01 私ほどヒロインにぴったりな人間はいません
ポーピャリ星で初めて彼らに出会った。
「あなたたちはアイドルグループを結成してもらいます!」
黒、オレンジ、銀色、赤、金色の髪の毛が並んでいる前で、全身紫の学園長は切り出した。
みんなポカンと学園長を見つめていて、学園長だけがハイテンションだ。
「私たちがプロデュース・マネジメントするのは初めてのことよ」
学園長は自信たっぷりに言った。
このギャラクシー☆スター学園はこの星・最大級の芸能人養成所だが各事務所に繋ぐだけで芸能事務所は構えていない。
そういえば……『ユニ☆キラ』アプリでは、『ギャラクシー☆スター学園』ではなく『ギャラクシー☆スター事務所』じゃなかったっけ?これまた設定が変わってるのかも。
「これから我が校の生徒を自社デビューさせたいと思っているの!その第一弾となるのがあなたたちよ!」
五人の反応は様々だ。
オレンジ髪は「すげー!」と喜び、銀髪は「私が選ばれるのは当然ですね」と微笑み、金髪は「他の事務所からの反発はないんでしょうか」と冷静に尋ね、赤髪は「俺が選ばれた……アイドルに……」と茫然としていて、黒髪は無言で……えっ、なんか私のことをめちゃくちゃ見ているな!?
「詳しくは後ほど説明するとして、とにかくあなたたちが選ばれました」
「待ってください」
金髪の少年が手を上げた。彼が天使のような見た目なのは妖精族だからだ。
「アイドルグループなのに女性がいるんですか?」
彼の言葉に皆が私に注目した。黒髪だけは最初からずっと変わらず私をガン見してる。
「彼女、エイリ=メイさんにはあなたたちのプロデューサーをしてもらいます」
「彼女が?」
金髪天使は訝しげな顔をする。そりゃそうだ、いくら学園の生徒を集めたグループといえど女生徒がプロデュースをするだなんて信じられない。
「ええ。あなたたち5人がグループとして活動して、彼女がプロデューサー兼マネージャーです」
「しかし……」
「これは私の中で決定事項なの。あなたたちの才能を私は信じている。エイリさん含めて、ね」
力強く学園長は言って、私たちを見渡した。
「あなたたちは才能がある。でもあなたたちには同じくらい問題がある。それは自分が一番わかっているわよね?」
黒髪以外の4人は頷いたが、私は頷けなかった。
え〜っと……彼らの設定はよく覚えている。でも何か問題になる点なんてあったっけ?
しかし彼らの表情を見ていると思い当たることがあるらしい、学園長も彼らの反応を見てから話を続けた。
「あなたたちはどの事務所に繋いでも受け入れてもらえない問題がある。でも私はあなたたちの才能を信じているわ!
あなたたちはこの宇宙にきらめく原石なの。だからあなたたちは私たちが責任を持って世に出したい。このまま原石のまま終わるか、スターとなって輝くか。どう? 挑戦してみない?」
妙に説得力のある声だった。彼女の自信たっぷりな表情を見ていると成功する気がしてくる。
皆圧倒されて、そして頷いた。黒髪の彼だけは相変わらず私だけを見ていて、私が学園長に向かって頷くとマネするように頷いた。本当にこの男はなんなんだ?
「ただ1つ条件があるの。このグループは期間限定、2年間だけのグループよ」
「2年ですか……?」
「そう。2年で解散、それを売りにする。
実はあなたたちは既に各事務所に打診して、お断りされているの」
無慈悲な宣告に、彼らは見るからに落ち込んだ顔を見せる。
「もし2年で成長して、人気が出れば有名事務所に引き継ぐわ。人気が出なければそのままあなたたちの芸能活動は終わりかしらね」
「十代の若い時期だけ使ってその後は捨てるということかな?」
銀髪は笑顔ながらも少し嫌味が混じった声音で尋ねた。暗黒微笑というやつだ。
「2年でどこまで成果が残せるかはあなたたち次第よ。どちらにせよ今のままではあなたたちは挑戦できずに終わる」
その言葉には誰も反論をしなかった。皆思い当たるところがある、らしい……
けど、待って。本当に問題ってなに!?完全に置いてけぼりにされてる!彼らの問題を知らない。ゲームの設定と違うの?それともサービス終了したから知らないだけ?
「あなたたちのデビューは3カ月後を予定しているわ、正式にOKの返事をもらえたら明日からすぐに動き出すわよ」
「急ですね」
私の言葉に学園長はゆっくり頷いた。
「ええ。早くあなたたちを世に出さなくてはいけないから。やる気がある人はまた明日この場に来て。覚悟を見せてちょうだい」
覚悟に見合う協力は惜しまないわ。この学園の自社アーティスト第一弾として世に出れば、誰よりも輝くスターになれると信じてる。もちろん学園の先生たちの力も借りて総力をあげてあなたたちをトップに導く」
学園長がもう一度力を込めていうと、固い顔をしていた彼らに少しだけ輝きが見える。数多くのスターを輩出してきた学園長にそこまでいわれたら自信もつくもんだ。
でも、私は知っている。
彼らがスターになれなかったことを。半年で飽きられて、人々の話題から消えてしまった人たちだということを。
・・
「ねえ」
学園長室から出たところ後ろから声をかけられた。
黒髪の――サクが後ろに立っていた。一応周りを見渡してみるけど、声をかけられたのは私に間違いなかった。
サクはずっと、本当にずっと、他に目線を動かすことなくずっとひたすら私のことを見ていた。何か私に言いたかったのかも。
「あんた、アイドルやらないの?」
予想外の言葉が出て、赤い瞳がじっと私をうかがう。アイドル。――それは昨日までは私の1番の夢だった。
「うん」
「アイドル志望だったんじゃないの?」
「……そうだけど、私には才能がないから」
返事は小さな声でしか出来なかった。本当は諦めたくない。
でも才能がなさすぎて終わりを告げられた。それに私はこの世界では『プロデューサー役』だ。これが当然なんだと納得させていた。
「ふうん、まあいいけど。プロデューサーするの?」
「するわ、あなたは?」
「――あんたがいるなら、やる」
「えっ?」
聞き返した時にはサクは歩き出していた。気怠そうな姿を見送る。
ゲームの中のサクを思い出してみるが、今日出会ったサクとどうにも一致しなかった。彼は自信たっぷりな俺様吸血鬼だったはずだけど、あんなアンニュイな男だったか?
・・
『ユニ☆キラ』はサービス開始前が全盛期だった。
アイドル育成に恋愛要素を足したゲームで、主人公のメイはプロデューサーとして彼らを導き、距離を縮め恋を育む。よくある女性向けアプリだ。
人気アプリをいくつも出している会社の新作でシステム的にも期待され、何十万人もフォロワーがいる人気の絵師を起用し、女性向け作品にいつも参加している人気声優が起用された。
そしてそのキャストの1人に国民的アイドルが選ばれた。サンプルボイスを聞く限り彼の演技は自然だったし、何よりゴールデンタイムのドラマで主役をするような現役アイドルが参加するということで普段乙女ゲームをやらない層からも大きな話題になった。
事前に公開されていた主題歌は人気作曲家が手掛け、キャッチーなメロディーは覚えやすくダウンロード数・月間1位にも輝くほどだった。
それほどまでに期待されてお金をかけた渾身のアプリだったが、蓋を開ければシナリオが酷かった。
ヒロインのメイが、恋に生きるイケメン大好き恋愛脳だったのだ!
一応有名なシナリオライターを起用していたけど、恋愛は描けてもアイドルに対して無知だった。正確にいうと、ファンの心理を何ひとつ理解していなかった。
コレを言えば元も子もないのだけどプロデューサーの「アイドル育成」と「恋愛」は正直両立しない。ありえない、許されない。
アイドルに恋愛はご法度なのに、彼らを導く立場の人間が担当アイドルと恋に落ちるだなんてファンが嫌がること第一位に決まっている(ちなみにファンが嫌がること第二位はオタクと恋愛することだと私は思っている)地雷中の地雷だ。
だがしかし『ユニ☆キラ』はヒロインのメイは完全に恋に生きる女だった。プロデューサーになってはいけない女だった。
「アイドル育成」よりも「恋愛」ばかり優先する。そんなありえない女にアイドルたちが愛を囁く。周りも咎めるどころか応援をしてくる。
ライブ中にファンではなく舞台袖のメイにウィンクを飛ばすアイドルにプレイヤーは激怒した。
握手会をサボり1日ずっとメイに触れていたいと抜かすアイドルにも、それを受け入れてときめくメイにも、プレイヤーは失望した。
ライターは本当にドルオタのことを0.1ミリも知らなかったのだ。作品の中のファンはメイとアイドルの熱愛を応援する物分かりの良さを見せていた。そんなことがあるわけない、アイドルファンの解像度が低すぎる。
事前に期待値が大きかったことや現役アイドルファンを引っ張ってきたことも影響し、評判は地に落ちた。
そうして誰も課金をしなくなり、たくさんの期待と資金をかけた『ユニ☆キラ』はサービス終了を迎えるしかなくなった。
私は『ユニ☆キラ』が大好きで、どうしてもサービス終了してほしくなくて、毎月できる限りの課金をしていたけれど。単なる社会人が毎月家賃の金額を課金するだけでは、終了は食い止められなかった。
――でも、今は私がヒロインだ。
私は前世ドルオタで、乙女ゲーマーで、今世だってドルオタをこじらせてアイドル志望だったのだ。
話がアプリの通りに進めば、恋愛フラグは立つかもしれない。
全てのフラグを折って折って折りまくる。
彼らとメイの欠点は「恋愛脳」だったことだけだ……!顔もよくて才能もあって歌もうまかったし、声もいい!
絶対に私がトップに連れて行ってやる!目指せ宇宙一のアイドル!!!




