サーシャは魔法薬師
前章になります。
第三者視点
「いやー君凄いね!どうだい?共同研究者にならないか?」
「お断りします」
「な!僕は侯爵家なんだぞ!君のような平民には」
「お断りします」
サーシャが研究棟への道を急ぐ傍らを男が一人纏わりつきしつこく勧誘をかけてくる。
盛大に溜息を吐きたいが、ここにはお貴族様も来るためグッと我慢する。
研究棟に入ってさえしまえば一般人はお貴族様でも入れない。
だからサーシャは早足で歩く。男はかなりしつこい。
「良さないかみっともない」
「なんだと!っ!マックミラン!何故!」
「何故とは……サーシャとは同級生だし、共同研究してる物があるから呼びに来たんだが?」
「お前!マックミランは受けて何故僕を断る!」
「……はぁ……マックは共同研究してるだけです。共同研究者ではありません。それぞれがそれぞれの研究をしてるだけなので」
「マックミランが公爵家だからか!」
「?マックって公爵家なの?お貴族様なのは知ってたけど……」
「サーシャ……忘れてたのかい?まあ、家名や地位なんて確かにどうでもいいけど。諦めたまえ、バリバリスト侯爵家のゴランド君。彼女の功績を奪おうとするのは僕が許さないよ。共同研究者を名乗って功績を横取りする算段を付けてるのは他にもたーくさんいたからねぇ」
「マックミラン!君だって同じ」
「同じじゃないよ?僕は僕の研究、サーシャはサーシャの研究。相談や確認の実験は共にすることはあっても僕らはそれぞれ単独の研究者なんだ。君と一緒にしないでくれ」
「あの、もういいですか?共同研究もお断りしますし、私の研究に戻りたいので失礼します。マック、素材採取の打ち合わせだよね?カイルとヒースクリフには声掛けると伝えてあるよ」
「助かる!それと」
サーシャとマックミランはゴランドを置いてさっさと歩く。
「あ、待て!」
「どうしてもというなら素材を集めてください。蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、仏の御石の鉢、龍の首の珠、燕の子安貝をお持ちください」
「は?なんだそれ!?」
今度こそ無視してサーシャとマックミランは足早にゴランドを置いて去って行くのであった。
「本当になんの素材なんだ……火ネズミ?龍?燕はわかるが……どこにいるのか……くそ。庶民の癖に」
わかるわけが無い。前世の物語のかぐや姫は天才だ!と思うサーシャなのであった。
「サーシャ、さっきの素材は?どこで……」
「無いですよ?多分。あるなら探しに行きます」
「いや、行くなよ。行くなら僕も連れて行け。見たい」
「嫌ですよ?坊ちゃんを遠いところ連れてくと護衛の人がわんさか……」
「来ないの知ってて言ってるだろ。いつも少数精鋭だ」
「確かにね、あ、お貴族様だった。そうでございますね」
「やめろ、今更気持ち悪い。サーシャ僕が貴族と思い出す度にそれするな……」
ジト目でマックミランはサーシャを睨む。
アハハと乾いた笑いをしながらサーシャ達は研究棟へ入った。
「ここまで来れば安心だな」
「自分達で研究すればいいのにね」
はぁとマックミランは溜息を吐く。
自分がどれ程の天才であるかサーシャは理解していない。
「あ、で採取の件だけど」
楽しそうに話し始めたサーシャ。
この物語はそんな研究馬鹿なサーシャが淡々と採取と研究に明け暮れる物語なのである。
第三者視点は時々。
基本はサーシャ視点です。