おまけ
「私が君を愛することはない」
予想どおり、殿下に初夜の寝室で言われました。
ええ、予想どおりですとも。
8年前、私が9歳で婚約した時から、いつかこの日が来るとは予測していました。
殿下は、為政者としてそれなり以上の能力を有しておられます。
けれど、一方で、夢見がちなところもお持ちの方でした。
最重要事項が国の安寧と発展であり、婚姻もその手段の1つであると割り切っていながらも、心から愛した女性と結ばれたいという希望もお持ちなのです。
少々子供っぽいとも言えますが、そんな殿下を支えて国を守り、未来を守り、我が公爵家の栄光の一助となることも、婚約者たる私の役目です。
私がうまく殿下の舵取りをすればよいだけのこと。それこそが、妃となる私の務めです。
私は、殿下の性格や好みを把握するよう努めました。
定例のお茶会で殿下の好みを探り、お父様にお願いして殿下の情報を集めます。
私が立派な妃になることは、我が公爵家にとっても、国にとっても、重要なことですから、お父様も喜んで協力してくださいました。
そんな中で、殿下が恋愛に夢を見ていることがわかりました。
そこで、私は、殿下の好みの女性像を探り、それを体現する愛人候補を用意することにしたのです。
殿下は、ご自分が厳しく育てられたこともあり、無邪気な娘を好むようです。
私は、公爵家の派閥には直接入っていない、けれど傘下には入っている男爵家の娘を愛人候補として育てさせることにしました。
私がその娘と直接面識を持たないよう、お父様から男爵に話を通していただき、殿下を籠絡するための手管を学ばせます。
飼い犬に手をかまれる愚を犯すことのないよう、己の立場というものも、よくよく言い含めて。
そうしてできあがった娘を学院で殿下に近付かせ、無事殿下の恋心を燃え上がらせることができました。
あれで殿下は一途ですから、娘がいる限り、よその娘に目移りすることはないでしょう。
そして、ご自分のお立場をお忘れになることもなく、無事私を妃として迎えました。
純粋で一途で、物事の機微を弁えた殿下が、側妃としてサクラを迎えるつもりであることはわかっていましたので、殿下が2年間子を作らぬと仰せになることも分かっていたのです。
2年経って、側妃を迎えたら、正妃と子をなすよう誘導させます。
王子を産むまでに3年掛かりましたが、これくらいは想定のうちです。
その後、第二王子と王女も産み、私は務めを立派に果たすことができました。
後は、私の子に引き継ぐ国をよりよく治めていく一助となりましょう。
私の人生は、とても充実しています。