02 問題児たちの正体1
いや、違った。すっかり忘れていた!
彼らの問題は『恋愛脳』だけじゃない、ゲームの中にはない問題点があるんだった!
翌日、昨日のメンバーは全員集まった。どうやら彼らはこのグループで夢を目指すことにしたらしい。
会議室の机はコの字になっていて全員の顔が見渡せるようになっている。生徒だけでなく数名の教師や大人もいて、このプロジェクトに参加・協力してくれる学園の関係者たちらしかった。
「皆の心は決まったようね」
学園長の声に私たちは頷き、満足気に彼女は笑顔を見せた。
「では、まず1人ずつ紹介するわ。自己アピールも大切だけれど、今回は客観的に私から見た長所と問題点を伝えさせてもらうわ」
その言葉に少し緊張が走る。学園長の目は確かで、彼女に見出されたものはスターになると言われている。自分がどういった評価を下されているのか誰もが気になるところだ。
「シリュウ=マオ」
学園長が名前を呼ぶと、1番端に座っていたオレンジ頭の男子生徒が弾かれたように立ち上がった。
「は、はい!」
緊張して声が裏返りながらもピンと気を付けの姿勢で立つ。明るく真面目そうな子だ。
彼の髪の毛からは同じオレンジの獣耳が生えている、ふさふさのしっぽも黄色のツリ目も、妖狐だから。
コスモが飛び出してきて、目の前に電子の文字が浮かんだ。
『シリュウ=マオ 妖狐 17歳 178cm アイドル志望』
ゲームのマオのことを思い出してみる。
天真爛漫な頑張り屋さん。
ヒロインにもいつだって明るく接してくれて、真っ直ぐな告白にときめいたなあ。
そしてダンスがめちゃくちゃうまい。彼はこのグループのメインダンサーとして――。
「彼の1番の強みはボーカル。清涼感溢れる唯一無二のハイトーンよ」
あ、あれ?ボーカル……?
「はい!ワンコーラス披露させてください!」
彼は誰もが知ってる流行りの曲を歌う。女性歌手のアップテンポな曲を現キーで歌い上げ、繊細かつパワフルで突き抜ける高音に場は静まり返った。
「そして、彼の欠点はダンス」
空間に映し出されたのは彼の月末審査の様子。
1人で歌いながら踊る、歌は動画の中でもとびきりうまいけど、なんというか……ダンスは気が抜ける。へろへろヨレヨレしている。おじいちゃんが踊っているみたいだ。マオはその映像を見て恥ずかしそうな笑みを見せた。
「これだけ歌がうまいならソロの歌手として需要があるのでは?」
1人の大人が手を上げて質問して、私もそうだそうだと心の中で同意した。
ギャラクシー☆スター学園はアイドルだけではない。歌手もいるし、モデルや俳優も輩出している。これだけ歌がうまいのであれば事務所からお断りされたとは思えなかった。
「彼本人がアイドルを強く希望しているからね」
「そう、俺はアイドルになりたいんだ!歌手じゃなくってね!」
学園長の言葉にマオは明るい声で答え、笑顔を見せた。
「どうしてアイドルになりたいんですか?」
私と同じアイドルを愛する仲間なのかも!そう思って私も訪ねた。
「えっ?そりゃもちろん女の子にキャーキャー言われたいから」
「えっ」
「俺、女の子大好きだから。俺のうちわとか持って欲しいし、バキューンってファンサをしたい。モテたいんだよ」
ニコニコと爽やかに微笑むけれど、それはゲームの中のマオの爽やかさとは全然違う!
真面目なマオは告白シーンでは真っ赤になってくれて。ごめん、女の子慣れしていないんだ、と照れながらハンカチを渡してくれた。こんな不純な男ではなかった!
「歌手でもキャーキャー言われそうだけどねえ」
隣に座る可愛らしい顔の少年が、まるで理解できないとしかめ面を見せた。
「それじゃあ次に隣のレイノ=ミエル」
しかめ面の彼はすぐに表情を和らげて微笑みながら立ち上がり一礼する。
『レイノ=ミエル 妖精 16歳 168cm アイドル志望』
さすが妖精族というか……彼は本当に可憐で愛らしい。
ふわふわの細い髪質の金髪ショートボブ。くりっとしたエメラルドの瞳。小さく口角の上がった唇。
白い肌で華奢な肩。女の子のアイドルに紛れても気づかないくらい、とにかく可愛い!
「ミエルはプロアイドルよ、どこに出しても恥ずかしくないほどにね」
学園長の言葉にミエルはニコッと微笑む。その笑顔は完成されたアイドルだ。
月末審査の様子も空間に映し出されるが、ボーカルもダンスも平均を超えていて、グループのエースになれそう!
皆不思議そうな顔をしてミエルを見つめた。彼が事務所からお断りされたとはとても思えない。
そして、ゲームの中のミエルの記憶とも一致した。
彼も最年少なのに何でもこなすオールラウンダーアイドルだった。
恋愛イベントでは、年下ならではの「お姉さん」と甘えてくれていつもほんわか可愛くて癒しの天使だった。
「しかも意識もとても高いわ。アイドルのことをよく研究しているし、大人顔負けの観察眼も持っている」
そういえば昨日も的を射た質問をしていた気がする。見た目も中身もアイドルなら何がいけないというのだろうか。
「でも彼はファンが大っ嫌いなのよ」
その言葉に先ほどのしかめ面に戻ったミエルは「女にモテたいからアイドルするなんて信じられない。あんなもの目にも入れたくないんだよ」と暴言を吐いた。
ん?私の天使、何て言った?
「女というか大半の生きてる者が嫌い。男も、どの種族も」
「ええ~?女の子可愛いじゃん。じゃあどうしてアイドルに?」
女にモテたいマオは不服そうに唇を尖らせる。
「妖精の栄養分は人の笑顔だから」
とミエルは言った後に「こんなもんが栄養とか本当に気持ち悪いよな」と心底嫌そうな顔をした。
「彼はアイドルを客観的に見て、自身もプロアイドルになれるスキルはあるんだけどね。至近距離のライブや握手会なんかはできそうにないの」
「女が集まってるところにいくと吐くから。……でも、手っ取り早く笑顔が回収できるのがアイドルだからな。仕方なく。でもやるからにはプロとしてやるから」
私の可愛い癒しの天使もパリンと割れて砕け散った気がする。
となると、隣にいる彼もゲームとは全く違うの!?ミエルの隣の銀髪を見てみる。
『ディネリンド=ネルラス エルフ 18歳 177cm アーティスト志望』
文字が現れてスラリと伸びた長身の生徒が立ち上がった。さらさらの長い髪をポニーテールにまとめている。
涼やかな水色の瞳と、高い鼻と薄い唇。この学園の中でも最も美しい人ではないだろうか。……いや、他の男子生徒のことは知らないんだけど。
ゲームのネルラスはメインボーカルを務めていて、グループのリーダーでもあった。
普段は頼れる大人で、恋愛イベントでは少しSっ気もあり妖艶な笑みで迫っていた。
まあ一言で言うと、セクシー枠のイケメンである。
「彼はダンスの天才よ」
いくつかの映像が同時に映し出される。いろんなジャンルのダンスを踊っているネルラスの姿だ。
ヒップホップからブレイキング、バレエまで。ダンスの才能ゼロが判断できるものではないけど、どれもかなりうまい。
マオとスキルがスイッチしているのか。ゲームではマオがダンス、ネルラスはボーカルだった。
そう考えると、ネルラスの欠点はボーカルかもしれない。
「はあ、こんなにたくさんの私が見れるとは」
独り言が聞こえてネルラスを見ると、彼はうっとり空中に浮かぶ映像を見ていた。確かに空中には五人のネルラスが映し出されている。
「ネルラスの欠点は、自己愛が強すぎて協調性が欠片もないことよ。今日もよくこの場に来てくれたと思ったわ」
「当たり前ですよ。華麗な私のデビューの話ですから」
ネルラスは心外だと微笑んだ。どうやらリーダーとしての彼はこの世界にはいないらしい。
「ソロダンサーとして推す方向も考えたけれど、彼は気分屋で遅刻もするし、やりたくないことは一切しないから事務所からは人格難アリとして断られているわ」
なかなか強烈な断り文句だけれど、それを聞いてもネルラスは平然と「私の魅力がわからない事務所はこちらから願い下げだ」と言っている。
「だから……アイドルグループにいれてなんとか協調性を身につけさせたいわね!エイリさんに関わっているわよ!」
珍獣を押し付けられた気分だ。
少しSでセクシーで大人なリーダーはここにはいない。自分大好きナルシストの子供が微笑んでいた。




