1話-「おはよー」
「おーい、聞こえるー?え?これ逝っちゃった?手遅れかなあ、後で俺が怒られちゃうじゃん」
「(…誰か…いる?)」
「あ、目開けた!おはよー!起きてくださーい」
「(うるさいな…もう1人にしてくれ…)」
「『うるさいな、もう1人にしてくれ』って?聞こえてるんだってば全部。そーゆーのいいから早く起きてくれない?」
「ーッ!」
拓磨はっとして目を開いた。今の彼の視界には自室の天井があり、その真ん中には覗き込む長髪の男らしき人の顔が笑っていた。
「…誰?」
拓磨が尋ねるとその男はムスッとして垂らしていた髪をくくった。
「驚くと思ったのにー。それよりまず先にキミ。起きれる?なにか気持ち悪いとかはない?」
そう尋ねるとその男は支えるように拓磨を起こした。改めて見るとその男は黒い装束を身に纏い、ひとつに束ねられた髪は腰近くまで伸びていた。そして振り返ると床に倒れている自分がおり、驚いてつい立ち上がった。男は自分よりも背が低かった。
「俺は大丈夫、です!それより俺は薬を飲んで“寝た”はずじゃないんですか?これなんなんですか!?」
そう言って拓磨は倒れた自分を指した。
「わかる、最初はそう思うよねー。あのね実際にはキミは今“寝てるの”、そこにあるとおりね。」
その男は床に倒れた拓磨を指差して続ける。
「厳密に言うとキミは今仮死状態。ほぼ死んでんの。でもまだ生きてる。で、そんなところに僕が来て起こしに来たワケ。ちょっと手伝って欲しいことがあってさ」
拓磨は自分は今、幽体離脱のようなものをしていると感じ、同時に男の喋り方からしてこの人とは合わないと思った。
「手伝って欲しいことってなんですか?すぐ終わりますか?あとあなた誰ですか」
現世から早く逃げるための手段をとった拓磨にとってこの状況は億劫でしかなかった。
「なんかこんなに冷めてるヒト久しさぶりに見たなー、まあいいや説明するからちゃんと聞いてね。俺は阡。職業は死神。死神の仕事は死にそうな人のところに行って生かすか殺すか決めるお仕事。もちろんその人が善人だったら生かすこともあるしその人が望めば殺すことだってする。逆に社会に害がある、これ以上は放置できない人は殺すことだってあるとてもやりがいのあるお仕事ですー」
拓磨のイメージでは死神は鎌を持っているがこの人、阡は腰から刀を下げていた。
「俺は拓磨です。杉本拓磨。それで俺はなにをやらされるんですか?」
「実は今、死神が減らされててね、ついてもらいたい役職があるんだ」
「ーーーーブラックサンタって知ってる?」