を回しているはずなのに…。


「…撤退する!」

グレイブスは、状況が不利になったと判断し、短く命令を下した。彼は、瓦礫の中から素早く身を抜き出すと、エミリアを鋭く一瞥し、「…覚えていろ」という無言のメッセージを残して、残った手下たちと共に、闇の中へと撤退していった。


工房に残されたのは、破壊された家具、散乱した薬品や材料、そして、傷つき、疲れ果てたエミリアと仲間たちの姿だった。

(…助かった…のか…?)

エミリアは、まだ信じられない気持ちで、崩れた天井を見上げていた。あの投げナイフ、そして都合の良すぎる天井の崩落と、衛兵の出現…。まさか、これもカラスの仕業なのだろうか?

近くの建物の屋根の上で、黒い外套の影が、満足げに口元を歪め、闇に溶けるように姿を消したのを、エミリアは知らない。カラスの真意は、依然として謎のままだった。


5. 夜明けの誓い、灰の中から


やがて、東の空が白み始め、煤煙地区に朝の光が訪れた。朝日が、破壊された工房『再生の枝』の惨状を、容赦なく照らし出す。壁には穴が開き、窓は砕け散り、床には血痕と、薬品や油のシミが無数に残っている。エミリアたちが丹精込めて作った石鹸や、改良を重ねてきた堆肥の材料も、その多くが戦闘の余波で台無しになってしまっていた。


エミリアは、工房の入口に立ち、その光景を呆然と見つめていた。仲間たちも、言葉なく、疲れ果てた表情で、あるいは傷の手当てを受けながら、静かに朝を迎えていた。フィンは、腕に巻かれた真新しい包帯(マリアが手当てしてくれたものだ)を気にしながらも、エミリアの隣に寄り添っている。サラやボルグ、そしてギブソン親方も、無言のまま、しかしその瞳には、複雑な感情が宿っている。

失ったものは、あまりにも大きかった。工房は半壊し、貴重な資材も失われた。何人かの仲間は、重傷を負い、マリアの店で治療を受けている。そして、住民たちの間に生まれた恐怖と不信感は、簡単には消えないだろう。これは、決して勝利と呼べるものではなかった。あまりにも大きな代償を払った、過酷な防衛戦だったのだ。


(…私のせいだ…私が、皆を巻き込んでしまった…)

自己嫌悪と無力感が、再びエミリアの心を襲う。俯きかけた彼女の視界に、工房の隅で、奇跡的に無事だった、小さなカブの苗が植えられた植木鉢が映った。それは、収穫祭の時に、フィンが「工房でも育てるんだ!」と言って、こっそり植えたものだった。激しい戦闘の中、それは倒れることもなく、健気に小さな双葉を開いている。


その小さな緑の芽を見た瞬間、エミリアの心に、再び力が湧き上がってくるのを感じた。

そうだ。私たちは、守り抜いたのだ。この工房を、仲間たちを、そして、未来への希望の種を。

失ったものは大きい。だが、得たものも、確かにあったはずだ。恐怖に打ち勝ち、共に戦ったという経験。絶望的な状況の中でも、決して諦めなかった人々の勇気。そして、この試練を経て、さらに強くなった、仲間たちとの揺るぎない絆。


エミリアは、ゆっくりと顔を上げた。そして、集まった仲間たちの顔を、一人一人、しっかりと見つめた。彼らの顔には、疲労と悲しみはあったが、絶望はなかった。むしろ、困難を乗り越えた者だけが持つ、静かな力強さが宿っているように見えた。

「皆さん…」

エミリアは、震える声で、しかしはっきりと、語りかけた。

「昨夜は…本当に、ありがとうございました。そして、申し訳ありませんでした。私のせいで、皆さんを危険な目に遭わせてしまい…」

「やめろよ、エミリアさん」ボルグが、エミリアの言葉を遮った。「あんたのせいじゃねぇ。悪いのは、力で俺たちを支配しようとする、ジャックの連中だ。それに、俺たちは、あんたに無理やり付き合わされたわけじゃねぇ。自分たちの意志で、ここに残って戦ったんだ」

「そうだよ、エミリアさん!」サラも、力強く頷いた。「あたしたちは、もう、あいつらの言いなりになるのは、ごめんなんだ! あんたと一緒に、この街を変えたいんだよ!」

「姉ちゃん…俺、姉ちゃんを守れて、良かった…!」フィンが、涙ぐみながら、エミリアの手を握った。

ギブソン親方も、隣で腕組みをしながら、「…ふん。まあ、少しは見所のある奴らじゃねぇか」と、ぶっきらぼうに呟いた。


仲間たちの言葉が、エミリアの心を温かく満たしていく。そうだ。私たちは負けていない。私たちは、まだ、ここに立っている。

エミリアは、改めて工房を見回した。破壊され、煤けた、惨めな姿。だが、ここから、また始めればいいのだ。

「…ええ、そうですね」

エミリアの瞳に、再び強い決意の光が宿った。彼女は、仲間たちに向かって、静かに、しかし力強く宣言した。

「また、ここから始めましょう。何度壊されても、私たちは、また再生できる。私たちが、立ち止まらない限り」


朝の光の中で、エミリアの言葉は、灰の中から立ち上がる不死鳥のように、力強く響き渡った。工房の再建、ジャックへの反撃、そして、煤煙地区の未来をかけた、本当の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。

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