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怖い話  作者: 優斗
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第一夜 繰り返す男

 昼食を終えた後は、迫り来る眠気と必死に戦わなくてはならない午後の授業が訪れる。

 窓際でぼんやりとグラウンドを眺めていた少年は、やる気の無い大きなあくびをすると、眠たい瞼をこすった。

 その時、少年は目の前を通り過ぎて行く一人の男と目が合った。

 驚いた少年は、開いている窓から身を乗り出し下を見た。だが、そこには誰も居ない。

 見間違いかと思い、再び席についた少年だが、またもや目の前を男が上から下へと落ちていくのが見えた。


「せ、先生! 今、人が落ちていきました!」


 慌てて少年が立ち上がり叫んだ。


「なんだって?」


 驚いた教師は、急いで窓を開けると下を覗いた。だが、やはりそこには誰も居なかった。


「先生の授業が眠いからって、変なイタズラはやめなさい」


 教室はどっと笑いに包まれた。


「お前、やるじゃんか。今の話で一気に眠気が覚めたぜ」


 隣に座っていた生徒が、少年に向かって親指を立てた。

 だが少年は腑に落ちなかった。何故なら今も目の前を落ちていく男の姿が見えたからだ。男は、何か恐ろしい物を見たように驚愕の表情を浮かべていた。

 少年はゾッとした。

 みんなには、あの男の姿が見えていないのだろうか?

 その後も、男は一定の間隔で落ち続けていた。だが、自分以外誰も気付いた者は居ない。

 少年の心の中に、漠然とした不安が広がっていく。

 少年の居る教室は四階にあった。普通の人間なら落ちればただでは済まない高さだ。それに、イタズラにしては度が過ぎている。自分が見たあの男は、果たして本当に人間なのだろうか。もしかしたら、自分が死んだことに気がつかず、今も落ち続けている浮かばれない幽霊か何かではないのだろうか。だから皆には見えず、自分にだけ見えているのではないのだろうか……。

 それから授業が終わるまで、少年はなるべく窓を見ないように顔を背けていた。だが、彼の後ろを何かが通り過ぎていく感覚は、背中を通して授業の間ずっと続いていた。

 その日の放課後、午後の授業が終わると同時に少年は教室を飛び出していた。

 廊下を走り最初の角を曲がると上へと続く階段がある。自分の教室の上は屋上しかない。そこに行けば何かが分かるかもしれない。それに、自分はあの男の正体を突き止めなくてはならない気がする。

 何度も何度も目の前を落ちていく謎の男。実は少年はその男の顔に見覚えがあったのだ。だが、どうしても思い出すことができない。確か、つい最近も見た気がするのだが……。

 屋上への扉は普段は施錠されている。だが、その日は何故か開いていた。それは、まるで少年が来るのを予想していたかのようだった。

 屋上へ着いた少年は辺りを見渡した。

 太陽が傾き、屋上はオレンジ色に包まれていた。その周りを金網で出来たフェンスが取り囲んでいる。それ以外にある物と言えば、錆び付いてもう使用されていない貯水タンクくらいだ。

 屋上には、ゴウゴウとまるで獣の叫び声のような強い風が吹いていた。

 確か天気予報で台風が近づいていると言っていた。今日の夜は雨が降るかもしれない。

 風に煽られふらつきながら、少年は恐る恐るフェンスに近づいた。

 確か自分の教室があるのは、この下辺りのはず。さっきの男は、ここから飛び降りたのだろうか?

 フェンスにしがみつきながら、少年は下を覗いた。

 下から見上げるとそれ程高く見えないこの場所も、自分の身長も加わってか物凄く高く感じる。ここから落ちれば間違いなく死ぬだろう。だが、頭から落ちれば即死できるだろうが、もし落ち方が悪ければ、長いこと苦しみ悶えながら死ぬような気がする。どうせ死ぬなら、頭から落ちて苦しまずに死にたい。

 まるで何かに魅入られたように、金網に体を食い込ませ下を見続ける少年。

 そんな自分にハッと気がついた少年は、慌てて体勢を元に戻した。しかも、良く見てみると、金網と柱を繋ぐボルトが外れかかっていた。

 良く外れなかったな……。

 少年はゴクリと唾を飲み込んだ。そして、金網に背を向けると安堵のため息をついた。

 沈み行く太陽をボーッと見つめながら、少年はしばらくの間その場に立ち尽くす。

 結局、あの男の正体は分からなかったな……。

 これ以上ここに居ても無駄だと判断した少年は、その場を後にしようとした。だがその時、突然の強風が少年を突然襲った。思わず体勢を崩した少年は、フェンスにヨロヨロとよしかかる。すると、金網と柱を繋ぐボルトが音も無く外れた。そして、少年はそのまま外れたフェンスごと屋上から身を躍らせた。

 それは一瞬の出来事だったのだろう。だが、少年にとっては物凄く長い時間に思われた。

 コマ送りのように落ちていく中で、少年は自分の教室の前を通り過ぎた。そして、落ちていく自分を見る自分の姿を見て驚愕の表情を浮かべた。

 ああ、どこかで見たことがあると思ったら、あれは自分の顔だったんだ。

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