一般人、殺し屋の家に行く
2人の関係はゆっくりと作られていきます。
作者は現実で、出会ってすぐに親密な関係って築けたことがないんですよね。
大切な人であればこそ、じっくり仲良くなりたい派です。(皆さんはどうですか?)
「ここだ」
スラムからしばらく離れた郊外に、そのアパートはあった。
ぱっと見の外観は古く、低所得者層が集まっていそうな雰囲気が漂っている。
そんなアパートの最上階、4階の角部屋にミハエルは暮らしていた。
「おじゃましまーす……」
青年は先ほどの行動を微塵も感じさせない様子で、おずおずと部屋に入っていく。
「まあ、外からはだいぶ汚ねえが、我慢してくれ」
ミハエルは部屋に入ると、上質な黒革のソファに腰かけてそう言った。
青年は驚いたようにあたりを見回す。
アパートの外観はお世辞にも綺麗とは言えなかったが、部屋の中はリフォームされているのだろうか。
黒い家具やクロスを基調とした、モダンで小ぎれいな雰囲気が漂っていた。
「わあ……中はすごく綺麗ですね」
「ああ。俺が勝手にいじってるからな」
「……それって、いいんですか」
「問題ない」
ミハエルはお前も腰かけろというように、テーブルをはさんだ向かいのソファに青年を手招きした。
青年は促されるままソファに座り、肩をすくめてミハエルを見つめる。
「……さて……」
「……」
ソファに腰かけながら、鋭い眼光で見据えるミハエルに、青年はごくりと唾をのんだ。
「単刀直入に言うと、お前は面倒ごとに巻き込まれた。」
「……面倒ごと……」
「ああ。さっき見たように、俺は殺し屋だ。依頼があれば内容によって引き受け、ターゲットを殺す。……だが、最近殺し屋界隈も状況が変わってな。基本的に一般人をどのような形であれ仕事に巻き込むのはルール違反なんだ」
「そ、そうなんですか……」
青年は真剣に話を聞いているが、おそらく話の核心部分を理解していない様子でうなずいている。
「……そしてお前は相当イかれてはいるが【一般人】で、先ほど俺のターゲットを殺した」
「え、いや、でもあれは……正当防衛で……」
「そんなことは考慮してもらえない。むしろ、一般人を人質に取られた挙句、ターゲットを殺されたなんてことがバレれば……俺は界隈からそれ相応のペナルティを受けることになる。……まあ普通に考えて死ぬ」
「え!!?いや、でも、あれはあなたのせいじゃないですか」
「殺し屋界隈ってのは無法地帯じゃない。私利私欲のまま人殺しをする殺人者とは違うんだよ。殺しってのはれっきとしたビジネスであって、今回俺がやらかしたことは普通の会社でいうとこの情報漏洩だ。……そんな社員はクビにされて当然だろ?」
「はあ……そういうもんなんですか……」
「ああ。残念ながらな」
ミハエルはふーっと息を吐きながら、ソファに深く腰掛けて天井を仰いだ。
「で、でも……そういう事情を分かってるのは僕達だけで、僕とあなたが黙ってれば問題ないんじゃ……」
「……NYの殺しビジネスってのは1つの大きな組織で成り立っている。殺しをするやつらだけでなく、前準備、根回し、後処理……その他もろもろ分業体制で行われている。俺はそういう組織の殺し担当で、もちろん俺の仕事を監視する連中もいる……」
「え……じゃ……じゃあ……全部ばれてるってこと、ですか」
「ああ。監視担当のやつはさっきの一連の流れを見ていたはずだ。一般人が巻き込まれて、情報が漏れたことが分かったら、俺もお前も消される……。……そこで、だ」
ミハエルはようやく焦りはじめた青年をじっと睨む。
「俺らが今後生き残るためには、今回のことは【全て計画通り】で、かつ【お前が一般人ではない】ということにするしかない」
「……はい……?」
「お前は組織の一員じゃないが、俺の旧知の友人で、組織の仕事に関わり入会するためにあえて一般人を装い協力した……そういうシナリオで通す」
「えっと……その場合、僕はそういう人間を演じなきゃいけないし、しかもその組織?ってのに入会しなきゃならないんですか……?」
「ああ。……だが、組織もそんな堅いやつばかりじゃない。特に俺はそれなりに貢献してきたから、多少の融通は効くだろう。だからお前には一定期間、俺の協力者になってもらう。何件か仕事をこなして、ある程度組織の信用を得たところで、次の手を考えよう……」
「……つまり、僕はある程度あなたと一緒にこ、殺しの仕事をしないといけなくて……しかも一般人ではなくそっち系のフリしなくちゃならないんですよね……え、む、無理じゃないですか?なんか、絶対バレる気がする……」
「無理めな計画だってのは百も承知なんだよ……。でも、じゃあどうする?このまま完全に真実を知られてしまったら、今すぐにも2人揃ってジ・エンドだぞ……。望み薄でもやるしかないだろ」
ミハエルは若干苛立ちながら、吐き捨てるようにそう言った。
2人の間には重々しい空気と沈黙が流れる。
しばらくしただろうか、青年は静かに口を開いた。
「……分かりました……。やります……その計画。僕……役に立たないし、迷惑をかけますが……。精一杯できることをやります……元はといえば、僕が不注意で人質に取られたのが悪いし……。今生きてるのも、あなたのお陰なんで……協力します。よろしくお願いします」
「……」
青年は戸惑いながらも、どこか覚悟を決めたような瞳でミハエルを見た。
ミハエルは意外な青年の反応に、少々面食らっている。
(こいつ……この様子は……本気だな……どんだけ嫌がられても、脅して協力してもらうつもりだったが……)
自分を真っすぐ見つめる青年に、ミハエルも姿勢を直して向き合う。
「……俺のコードネームはミハエル。25歳、アメリカ人、組織には8歳から所属している。よろしくな」
「ぼ、僕は一柳優人、24歳、日本人です。大学を卒業して今は……長めの休暇でアメリカに来ました……よろしくお願いします……!」
お互いの挨拶が終わると、2人はゆっくりと握手を交わした。
会って間もない関係であったが、お互いが人生で最も重要な存在になることを、どこかで理解していた。
「お前……マジで頑張れよ。俺、まだ殺されたくねーからな」
「が、がんばります……ミハエル、さん」
「ミハエルでいい。あと敬語もやめろ。旧知の友人設定でいくんだから」
「あ、はい。あ、いや……うん。……よろしく、ミハエル」
「ああ。……ユウト、だったか。どういう意味なんだ、それは」
「あ、名前?ユウトはね、優しい人って意味だよ、ははは。……もうひとり殺しちゃってるし、これからも色々するんだけどね」
「皮肉だな……」
「うーん……。そういうミハエルは?どういう意味なの?」
「……大天使の名前だ」
「……皮肉だね」
「……おい」
「はははっ……!」
その時2人は初めて笑いあった。
全く訳の分からない出会いから始まった関係だったが、意外とフィーリングが合いそうだな、なんてことを感じながら。
この時、殺し屋と一般人の奇妙な共闘関係が誕生した。
小話。
部屋のジャンルってアメリカンカントリーとか、シャビーシックとか、和モダンとか色々ありますよね。
個人的には圧倒的に『モダン』が好きです。特にメタリックとかを多用したやつ。
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