1年生春13
宿屋まで付いていくというライラ様に付き添ってノワールレント様も一緒に行くらしい。付き合いのいい子だねぇ。
ライラ様はタリバさんが本当に好きなのだろう、嬉々として絡んでいる。
そして私の隣はノワールレント様。
緊張するわ!だけど結構、貴族貴族してなくて優しい。貴族の自主学習で魔法薬以外はどんな事を勉強してるのか聞いたらきちんと教えてくれた。
学園でも話せるといいなー。と思っていると悲鳴が聞こえた。
「きゃーひったくりよ!」
「どけ!」
えっと前を見ると少し前に倒れている女人と走ろうとする男の人。こっちに来る!?
「え?」
ノワールレント様の周りを一瞬で男の人が囲む。その1人に軽く押された本当にぶつかったと思うくらいの速度で。でも確実に故意に。
明らかな蔑みの目。ああ、平民が嫌いなんだなとどこか冷静に思う。
たたらを踏んで道の真ん中に出てしまう。そこにはひったくりの男が迫る。ぶつかる!!
次の瞬間に身体が勝手に動いた。
なんと!男を投げ飛ばしていた。あれだ!背負い投げみたいな感じ。
そういえば子どもの頃、あ、前世のね、やってたね護身術。今、突然思い出した。
ひったくりの男は当然受身は取れず、背中を打ち付けてのたうち回っている。
「確保!」
ノワールレント様の周りの男の1人が倒れた男を抑え込む。
私は落ちていた鞄を拾った。
なんか違和感。
女の人が近付いてくるとその違和感はよく分かる。
鞄だけがやたらと上等。
思わず鞄と女の人を咄嗟に『簡易鑑定』した。
情報は沢山いらないから。
【リルの鞄 】
【ヤルダ 窃盗犯 賞金1万ペーレ】
持ち主違うじゃない!
「ありがとうよ。さあ、鞄を返しておくれ」
「え?」
「早くお返し!お前も盗むのかい!」
「あなたのじゃないですよね?この鞄。警察、えっと」
「この鞄は衛兵に渡すよ。規定通りに。何か文句でもあるかい?」
タリバさんが加勢してくれてほっとする。
「今、私がひったくられたの見てただろ!」
「知らないねえ。文句があるなら衛兵の所まで一緒にこればいい」
「なっ!」
「お嬢様、ご同行願えますか?」
ノワールレント様を護ってた男の人の1人が女性に声をかける。
女性は逃げようとするけどいつの間に呼びに行ったのか、既に警備の人っぽい人たちがこちらに来た。あの人達が衛兵かな。
「ひったくり犯及び窃盗犯だと思われる女性です」
「はっ!御協力感謝します!」
「そちらのお嬢様が2人とも捕まえましたので」
「へ?」
「あ、いやー」
急にフラないでください!
衛兵さんもキョトンとしてるじゃない!
どう誤魔化していいのか分かりません!
「これ、なんかこの女の人と合わない気がするんです。よろしくお願いします」
「あ、ああ」
衛兵の1人に鞄を押付けた!
よし!逃げよう!よくわからないから!
「では!」
「待て、待ちなさい。話を聞かせてくれ」
「えー帰るとこなんです」
「仕方ないねぇ後で詰所に行くよ。先にそれを連れてってくれ」
タリバさんが衛兵さんに身分証を見せる。
「はっ!御協力感謝します!行くぞ」
「え?あ、おい、お前ら歩け」
タリバさんが身分証見せたら態度が変わったねぇ。そんなもんだよねー。
やっぱり行くのかな?
チラッとタリバさんを見るとノワールレント様の周りの男の人……多分護衛さんで私を押した人を睨みつけてる。




