幼少編10
「サーシャ!」
「うえ?」
「どうだった!?」
「え?受かったよ」
家に駆け込む直前でカイルと出くわす。
というか、カイルの家は隣なので私の姿を見かけて飛び出して来たのだろう。
いきなりだったからちょっぴり驚いた。
変な声が出るくらいには。あれって本当に可愛くキャッって驚いてる人ってどんな人なんだろうか。
突然でびっくりすると変な声出るよね?
「おめでとう!」
「わっ!」
勢いのまま凄いいい笑顔のカイルに抱きしめられる。
え?え?え?
ふわりと朝の鍛錬のあとだからだろうか少し汗ばんだカイルの香りが鼻を擽る。
子どもの頃から嗅ぎなれたカイルの香りのはずなのにドキリと心臓が跳ねた。
いや、違う、そんな10歳の子に……って私も10歳である。
精神年齢は別として。
いや、違うこれは気のせい、抱きつかれてびっくりしたからだ。
こんなとこカーナに見つかったら……ってもう気にする必要は無いのか。
カーナとは住む世界が変わる。
ああ、そうか、私王都に行くんだ。
こことはしばらくお別れ。
手に職を付けた私はこの村の仕組みとも離れるのだ。
だから、カーナを気にする必要も無くなる。
単なる幼なじみ。村長の娘ではあるけれど、過度に気にして従う必要は無い。
タリバさんと同じになるのだ。
タリバさんは村の魔法薬師で、村の一員ではあるけれど、個人で独立している。
所謂共存関係という存在だ。
と、変な事考えているとギュッと締められた力がいっそう強くなる。
「く、苦しいよ!」
「あ、ごめん、ごめん」
「ありがとう」
緩めてくれた腕の中で大きく息をする。
息が止まってたみたいだ。
無意識に閉じていた瞼をあげると真正面にカイルの綺麗な顔。
まだ私の方が少し大きいので本の少し見下げる形になる。
「私、頑張るよ」
「おう!……それでお願いがあるんだけど……」
「?何?」
「時間が無い中悪いんだけど、薬草の見つけ方と採取方法を教えて欲しいんだ!この通り!」
1歩離れて大きく頭を下げるもう90度以上のお辞儀。
そんなに!?
「もちろんだよ。急にどうしたの?」
「いや、ほら、ヒースクリフが出ていく前に数ヶ月教わってただろ?あの時は馬鹿にしてたけど、やっぱり冒険者になったら必須だなって……サーシャ出てった後だと誰にも聞けないだろ?」
「タリバさんに……」
「無理だよ。ちゃんと採取された物を持っていった後になら可能性はあるかもだけど。ヒースクリフからの手紙にも凄く役に立ったってあったし。本当に馬鹿にしててごめんなさい」
「そっか。別に大丈夫だよ。明日からやろうか。朝一緒森に行こう」
「いいのか?」
本当に恐る恐る尋ねるカイルがなんだか子どもの頃みたいで思わずくすくす笑ってしまう。
ああそうだ。こうやって話してたっけ。
いつもはどこかカーナを意識してた。
改めてそう思う。
「いいよ。明日朝ごはん食べたら迎えに来て」
「え?ここから一緒に?いいのか?」
「うん。だって私ここから出てくんだよ?今更なんでカーナを気にしなきゃいけないだろうってさっき思ったんだ」
「そっか。よろしく」
どこかホッとしたようにカイルが笑う。
「よろしく。じゃ、父さん達に結果知らせに行くね」
「うん。引き止めて悪かった。手伝える事あったら言ってくれよな」
「ありがとう。じゃね」
軽く手を振って笑って別れる。
ほんの数歩で自宅到着。
少し勢いを削がれたけど元気よく扉を開ける。




