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ほんぺん

「私が君を愛することはない」


 王太子妃となったアナウラに、私は告げた。

 初夜に過酷なことではあるが、私はサクラを愛している。

 男爵家という家柄故に正妃とすることはできないが、側妃として迎えることはできる。

 そのための条件は、2年間正妃に子ができないこと。

 それ故、万が一にもアナウラが妊娠するようなことがあっては困るのだ。

 かといって、王太子妃としての仕事をサクラにさせるわけにもいかないから、どのみちアナウラは必要となる。

 少し面白くないが、王太子妃というのもなかなか忙しい立場ではあるし、アナウラに任せた方がサクラにとってもいいだろう。

 正妃を入れ替えたりして、男爵家出身と侮られるのも可哀想だしな。

 表向きはアナウラを王太子妃として置き、サクラが側妃として入ったら、少しずつ立場を入れ替えればいいだろう。




 1年が経ち、周りが世継ぎはまだかとうるさくなり始めた。

 閨を共にしていないのだからできるわけがないのだが、知らん顔でそうだななどと答えている。

 もう少しの辛抱だ。

 あと1年で、サクラを迎えられる。

 アナウラの王太子妃としての評判は上々だが、子ができないとなれば、側妃を迎えることに反対も出ないだろう。

 側妃選びを私主導でやるためにも、王太子としての公務はきちんとこなす必要がある。

 そのため、サクラにはなかなか会えないが、たまに会えると本当に嬉しそうだ。

 表立っては、アナウラを王太子妃として寄り添い、仲睦まじいように装っているから、私の計画に気付く者もいないだろう。

 もちろんアナウラは気付いているのだろうが、表面的には立てているのだから、騒ぎ立てることもあるまい。

 もし、アナウラがサクラに害をなすようであれば、その時排除すればいい。




 さらに1年が過ぎ、いよいよ側妃を求める声が大きくなってきた。

 ようやくサクラを迎えられた。

 さっそくサクラの元へ通うようになった。

 我慢し続けてきたこの2年、ようやくサクラは名実ともに私の妃となった。


「ニブートさまぁ、これからもずっとお妃の仕事はアナウラさまにおまかせでいいんですよねぇ?

 わたし嫌ですよぉ、お仕事ばかりでニブートさまに会える時間が減るの。

 この2年、ず~~~~っとさびしかったんですからぁ」


 サクラのこの言葉に、どきりとした。

 上目遣いで私を見るサクラの姿に、愛おしさが募る。

 そうか、言われてみれば、この2年間、サクラに会うための時間を捻出するのに苦労してきたんだった。

 アナウラも、公務にかなりの時間を費やしていたはずだ。

 せめて私の体が空いた時には、すぐにサクラに会えるようにしておきたいな。

 とすると、アナウラは正妃のままにしておいたほうがいいのか。


「もちろんだ。

 王太子妃としての仕事はアナウラに任せ、お前はこうして私を癒やしてくれ」


「そうですねぇ。

 わたしはぁ、ニブートさまとずっとふたりきりでこうしていたいですぅ。

 もう側妃はとらないでくださいねぇ。子供産むのもヤですぅ。体型変わっちゃったら泣いちゃう~」


「もちろんだとも」


 可愛いことを言ってくれる。

 しかし、そうか。

 跡継ぎが生まれないと、更に側妃をと言われかねないのか。

 サクラを迎えた以上、側妃が嫌だと突っぱねることはできないだろう。

 と、なると…。



「少し、内々で話がある」


 私は、執務中のアナウラに声を掛け、2人きりになった。

 無論、近くに侍従や護衛は控えているが、話し声が聞こえない距離だ。


「率直に言おう。

 王子を産んでくれる気はあるだろうか?

 勝手なことを言っていることは承知しているが、跡継ぎをと考えると、正妃が王子を産むのが最善だ。

 君の協力のお陰で無事サクラを迎えることができ、感謝している。

 そのせいで、君に不名誉な噂が流れていることも知っている」


「つまり、愛はないが褥は共にできる、と?」


「そのとおりだ。

 厚顔は承知の上で、考えてもらえないだろうか

 もちろん、考える時間は…」

「構いませんよ」


 私の言葉を遮るように、アナウラは答えた。


「王太子妃の仕事には、世継ぎを産むことも当然に含まれます。

 むしろ優先度はかなり高いと言えるでしょう。

 殿下のご協力なくしてできることではありませんから、これまでは先送りしてまいりましたが、殿下にその気がおありなら、問題ありません。

 では、直近で、時期を見計らってご連絡いたします。

 おおよそ10日後になろうかと思いますので、そのおつもりでいらしてください」




 思いのほかあっさりと、それでいて嬉しそうなそぶりもなく、アナウラは了承した。

 おそらく、私が思っている以上に風当たりが強かったのだろうが、そんなことはおくびにも出さずに。

 数日後、アナウラから連絡があった。

 婚姻から3年、私は初めてアナウラを抱いた。

 そして、それからも月に一度寝室を共にした結果、無事に王子が生まれた。

 周囲は、待ちに待った正妃腹の王子の誕生に沸いた。

 2年後に第二王子が生まれ、アナウラからは足が遠のいたが、アナウラは特に感慨を見せなかった。


 アナウラに対しては、今も、愛情があるとは言えないが、自分の子供である王子については可愛いと思う。

 サクラとの間にも子供が欲しいと思わなくもないが、サクラは頑として妊娠を嫌がった。

 身の安全を考えれば、それが一番だからと。

 結局、表向きはアナウラに、心の安らぎはサクラに求めるというかたちで過ごし、10年後、私は王となり、第一王子が王太子となる方向で話が進んでいる。

 確定にはまだ早いが、能力的に見ても特に問題はないから、数年後には立太子することになるだろう。

 内と外で2人の妃に支えられ、私は安定した治世を行っている。

 「おまけ」を2/10朝にアップします。

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[良い点] 正妃に世継ぎがいて子のない側妃のの存在価値はない お家騒動にもならないしほっとけばいいのか
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