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プロローグ:夢が終わった日

 



 目を開けていられない程の眩しいライト、爆音の中に差し込まれる歓声、キラキラの瞳が向けられて、花火や紙吹雪の中に彼らはいる。

 一握りしか立つことのできないステージに、私が立ちたくて仕方なかった場所に、私が連れて行きたかった場所に、彼らはいる。



 ・・



「アイドルは諦めなさい」


 2学期が始まったばかり。秋。学園長室。私はそう告げられた。


「待ってください!私、諦められないんです!どうしても」


「これはあなたのためでもあるのよ」


 学園長が瞼を閉じると紫のラメが光る。同じ色のマニキュアが光る指で学園長は空を切った。

 彼女の指が滑った後、空間には映像が映し出される。――私の月末審査の様子だ。


 これを見て、私がアイドルを目指していると答えられる人は多分いない。2歳児のお遊戯の方がいくらか上手なダンス、逆に難しいのでは?というくらい1つもあっていない音程。どう見てもそれはお粗末すぎる発表だった。


「あなたがどれだけアイドルを夢見ているかは知っているわ」


 学園長がもう一度空を切ると、空間いっぱいにビッチリと羅列された文字が並ぶ。私が提出したアイドルを志望した理由だ。そしてその後に私が練習室で1人踊っている映像も流れる。


「私はあなたほどアイドルにふさわしい心を持つ人を知らない。2年半毎日誰よりも努力していることも見てきた」


「……」


「顔も可愛い、スタイルも悪くない」


「なら……!」


「アイドルはアーティストでもあるのよ」



 学園長はまっすぐな瞳を向けた。彼女が意地悪で私に現実を突きつけていないのはわかる。


「あなたは夢を見せなくてはいけない。あなたがどれほど努力をしていても、どれほどアイドルを愛していても、ファンから見える姿が全てなの。あなたのパフォーマンスで胸を打たれる人はいるかしら」


「……いません」



 わかっていた。アイドルを誰よりも愛している自信がある私だからこそ、私がアイドルになれないことは。


「でもね。私はあなたを信じたいの、エイリ=メイ。あなたに我が校初のアイドルグループを任せたいの」


彼女の紫で彩られた唇は笑みに変わる。


「えっ?」


「あなたにプロデューサーになってほしいのよ」



 学園長はそう言ってニコリと笑う。そして次に映し出されたのは5枚の男子生徒の写真。

 私たちの学園は『絶対恋愛禁止』のもと、男子生徒と女子生徒で校舎も授業も寮分けられている。だから、私は誰のことも知らないはずだ。


 ――でも、全員知っている。私はこの子たちをよく知っている。


「あ……!」


 頭の中に濁流が流れてくる、記憶の波が。その衝撃で私はへたり込んでしまった。


「エイリさん……!?」


 学園長の声が遠くで聞こえる気がする。私は意識を手放した。




 ・・




「気がつきましたか?」


 どうやらあの後医務室に運ばれて、ピンク色のベッドで私は眠っていたみたい。保健の先生が声を掛けてくれてあたたかいお茶を手渡してくれた。ふう、あったかい、胸にしみこむ。


「学園長からの伝言です。いきなりのことだったと思うのでゆっくり考えてくださいとのことよ。必要な情報をあなたのコスモに送っておいたと言っていたわ。また明日改めてお話しましょうって」


「あ、ありがとうございます」


「帰るのは落ち着いてからでもいいわよ」


 窓の外を見るとすっかり夜が近いらしい。私は先生にお礼を言うと、寮に戻ることにした。



 ここはギャラクシー☆スター学園。芸能界で活躍することを夢見る若者たちが集う学校だ。私はアイドルコースの3年生で、先ほど夢の終わりを告げられたところ。


 そして前世で私が大好きだった女性向けアプリ『ユニバース☆スター!煌めきの王子様』の世界だということを先ほど思い出したばかり。


 前世の日本よりもちょっとだけ近未来のこの世界は目にうつるもの全てがカラフルでポップだ。


 ああそうそう、ここは日本じゃなかった。

 この世界はいろんな種族が共に住むポーピャリ星。ふざけた名前の星だけど、日本人がプレイするゲームとして作られているから基本的な価値観や雰囲気は日本と同じで、少し便利な物が多いだけの近未来かつ別の惑星。――まあつまりゲーム製作者にとって都合のいい世界観だ。


 キャンディみたいにキュートな色でころんとした丸い形の建物は私たちの女子寮。

 ビビットオレンジの扉の前で私の鞄から小さなカードが飛び出した。これはコスモといい、日本でいうスマホのようなものだ。これ1つでいろんな機能があって、これまた製作者にとって都合のいいアイテムだ。基本的になんでもこれ1つで解決する。



「エイリ=メイ。認証しました」


 その声と共に扉が開く。小さな個室に入りもう一度扉が開くと、そこはもう自分の部屋だ。エレベーターのように目的の場所まで自動的に案内してくれる。


 ブルーとオレンジの明るい部屋に入ると、私はシャワーも浴びずにベッドに寝転んだ。


「コスモ、学園長からのデータを映して」


 目の前の空間に光が集まり、先ほどと同じ5人の男子生徒の写真が映し出された。


「サク、マオ、ネルラス、ミエル、ライ……やっぱりそうだ」


 顔だけでなく、名前も知っている。やはり彼らは『ユニ☆キラ』の攻略対象たちだ。どの子も抜群に顔がいい。

 1つだけ違うのはヒロインの「メイ」は学生ではなく事務所の社員だった。年齢は明記されていなかったけど、社会人だったから私のように18歳ということはなさそうだ。



 15年間目指してきたアイドルを諦めろと言われた。

 それだけでも大きな衝撃なのに前世のことを思い出した。いや前世の私のことはおぼろげにしか覚えていない。でもこのアプリの内容、キャラクターのことはよく思い出せる。


「夢かな」


 だとしたらどこから夢なんだろう。ポーピャリ星のメイの出来事は全てが夢で、起きたら日本の私に戻ってしまうんだろうか。

 だとしたらそれでもいいのかもしれない。だってアイドルにはなれないんだから。


 ……いや!違う!!!


 かんっぜんに忘れてたけど!私がアイドルを目指したいと思った理由は『ユニ☆キラ』だ!


 才能なんて何ひとつないのにどうしてもアイドルになりたくてずっと努力していた。


 開始半年でサービス終了を迎えてしまったこのゲーム。あっけなく終わってしまった彼らの夢だけど、私の人生を変えてくれたじゃない!


 もう一度彼らの夢を一緒に目指せるのなら。

 それは私の目指したアイドル人生なんじゃないだろうか。


 サービスは終了してしまったけれど……そうだ。ヒロインが問題なのだから。


「私がヒロインなら絶対に結末は変えられる!」


 私は立ち上がる。今のメイは元気でポジティブが取り柄なんだ!私がトップに連れて行く!そう決心して。


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