押し付けられ令嬢ですが、姉の身代わりに嫁いだら、まさかな結末になりました。
身代わり物に挑戦しました。
姉が出奔した。今朝、メイドが訪れたところ、部屋が言葉通りのもぬけの殻になっていたらしい。後はよろしく、という置手紙だけが後には残されていた。
結果、我がフォーチュン伯爵家は、現在大混乱に陥っていた。
「なぜよりにもよって今日に……」
そう言って、お父様が頭を抱えている。
姉——クレアには数年来の許嫁がいた。お相手は、隣の領地、レイブンクルド伯爵家の長男、アラン様。そして、輿入れ予定はまさに今日だったのだ。
奔放なクレアのことだ。今更になって、結婚が煩わしくでもなったんだろう。昔からクレアはよく街に出て、遊び歩いていた。そこで恋人らしき人間と一緒にいるのを見たと、メイドたちが話しているのも聞いたことがある。もしかすると、クレアはもう帰ってこないのかもしれないな。私はそう思っていたが——
「あの子が出ていったはずがないわ! きっと何か深いわけがあるの! 二週間後の結婚式までには必ず戻るはずよ!」
父の隣で、半狂乱の母が喚き散らしている。こんなに迷惑をかけられてなお、姉を溺愛する母に、私は心底あきれ切っていた。
「ここは正直に謝罪申し上げるしかないのではありませんか? クレアは勝手に家を飛び出してしまったため、本日の輿入れは不可能になりました、と」
と、私は言う。
「そんなことできるはずがないでしょう⁉ クレアの評判に傷がついたら、どうするつもりなの⁉」
だが、母は聞く耳を持たない。
「しかし、今日の輿入れが不可能であることは明白……」
「あなたは黙っていなさい! まったく、クレアのおまけのくせに、一丁前に口を利くんじゃないわよ」
そう言われ、私は口を閉じた。
私——セイラ・フォーチュンは、クレアの双子の妹に当たる。同じ顔、同じ声。それでも、私とクレアはまるで違う。
クレアは後先考えない、良く言えば、純粋無邪気、悪く言えばトラブルメーカーだった。それでも、クレアは上手く生きてきた。面倒なこと、嫌なことは、全て他人——主に妹の私に押し付け、自分はいいところだけ盗っていく。それを計算せずにやっているからこそ、恐ろしい。
一方の私は、損な役回りばかり引き受ける羽目になっていた。お母様の愛情も、当然のようにクレアが盗っていってしまった。お母様は明らかに私を疎ましく思って、クレアのおまけと呼ぶようになった。
その時、
「そうだ、いいことを思いついたわ!」
と、お母様が手の平をぱちんと叩く。
「クレアが帰ってくるまで、あなたがクレアとしてレイブンクルド家に嫁ぐのよ。そして、戻ってきたクレアと再び入れ替わる。完璧だわ。おまけのあなたでも、少しは役に立てるようね」
あまりの暴論に、私は絶句した。確かに私たちは見た目こそそっくりだけど、流石にそれはばれるに決まってるでしょうに……。
私は助け舟を求め、お父様の顔を見た。お父様は思いつめた表情で、しばらく考え込んでいたが、
「すまない、セイラ。もう少しの辛抱だから、ここは耐えてくれないか?」
と、頭を下げてくる。
お父様はお母様と違い、私のことを気にかけてくれている。それでも、お父様は、実家の強いお母様に強く出られない。こと、子供たちについては、完全にお母様が主導権を握っていると言ってもいい。
「……分かりました。お姉様の身代わり、務めさせていただきます」
また押し付けられてしまった。私は内心でため息をつく。それも、代わりに結婚しろというのとは違う。期限付きの身代わり。いわば繋ぎのようなもの。また私はクレアの影となって、彼女のために尽くすのだ。
そして、私はレイブンクルド家に向かう馬車に乗った。セイラ・フォーチュンでなく、クレア・フォーチュンとして。
*
「本日よりお屋敷でお世話になります。不束者ですが、どうかよろしくお願いします」
屋敷に到着して初めての、アラン様との対面。しかし、私たちの間には衝立が置かれていて、アラン様の姿はまるで見えない。
どうして? 内心で戸惑っている私に、
「そうか。結婚式まではゆるりと過ごされよ」
と、アラン様が一言。
これで終わり……? たった一言だけで、顔すら見せようとしないなんて。よほど嫌われているんだろうか。
アラン様もアラン様で、癖が強いというか、かなり奔放な方という噂があった。実際に対面した時、クレアは顔だけは合格と言っていたっけ。
でも……。私はアラン様の本当の姿を知っていると、そう思っていた。
一年に一度会う以外に、クレアはアラン様と手紙のやり取りを続けていた。だけど、クレアは返事を書くのが面倒くさいと言って、全て私に押し付けていた。
手紙の中のアラン様は、話で聞く方とはまるで違っていた。繊細な文字で書かれた、植物や動物のこと、周りの人々のこと……。どのお話も、その優しく温かな人柄が伝わってくるようで、私は押し付けられた仕事であることも忘れ、夢中になっていた。アラン様との文通は、生活の中の密やかな楽しみだったと言ってもいい。
だから、噂と違って、本当のアラン様はとても優しい方、というのを私は内心期待していた。だけど——。実際のアラン様は、とにかく腹が読めない。その後も、接触してくることはなく、する予定もなさそう。本当にわけが分からない。
とりあえず、私は与えられた部屋で一人くつろいでいた。そんな折、なんだかメイドの一人がひどく焦っていることに気付く。
「何かあったのですか?」
あまりの様子に、私は耐えられず声をかける。
「じ、実はブローチを落としてしまって……。おそらく中庭かと思うのですが……」
「私が探しますよ。あなたは次の仕事があるのでしょう? 嬉しいことに、私は暇ですから」
「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます、クレア様!」
メイドは何度も頭を下げる。しまった。クレアなら、メイドのことなんて捨て置くだろう。クレアらしくないことをしてしまった。
だけど、中庭に行ってみたかったというのは事実だ。アラン様の手紙の中には、中庭を散歩するのが日課と書かれていた。いらっしゃった際には、ぜひ案内したい、とも。
メイドにおおまかな場所を聞き、私は中庭を歩き回る。ブローチは見つからない。それどころか、かなり奥まったところまで来てしまっている。どうしよう。足を止め、途方に暮れていると、何かに背後からつつかれた。
振り向いた瞬間、
「いやあああああ!」
私は悲鳴を上げた。
生垣から手が生えてる! 何これ⁉ ホラー⁉ 怖い!
「す、すみません! 驚かせるつもりはなかったのです……!」
「しゃ、喋ったあああ! 生垣が……って、その声、もしかしてアラン様ですか?」
「は、はい! そうです!」
私は落ち着きを取り戻し、突き出した手に向かって話しかける。なんだろう、この状況。手と会話してるとか、めちゃくちゃシュールだ……。
「あの……お姿は見せてくださらないのですか? 先ほどもそうでしたが」
「実は、数日前にひどい怪我を負ってしまいまして。おぞましい傷跡が消えず、今は目の前に姿をさらすことができないのです。申し訳ありません」
「まあ、そうだったのですね。良かった。私、てっきり嫌われてしまったのかと……」
「ま、まさか! 私はクレア殿とお会いできるのを、ずっと楽しみにしておりました! そして今、あなたが迷っておいでかと思い、居ても立っても居られず、このような姿で出てきてしまったのです!」
手しか見えないのに、アラン様が慌てているのがひしと伝わってきて、私は思わず吹き出してしまった。
その後、アラン様は一緒にブローチを探しながら、庭を案内してくれた。手だけで。歩きながら、私たちは花の話をした。手紙のやり取りをしていて良かった。話している最中、辻褄が合わない、なんてことにならなくて済んだから。
そして、私たちはブローチを無事に見つけた。
「また……こうやってお会いできませんか? この場所で」
最後、アラン様はそう言った。そして、私たちの奇妙な逢瀬が始まったのだ。この中庭で話す時は、アラン様は手紙の印象そのままだ。それなのに、公衆の面前ではなぜか素っ気ない。
「アラン様は不思議です。お会いする場所によって、まるで別の人みたいで。どちらが本当のアラン様なのか、分からなくなってしまいます」
「本当のアラン……ですか」
アラン様は沈黙する。
「私はこうしてお話しているアラン様が好きです。だから、こっちを本当のアラン様だと、勝手に思うことにしますね」
そう言ってから、はっとする。だめだ。クレアのふりをするはずが、どんどん遠ざかっている。こうやってアラン様と話していると、クレアの影でない、セイラが首をもたげるのだ。
アラン様への手紙は、クレアとして書かなければいけない。そのことは分かっていた。それでも、私はいつの間にか自分のことを書いていた。それはささやかな反抗だったのか……。いや、話したかったのだ。知ってほしかったのだ。クレアでなく、私——セイラのことを。
だからこそ、こうしてアラン様と話していて、手紙の中にいるセイラのことを知っていてもらえると、それだけで嬉しくなってしまう。まるで私自身を見てもらっているような気持ちになる。
言いつけに背いていることは重々承知だ。でも、少しならいいだろうか。少しくらいなら、この方との時間を楽しんでも——
そうやって満ち足りた日々を送るうち、結婚式はあっという間に明日に迫っていた。
「実は、あなたを案内したい場所があるのです。少し目を閉じてくれませんか?」
その日、アラン様はふいにそう言った。言われるままに目を閉じた私の手を、アラン様の手がそっと握る。大きくて、少し骨ばった、男の人の手。それが私の手を引いていく。
「目を開けてください」
目を開いた私の前に広がるのは、美しいコスモス畑だった。いつだったか。手紙の中に、私が一番好きな花だと書いたのを、覚えていてくれた。それだけで、目頭が熱くなる。
「……ありがとうございます」
思わずアラン様を見ようとすると、
「あっ! 今は振り向かないでください! 手以外も出してしまってますので!」
と、格好のつかない慌て声が飛んでくる。
私はそれにまたふっと笑ってしまう。
アラン様もまた気恥ずかし気に笑った後、
「あなたと出会えて、本当に良かったです。一緒にいると、とても楽しい」
私もです、そう返そうとしたが——
「クレア殿」
瞬間、鈍器で頭を殴られたような気持ちになった。そうだ。結局、今の私はクレアの影のままなんだ。そして、ずっとそれが変わることはない。
本当の名前を呼んでほしい。その気持ちで胸が痛い。クレアのおまけや影じゃない、本当の私を呼んでほしい。
いっそのこと、全部打ち明けてしまえたら、どんなにいいだろう。だけど、そんなこと許されるはずがない。それに、打ち明けたところで、結局クレアが見つかったら、私はお役御免でアラン様のもとから去らなければいけない。このコスモス畑には、もう二度と来られない。
だから、きっとこれは抱くべきじゃない想いだ。そして、この想いが決してかなわないことも分かっている。それでも——
その日の夜、布団に入ってからも、アラン様の手の温かさが、ずっと残っていた。
*
そして、ついに結婚式の日になった。フォーチュン家から未だ連絡はない。どうやら、クレアはまだ見つかっていないらしい。このまま、いつかクレアが現れるその日まで、いつか終わる生活を続けなければならないのだろうか。
私はクレアが着るはずだったドレスを身にまとい、式場に足を踏み入れる。隣を歩くアラン様は、頭から布を被って、顔を隠している。おそらく怪我が治らなかったのだろう。
「クレア・フォーチュン。汝は、アラン・レイブンクルドを夫とし、いかなる時も彼を愛することを誓いますか?」
噓の名前で、噓の愛の誓いを立てる。身代わり婚なのだ。そんなことは想定内だ。そう思うのに……どうして声が出ないのだろう
しかし、その時、
「その結婚、お待ちください!」
と、西の扉が勢い良く開かれた。
「私が本物のクレアですわ! そこにいるのは妹のセイラなのです。セイラはアラン様に横恋慕し、まんまと私に成り代わったのです。ですから、真の花嫁は私なのですわ!」
クレアの登場に、場は激しくざわめいた。私自身、驚いた。どうして今更戻ってきたんだろう? だけど、驚きはそれで終わりじゃなかった。
「その結婚、ちょっと待った!」
と、今度は東の扉が開く。
「私がこの家の跡取り、アランだ!」
そこには金髪碧眼の青年が立っていた。この方が……アラン様? わけが分からない。じゃあ、私の隣にいるこの方は……?
「そこにいるのは弟のディアンだ!」
そんな、まさか! 私たちは両方、兄姉の結婚を押し付けられた身代わりだったの⁉
衝撃の事実に、私は見開いた目をアラン様——改めディアン様に向ける。ディアン様もまた、まじまじと私を見つめていることが、布越しにも伝わってくる。
「で、でも、それならなぜあなたがアラン様に出した手紙の内容をご存知なのです⁉」
「そちらこそ、なぜ私がクレア様に書いた手紙の内容を……」
「え、あなたが書いた?」
私はその時、ようやく気付いた。
「実は私も、クレアに代わって手紙を書いていたのです。私たち、実はずっと前から交流していたのですね」
「そんな……。まさか、こんなことがあるだなんて……」
「何をごちゃごちゃ言ってるのか分からないけど、とにかく、セイラ、あなたの役目は終わりよ」
「身代わりはもういいぞ、ディアン。ここはお前のいる場所じゃない」
私たちのところへやってこようとする二人は、しかし両家の父親に取り押さえられる。
「クレア、お前にもはやその資格はない。お前のことはすでに、フォーチュン家から除籍しているのだからな」
お父様の台詞に、
「なんで⁉」
「なんですって⁉」
お母様とクレアが同時に叫ぶ。
「クレア、街で出会った男と付き合っているらしいな。それも長い間。今回、ついに証拠を掴んだぞ」
「そ、それは……」
「お前の生き方を咎めはしない。自分の好きに生きる、それはお前の勝手だ。しかし、うまいところだけ食おうというのは気に食わない。しばらく一緒に生活した結果、相手が甲斐性なしと分かれば、蹴ったはずの婚約話に飛びつこうとする。お前はもっと自分の行動に責任を持ちなさい。お前の作った面倒を押し付けられてくれるほど、世の中というのは甘い場所ではないぞ」
お父様にぴしゃりと言われ、クレアは沈黙した。
「さて、アランについてだが」
と、今度はレイブンクルド伯爵が口を開く。
「長い間、勝手にほっつきまわっていたあげく、賭博で大金をはたき、途端、金欲しさに家に戻ってくるとはな。調べはついているのだぞ。しかも、すでに所帯まで持っているとか。自由奔放にも限度がある。今回のことではっきりした。レイブンクルド家をそなたには任せられん。家はディアンに継がせる。そなたは自分の後始末をするのだな。もちろん、市井の民として」
それに、おそらくアラン様のお母様と思われるご婦人が絶叫して……って、あれ? これ、状況がまんまうちとそっくりなのでは? そう思って、後から事情を聞いたところ、どうやらアラン様とディアン様は母親が違って、正妻が息子であるアラン様をごり押ししていて、伯爵は参っていたみたい。
「それにしても、うちの愚息がご迷惑をおかけしました」
「いえ、こちらこそ私の娘が。して、この後ですが……」
「ええ。予定通り、アランとクレア殿でなく、ディアンとセイラ様の結婚式とするのです。もちろん、次期レイブンクルド伯爵夫妻として」
予定通り? 予定通りって言った? この父親たち、さては策士なのか?
その時、
「セイラ、少しの辛抱と言っただろう?」
と、お父様が私に向かって微笑んだ。
私は確信した。身代わり婚の話が出た時から、お父様はこのことを計画していたのだ。
「うちにいては、お前を腐らせてしまうだけだ。これからは、クレアの影でなく、セイラという一人の人間として、自分らしく生きなさい」
「そんなこと、私が認めないわ!」
お母様が喚くが、
「黙りなさい。これは私の——フォーチュン家当主の決定だ。異論はないだろう」
と、お父様が一喝する。
いつも穏やかなお父様だけに、その凄みには鬼気迫るものがあって、さすがのお母様も黙り込む。
「さて、当の二人はこの結婚に異論はあるかな?」
レイブンクルド伯爵は、私たちに向き直る。
「いいえ! 私はこの方と結婚したいです!」
それは、私の本当の気持ちだった。
「私も、ぜひこの方と結婚させてください!」
ディアン様もきっぱりとそう言った。
「それでは、式を始めようか」
レイブンクルド伯爵の言葉に、場内が拍手に包まれる。そんな中、アラン様とクレアだけが、わけが分からないといった顔をしている。
「いや、次期当主は私……」
「結婚して伯爵夫人になるのは私……」
なおもごねようとする二人は、兵士によって引きずられ、退場させられていった。
その時、
「そうだ、これを」
と、ディアン様が、式場の装飾に使われていたコスモスの花を、私の髪の毛に飾ってくれた。
「これで、クレア殿の婚礼衣装でなく、あなたの衣装になりましたね」
きざなことをしながら、それでもディアン様は照れくさそうに笑ってしまう。いつも、どこかかっこつけきれない。この方のそんなところが、とても愛おしいと思った。
「そちらこそ、もうお顔は隠さなくても良いでしょう?」
私はディアン様の被っていた布を下ろしてしまう。
「その……私は兄のように美丈夫でありません。それでも、本当に良いのですか…?」
黒髪に、灰色の瞳。アラン様とはまるで違う。そして、決して華やかな容貌ではないのかもしれない。それでも、私の目に、ディアン様は誰よりも輝いて映った。それはきっと——
「もちろんです。だって私、ずっとあなたに恋をしているんですから」
その言葉に、ディアン様が顔を真っ赤にする。だけど、それはきっと私も同じだったことだろう。
そして、再び誓いの時が訪れた。
「セイラ・フォーチュン。汝は、ディアン・レイブンクルドを夫とし、いかなる時も彼を愛することを誓いますか?」
「誓います」
今度こそ、私ははっきりとそう言うことができた。
「ディアン・レイブンクルド。汝は、セイラ・フォーチュンを妻とし、いかなる時も彼女を愛することを誓いますか?」
「誓います」
夫婦となった私たちは向かい合う。
「これからも一緒にいられるなんて、思ってもなくて……。だから、まるで夢を見てるみたいで……」
身代わり婚は、まさかのまさかな結末を迎えた。いったい誰が予想しただろう。婚約者双方、どちらも身代わりであるだなんて。そして、その身代わりが本物に成り代わるだなんて。
「これからも末永くよろしくお願いします、ディアン様」
初めて本当の名前を呼んだ。その幸福で胸が熱い。
「私も幸福です。ずっと恋焦がれていた方が、これからは隣にいてくれる。まだまだ未熟者の私ですが、どうかよろしくお願いします」
そして——
「セイラ殿」
ああ、やっと。やっと、本当の名前を呼んでくれた。
感動で震える私の頬に、手が添えられる。よく知っているディアン様の手。私の大好きな手だ。視線が絡み合い、そしてゆっくり唇が落とされる。それはひどく長い口づけだった。だけど、おかげで助かった。耐え切れずこぼれた涙が、人々の目に触れずに済んだから。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。まだまだ勉強中ですので、アドバイスなどいただけると嬉しいです。