表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

殺し屋の覚悟




ミハエルとユウトはターゲットから聞き出したアジト、モット・ヘブンの東149番街に来ていた。


今日の2人はいつものラフな恰好ではなく、漆黒の組織オリジナルスーツを着ている。


それもそのはず、今日はターゲットメンバーを殲滅する日なのだ。


いつも以上に近寄りがたい空気をまとうミハエルと、緊張感を隠せないユウト。


彼らはアジト近くに車を停め、中の様子を観察していた。




「ターゲットはあのネルソンズクラブの中にいる。見た感じ、一般の客はいねぇな」


「うん。……ついに……だね」


「ああ。相手も抵抗してくるだろうから、俺が先に入って各フロアのターゲットをヤっていく。ユウトは少し離れてついてこい。そんで、アイザックの妻がどこかに捕らわれてないか探すんだ」


「了解……!」




2人は任務の流れを確認すると、それぞれ銃を握りしめた。


ユウトは痛いほど早く脈打つ心臓を感じつつ、深呼吸を繰り返す。


それはミハエルも同様であった。


どれだけ経験があろうとも、決して慣れることのないこの感覚。


それもそのはず……なぜなら、自分たちはこれから人殺しをするのだから。


呼吸を整えたミハエルは、ゆっくりとユウトの方を見て言った。




「……もし、やばい状況になったらユウトは逃げるんだぞ……。お前は本来、こんなことをする必要ないんだからな」


「……ねえ。そういうこと、今言わないでほしいんだけど」


「……ああ。分かっちゃいるが、俺はどうしても……考えてしまう。ユウトの気持ちは素直に嬉しい。でも……俺のせいで……」




ミハエルは自身の銃を指でなぞりながら、悲しそうな顔をしている。


ユウトはそんな彼を見ていたが、手放しで励ましの言葉をかけることが出来ない。


なぜなら、自分が逆の立場なら……おそらくミハエルと同じ気持ちになると分かっているから。




「……ミハエルの気持ちは分かるよ。もし立場が逆なら、僕も同じことを考えたと思う。……でも、もう僕は迷わないし、ミハエルも覚悟を決めてほしい」


「……!」




ミハエルはその言葉に、少しばかりのショックを受けた。


なぜなら、彼は分かってしまったのだ。


この期に及んで、覚悟が出来ていないのは自分の方だったということを。


あの日、恥もプライドも捨ててユウトに【守ってほしい】だなんて言っておきながら、それを遂行しようとする彼に、自分は何をしているのかと。


ミハエルは自嘲の笑みを浮かべると、ふうーとため息をついて、眼光鋭くターゲットがいる建物を睨んだ。




「……ああ。すまない。俺も甘さは捨てる。……ユウトは俺の相棒だからな」


「うん。その通りだよ」


「はは。……さて、行くか」


「うん」




2人は覚悟を決めた様子で、車を降りる。


既に目的のネルソンズクラブにはネオンサインが輝いていた。


中にはターゲット達が、それぞれシャンパンの瓶を片手に騒がしくしているのが見える。


外に漏れ聞こえてくるEDMの重低音と、男達の笑い声。


ミハエルとユウトは、ゆっくりと入口に近づくと、それぞれ扉の両端で銃を構えた。


刹那、2人の視線は交差する。


互いの瞳に言いようのないものを感じたが、今はそれをわざわざ口にしない。


無言で小さく頷き合った2人は、ミハエルを先頭に扉を開けて中に押し入った。




ガタン!




「っ……!?だ、誰だ!!」




クラブフロアの中心でだらしなく酔っぱらった男はそう叫んだ。


そんな彼には目もくれず、ミハエルは一切の無駄のない動きで男への距離を詰める。


状況を呑み込めていない男は、握っていたシャンパンの瓶をとっさに振り下ろそうとした。


しかし、ミハエルはそれを軽くよけると、男の脳天に銃口を突きつける。




「ひっ……!?」


「他にネルソンのメンバーはどこにいる?」


「…はっ、かっ……ち、地下だ!地下のフロアにいる!お、俺はなにも……」


「了解、じゃあな」




バアン!!




脳天から血しぶきをあげながら男は倒れた。


そのせいで、彼が持っていたシャンパンは、ガシャリと音を立てながら粉々に割れた。


ミハエルは地面に転がる男から、ホールにいる他のメンバーに目を移す。


その壮絶な雰囲気に、フロアに流れた一瞬の沈黙。


そして、やっと状況を呑み込めた他の連中は、一斉に銃を構えた。


しかし、彼らは分かっていない。


自分たちが銃を向けている相手は、恐怖と畏怖を集める【特別】な殺し屋であることを。




「しっ……侵入者だ!殺せ!」


「おう!」




男達はミハエルに向けて一斉に銃弾を打ち放った。


薄暗いフロアには、瞬く間に火薬の匂いが充満する。


だが、目的の人物は変わらずそこに立っていた。


黒いスーツを着て、ネオンサインを背負った彼は、異様に光る瞳を向けている。




「な……な……!?」


「……銃の扱いに関してはド素人だな。まあ、詐欺師なんてそんなもんか」


「てめええ!!」


「悪いな、でも」




ミハエルは瞬時に屈むと、左右に移動しながら、ターゲット達に銃弾を打ち込んでいく。




バアン!




「うっ……」




ガッ




「ぎゃあああ!」




ドオン!!




男達は1人、また1人と床に倒れ込んでいく。




その様子に動揺を隠せない残りのメンバーは、予想できない動きで距離を詰めてくるミハエル相手に、闇雲に引き金を引いていた。




「ひっ……ひいい……」




当たり所が悪かったのか、男が1人首から血を吹き出しながら地面に倒れていた。


ミハエルはそんな男に近づくと、胸部を足で踏みつける。




「ぐええええ……!」




その男の顔は、恐怖に染まっていた。


しかし、ミハエルはそんな男の目を見据えたまま、一切の発言を許さず銃弾を打ち込む。


断末魔を出すことさえ許されなかったその男は、ミハエルに踏みつけられたまま、こと切れた。


その光景は、残りの男達の戦意を喪失させるには十分であった。


しかしミハエルは気にせず、冷たく整った顔に笑みを浮かべて、呟く。




「俺も……覚悟を決めたいんだ」




その言葉は、EDMの重低音にかき消され、男達には聞こえていない。


しかしその瞬間、目の前の人物が正常(マトモ)な人間でないことを、彼らは完全に理解した。




薄暗いフロアには、まき散らされた鮮血がネオンサインを反射している。




そんな中、異質に浮かび上がる金髪は、仲間の死体を足蹴にしながら、ゆっくりとこちらに銃口を向けた。


恐怖と衝撃が、極彩色の空間に立ちこめる。


しかし、もはや彼らに抵抗する術は残っていない。


ミハエルは、ためらうことなく引き金を引いた。




相棒(ユウト)に捧げる覚悟と共に。







しばらく1日おきくらいの更新になります。

感想やブックマークをよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ