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カルピディーム

あなたはなぜ?

どうして?

頭に飛び交う言葉の数々。

あなたは時が止まり、私達は後退し続ける。

それでも後退が出来ないほど全てが前進し続ける。

過去に縋り未来を憂う。

あそこに行く人しか分からない事が私たちを苦しめ、悲しく、暗い奥底に誘う。

そこに行けたら、もう一度話せたら…

願えど祈れど叶うはずもない。

こういう事は何度も何度も押し寄せては

分からされる。

私たちは無知で無力で愚かだと…

戻れないし進めない。

そんな話しをみなはこう呼ぶ…

カルピディーム……と。

私はとある国で生を受けた。

その国は地位があればあるほど裕福な暮らしができ

地位がなければ貧相な暮らしを強いられていた。

母は若き頃に私を含め3人の子を産んだ。

1番上の子は我慢強く何事にも熱心に、

真ん中の子は誰かのためなら命すら惜しまない、

1番下の子は冷静で何事にも動じない、

そんな私たちの母は病弱で身体も弱い人だった。

ですが父はあろうことか他の仲睦まじい女性に

恋をし私たちを捨てた。

母の元で苦労しながらも今日を生きている。



そんなある日、突然警察が我が家にやって来た。

告げられたのは…1番上の子が亡くなったという報せ。

私は最初理解が出来なかった。

そんな馬鹿なことあるわけないと。

だがそんな思いも虚しく警察は


警察「夜中に突然馬車が燃えその中に親族の方が

乗ってました。」

私「それが兄だと言うですか?」

警察「はい…身元を確認したところ間違いないです。」


私は驚きのあまり声が出なかった。

1ヶ月に1回連絡をしていたのに突然の兄の死。

受け入れられなかった。信じたくなかった。

ただただ時は無常に過ぎていった。



兄は私たちと暮らしてはいなかった。

父が無理矢理兄を連れ去ったのだ。

母は嘆き苦しんだ。

だが兄の方から私たちに連絡してくれた。


兄「今度そっちの方行くから待っててな!」


私たちはとても喜んだし嬉しかった。

これまでも空いた時間に会いに来てくれていたが、

かなり機会がなく久々の再会ができるはずだった。

私は毎日兄のことで頭がいっぱいだった。

下の子が成人になったらお酒でも飲もうと

兄に提案もしていた。

声も顔も姿も見ぬまま…帰らぬ人になった。

戻りたかった。過ぎてほしくなかった。

どんなに強く叫んでもあるのは何も無い虚空に

返って来ない言葉。

神様はなぜ兄を連れて行ってしまったのかと

連れて行くなら私にしてくれと

何度も何度も何度も何度も思っては叫んだ。


心のどこかではわかっていた。

もう話せない。見れない。聞こえない。

現実はいつも辛くて苦しい事を強いる。

このまま何もしたくない。兄の所へ行きたいと

そう願ってた頃。突然声だけ聞こえた。

私にしか聞こえなかった。母や下の子は何も聞こえないと言っていた。

兄は心配で私にだけ聞かせてくれた。


亡き兄「ごめんな。こんな形で再会になってしまって…でもなっちまったもんはどうしようもない。

これからはお前が1番上だ!しっかり母さんを守れ!

俺はいつでも見守ってるし応援してる!」


私は嫌だった。

兄の居ぬ世界に未練などなかった。

だが兄にここまで言われてたら生きなければ

前に進まなければと思わずにはいられなかった。

どんな事があろうと後ろを見て止まってはならない。

そんな事を伝えにわざわざ兄は私だけに言葉を残した

と解釈している。

私は兄にとってなんだったのだろうと今でも思う。

ただの下の子でどうでもいいと思っていたのか、

それとも可愛がりたいと思っていたのかも。

兄はそれっきり私に言葉を残して声は聞こえなくなった。


命を絶つのは簡単だ。

やり方なら様々ある。

ただ生きることは何よりも難しい。

上手くいかないと苦悩し、心無い言葉で傷つき、

何かを成し遂げても当たり前だとあしらわれ、

失敗すると非難される。

現在を生きることは私にとって辛く、苦しい事だ。

私は私の命を断とうと何度もした。

その度に止められ決まって言われる。

そんな事して何になる?

死なないでほしい消えないで欲しい。


生きて欲しい。


私はそんな言葉が嫌で嫌で仕方なかった。

無責任でそういう事を言っている自分に

酔っている偽善者だと思っていた。

私はそんな毎日を思い出し兄に言われたことを守れる

自信はなかった。

命を絶つ行為は上手くいきかけた事があった。

だが生きていた。

次第と私は生かされてる意味を考え始めた。

兄に言われた言葉。下の子の存在。母の存在。

私が自ら命を絶ってしまったら今度は

下の子と母がさらに苦しく辛くなってしまう。

そう思い始めたら少しずつ変われた。

私が現在を生きることで兄がいたという証明になる。

命を絶ってしまったら証明は不可能になる。

私は兄の言葉の通り現在を生きている。

死してなお私にかけてくれた言葉。

私にとって大切でこの上ない大事な言葉。

希望を持って生きるのではない。

約束を守るために生きるのだ。

自ら命を絶ち楽になるのは約束を守りきってからでも

遅くは無い。

そうして私は座右の銘にこう刻んだ。


死して楽な道よりも、生きて苦な道を選べ。

誰が為に我の為なかれ。


これを刻みながら今日も息をして兄の約束を胸に

生き抜いてく。





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