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05 始まってしまっていた恋愛

 


「え?」


 私から気の抜けた声が漏れ出るが、それは他のメンバーも同様らしい。

 みんな驚いた顔でシキを見つめるけど、注目されたシキの表情だけは変わらない。


「ねえどういうこと。やっぱり初対面じゃなかったってこと?」


 ミエルが呆れたように私とシキを見比べて鋭い言葉を投げかけると、ネルも冷たい表情を向けた。


「恋愛禁止だと言うくせにあなたたちは既に恋愛関係だったということでしょうか」


「ちょっとまって、本当に私はシキと出会ったのは昨日が初めてなの!私もわからないの」


 メンバーに疑惑の目を向けられるけど、私だって本当にわからないんだから!なんとか言ってよ、と私もシキを見る。


「……覚えてないならいいけど」


 焦る私と裏腹にシキは涼しい顔のままだ。


「私たち、どこかで出会ってた?」


「うん。でも、一方的だから。俺が勝手に。プロデューサーは悪くないよ」


 赤い目が私をまっすぐ射抜く。――でも、本当に知らない。エイリ=メイとしての記憶はきちんと全部ある。でもシキのことは知らない。

 どこかで出会ったの?もしくはシキだけ『ヒロインを好きな設定』がデフォルトであるのだろうか。


「つまりシキの片思いってこと?こっそり好きだったの?今まで」


 混乱する私と、重くなった空気の中で、マオの明るい声だけが救いに聞こえた。


「そう」


 シキはさらりと答える。それ以上は口をつぐみ、何も言うつもりはなさそうだ。


「で、どうするんですか?プロデューサーに片思いしているメンバーとこのまま活動しろということかな?

 シキはメンバーから外すしかないのでは?プロデューサー自身も言いましたよね、絶対恋愛禁止だって」


 元々シキをよく思っていなさそうなネルだけど、言っていることは間違ってはいない。

 ……どうしよう。シキは言い訳をする気もないらしく黙ってこちらを見ている。


「でもさあ、学園長さっき言ってたよね?連帯責任だって。1人でも欠けたらデビューさせないって」


 マオの言葉に勢いよく話していたネルも黙る。

 そう。問題児だらけのこのグループにいくつかの条件を学園長は出していた。「ひとりでも欠ければ、デビューはさせません」と。



「今ならまだ間に合うんじゃないでしょうか」


「いや、もう契約書も交わしてるから無理だと思うよ」


 ミエルはファイルから先ほどサインした契約書を出した。その条件もしっかり記されている。


「でもプロデューサーの変更については条件を出されていない」



 ミエルは私に視線を向けた。彼の目が突き刺さる、何が言いたいかはわかる。


「彼女に非はないから気の毒だけど、プロデューサーを降りてもらうしかないだろうね」


 どうしてプロデューサーに選ばれたのか、まだわからない私。

 彼らとは出会って2日目。まだ好感度も絆も何もない。私のことは誰も認めていない。



「で、でも……」


 私がここで頷けば、夢が終わってしまう。私のアイドルの夢が、本当に。

 でも……彼らの夢のために私が去るしかないの?



「待って」


 当事者のくせに傍観者のような顔をしていたシキが声をあげた。


「俺、エイリ=メイがプロデューサーじゃないなら、辞めるから」


「はあ?いい加減にしてくれますか。なんであなたのワガママばかり」


「……でもシキがこう言うならこのままやるしかないよね?」


 ピリッとした空気を和らげてくれるのはやはりマオだ。


「まあアイドルは偶像だから。表に出てくる姿が全てであって、裏ではどんなことをしていてもいいんだよ、最高のアイドルを見せてくれるなら。大事なのはそれを表に出さないこと。匂わせ、マスコミにばれない、とにかくファンに伝わらなければ。裏の、ましてやシキ自体の感情はどうあってもいいと思う」


 ライは早口でドルオタ自論を広げた。


「俺が勝手に好きなだけなのは、何か問題ある?」


「はあ……まあ、仕方ないね。プロデューサー、どうする?」


 ミエルは大きく息を吐いた。そして私に視線を向ける。


 恋愛感情を向けられているらしい当事者の私が言うのははばかれるけれど。私の気持ちを言わなくては進めない。



「恋愛は絶対禁止。想ってくれることは嬉しいけど――いやどうしてそんな想われているのかわからないんだけど、気持ちには絶対応えられない、応えない。それでも私と夢を目指してくれるの?」


「うん、俺がエイリ=メイと同じ夢を見たいから」


 シキはやはりまっすぐ私を見ている。どうして私に対して特別な感情を抱いてるのか本当にわからない。でも彼の目は真摯に訴えかけてくる。



「私は反対ですよ」


 ネルは冷たい目でシキを見るけれど、シキはネルの視線には興味ないようで、彼を見ようともしない。


「でも元々持っている感情はどうにもならない。大切なのはファンや外部にその気持ちが漏れないこと。いい?」


 ミエルは淡々とシキに言い聞かせる。


「俺、気持ち隠せるかな」


「隠してください!」


「ねえ、プロデューサー。プロデューサーの好きなタイプって努力家でとことん頑張る人じゃなかった?それにトップアイドルに憧れてるんだよね?」


 ミエルが私にニコリと笑顔を向ける。

 好きなタイプなんて考えたことはなかったけれど、ミエルの目が何かを訴えているので素直に頷く。


「シキ。今から二年隠せ通せばいいんだよ気持ちを。プロデューサーのすぐ近くで努力を見せ続ければ、二年後にはプロデューサーもシキを好きになってくれるんじゃないかな」


 あ、そういうことか。策士だ、この人は。


「でもグループ解散とともにプロデューサーと熱愛や結婚、なんて知ったらファンは疑うと思うけどなあ。プロデューサーのためにグループを辞めたんじゃないかとか、そのせいで解散になったんじゃないかとか」


 ライのドルオタ論が始まったので隣のマオが口をふさぐ。


「まあまあ。解散は決まってることだし。それにグループ解散と同時に熱愛報告や結婚をするわけじゃないんだし」


「二年後に結婚」


 フォローしてくれたマオの言葉から都合のいい言葉だけ切り出してシキは呟くと少し考えてから


「……わかった、プロデューサーの理想の男になるよ」と宣言した。


「よし。じゃあ二年は我慢して頑張りな。


さっきの映像みて思ったんだけどシキはあれ本気じゃないよね?身体に力が入っていないように見えたから本気でやれば違うんじゃないかな、どう?」


「うん。やれる」


 ミエルの質問にシキはしっかりと頷いた。キレキレのダンスをするシキは思い浮かばないけれど、やる気が出てくれたならいいことだ!



「僕たちは2年だけのアイドルグループ。言葉を気にせずにいうなら、2年後に自分たちのやりたい芸能活動をするためのジャンプ台みたいなものだ。この2年さえうまくやればいいんだよ」


「それもそうですね。このグループは私の理想とは程遠くなりそうですし」


「2年後も女の子にモテたいしなあ!今のうちにファンつけとかないと!」


「2年の活動結果によってどの事務所に所属できるか変わるよね……俺のパワフルなパフォーマンスを活かせる事務所はあそこかなあ」



 ……まだユニ☆キラとしてデビューもしていないのに、みんな解散後の事を考えている。


 私たちに絆なんてとんでもない。2年だけの仮の仲間、そんな感じだ。



「2年後には結婚」


 赤い目は熱っぽく私を見つめているし。


 と、とにかく。プロデューサーをクビになるのは免れた。


 一番年下のミエルがうまくまとめてくれてなんとかなったんだけど!


 私がプロデューサーでビシッと方向性を決めないといけないのに、シキの気持ちに戸惑ってばかりで情けない……!


 頬をパンと叩いて気合いを入れる。



 今はまだバラバラな私たちだけど、2年後には惜しまれて解散できるように。全員の進路が決まるように。(シキと私の結婚はしらんけど!)


 ユニ☆キラをトップアイドルにするんだから!







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