2話
主人公の名前を高槻→秋坂に変えました。
ご確認の方をよろしくお願いします。
6限終了のチャイムが鳴り響く。水曜日、1週間の折り返し地点であと2日で休日だ。と言っても、俺は演劇部に所属しているし、大会も近いので土日に休んでる暇なんてないのだが。あと2日もあるのか、と思いながら生徒会室に向かう。
「おっ、来たか」
扉を開けると藤ヶ谷会長と他の役員たちが席に座っていた。
「え、なんか僕やらかしました?」
「なんでそうなるんだよ」
藤ヶ谷会長はいいから座れと言いながら俺の席を指さす。言われた通りに席に座り、これからどんなことが行われるかビクビクしながら、会長を見る。
「さーてと、お前ら。最初の仕事だ」
なぜか藤ヶ谷会長が言うとヤクザ的なサムシングに聞こえるのは置いておいて、生徒会としての最初の仕事。年中行事予定表を見ると現在8月の下旬なので、1番近い学校行事となると………
「"球技大会"、ですね」
「そうだ。俺たちの最初の仕事は球技大会の準備、運営だ」
「具体的に運営っていうのは何をするんです?」
俺の隣のやつが手を挙げながら言う。彼は確か生徒会会計補佐の山上祥一郎。同じクラスの俺とは正反対の陽キャだ。毎日ネズニーランド行きたいと言ってる、ちょっと頭のネジが半分くらいとんでるやべぇやつ。だが、腹立つことに定期テストでは毎回学年2位。
「まぁ簡単に言うと試合結果の集計だな。あとは模造紙とかにトーナメント表を作って、一般の生徒達も見れるように掲示することだ」
話を聞くと山上はメモ帳にメモをし始める。こういう所はマメでしっかりしてるんだなぁ。
「後で正式に発表する資料の方は先生方が作ってくださるらしい。だから俺たちは今日明日辺りで模造紙の方を完成させるぞ」
そういうと先輩方がそれぞれ棚や引き出しの中から模造紙やらマッキーなどを探し出す。
「えっと、質問いいですか?」
「なんだ、秋坂」
「いや、その…………」
俺は生徒会室内を見回す。部屋の中は棚の他には長机を3つ組み合わせて出来た大机がある。それ以外にはこれといって大きなものはなく、普通の教室の半分くらいの広さはある。だが、それは普通だったらの話だ。
「模造紙書く場所………なくないですか?」
「あっ…………」
そうこの生徒会室、前任の生徒会の人達からだいぶ散らかっており、荷物はもちろん、昼は弁当やおにぎりの1つすら置けないほど汚く、机の上にスペースがない。しかも机のない床の面積は結構狭く、机の下は埃がだいぶ溜まっている。
さすがにここで作業はしたくない。
「けど、球技大会は再来週ですよね?この部屋掃除とかしてる暇なんてないし…………」
そういうのは同じく1年生で生徒会の副会長に就任した雪原瑠凪。確かクラス委員長もやっていて、品行方正な優等生だ。以前、体育でバスケをしているのを見たことがあるが、水の用に流れるドリブルと美しいスリーポイントシュートを決めていたので、運動面でも優れているようだ。見た目は文字通り俺からしたら高嶺の花で二次元一筋の俺も思わず目で追ってしまう。風になびく絹のような黒髪を高い位置で一つ縛りにしており、時折覗くうなじが艶めかしい。生徒会内ではその美しさと、純粋さ、優秀さから姫と呼ばれて姫プされている。
「確かにそんなことに時間を割いてる場合じゃないしな。んー、適当な空き教室で作業するしかないか……」
「確か図書室前の教室なら放課後は空きだったと思いますし、あそこなら机とかも少ないので比較的作業しやすいかと」
俺がそう提案すると、そうしようと会長が言い、全員で図書室前の空き教室に道具を持って行く。
教室の中は誰もいなく、校庭からも離れているので外部活の掛け声などは聞こえず集中して作業ができそうだ。
「じゃあ男子側と女子側に別れて作業しよう。種目は例年通りだ」
会長の合図と共に各役員たちが動き始める。先ずは模造紙に枠組みを書いて、その中に各種目、クラスを書いていく。うちの学校は元々女子校ということもあって、男女比率はだいたい3:7だ。なので、男子は総当たり戦ができるが、女子はトーナメント形式らしい。
「そういえば、毎年競技は何してるんですか?」
「ん?あー、確かバレー、バスケ、バドミントン、卓球で男子だけサッカーがあるな」
バドミントンって球技なのかと思いながら枠組みを書いていく。
「会長はなんの競技に出るんですか?」
「そうだなぁ、去年もやったバドミントンかな。何せ、2日目の午後に決勝があるから盛り上がるし」
なるほど会長らしい。というか球技退会2日もあるのか。まぁ、授業日が1日でも多く削れるのであれば、問題ないのだが。
「で、秋坂は何やるんだ?」
「そうですねぇ、僕はバレーですかね」
「へぇ、意外だなぁ。てっきり、運動が苦手な僕は卓球一択です。とか言いそうなのに」
会長は俺の真似をしながら答える。いやまぁ、確かに陰キャっぽく話してる感はあると思うけど、そんなに陰キャ感溢れ出してますかね?俺。
「まぁ、卓球は中学の頃部活でやってたので人並み以上にはできますよ」
そう、俺は中学時代は卓球部だ。もちろん部内でも公式戦でも大して強くなく、後輩達に台を横取りされたりしてたので、だいたい1人廊下でボールを落とさないようにずっと玉を突く練習をしていた。
「じゃあなんでバレーなんだ?」
「バレーは小学生からやってる競技なんで一応得意な分類に入りますね」
「マジか、秋坂の意外な特技だな」
元々秋坂家はバレー一家で、幼い頃から両親のバレーを見て育ってきた。本格的に始めたのは小6で、中学は男子バレー部を作れなかったが、ママさんに混ざって一応バレーしてきた。兄貴は高校でバレーをすると言ってバレーの有名な高校に進学。俺は別にバレーがしたい訳ではなかったので、自分の学力に見合ったこの学校を選んだ。あと、この学校ではやりたいことがあったからだ。
「じゃあなんで男子バレーのないこの学校選んだんだ?」
「この学校って演劇がそこそこ強いじゃないですか。僕、将来はお芝居をする仕事に着きたいなと思ってて、それでここを選んだんです。まぁ、僕は運動音痴なので、ガチプレイヤー達についていけないというのも一つの理由ですが」
「へぇ〜」
そんな雑談をしながら作業を進めていると、いつの間にか全部の模造紙を作り終えた。他の人たちも作業が終わったのか、片付けをしたり、模造紙をまとめたりしながら談笑をしていた。
「なんか、意外とサクッと終わったな」
「そうですね」
時間はだいたい17時。俺の住んでいる場所は田舎なので電車は30分に1本。学校から駅まで自転車でだいたい5分程度なので、まだ時間はある。それに、俺の場合は来月末に大会があるので帰る訳には行かない。
「じゃあ、僕は部活の方に行きますね」
「おう、頑張れよ」
「はい、お疲れ様でした」
俺がそう言って空き教室の扉を開けると、他の役員たちからも"お疲れ〜"という感じで挨拶を返される。陰キャな俺にはじゃあねと言って返事をしてくれる人なんていなかったので、なんだかちょっと新鮮な気持ちだ。
鞄をもって演劇部の活動場所まで足を運ぶ。外は運動部が掛け声をあげながら走ったり、ボール拾ったり、暑い中懸命に練習をしている。やはり、何かに対して一生懸命になれるのは美しい。俺はまだ、やりたいこととかは漠然としていて、目標も特にないのだ。だからこそ、目の前の目標とか、そういうのに全力を尽くせるのは羨ましい。
靴を履き替えて、活動場所の扉を開く。
「おっ、あっきーだ!」
俺が扉を開けたのと同時に、1人の女性が電光石火の如く駆け寄ってくる。
「お菓子食べる?」
「小田先輩………。こんな時間にお菓子食べると、太りますよ」
「開口一番それ?!てか、太るとか乙女に言わないの!デリカシーの欠けらも無いね!」
小田先輩は自分のお腹をぷにぷにしながら、太ったかな〜?としゅんとしている。俺は差し出されたじゃがりこを一つツマミ、口に放り込む。
小田愛奈先輩。我らが演劇部の2年の先輩で、部長を務めている。少し天然で、子供っぽい性格から先輩というかは妹という感じの方が近い気がする。
「あ、それよりも名前!」
「え?」
「いまさっき、"小田先輩"って言ったよね?」
「えぇ……あぁ、は、はい………」
先輩は俺に人差し指をビシッと向けてニッコリと笑う。先輩後輩の壁があると劇での指摘を余りできないことがあるらしいので、うちの部活ではその壁をなるべく無くすために先輩の名前は下の名前、またはあだ名で呼ぶのがルールなのだ。
「……………っ、あ、愛奈……先輩………」
「よろしい!じゃあ、部活始めよう!」
そういうと先輩は俺をいじり返して満足したのか、元いた場所に戻って行った。やはり先輩の、しかも異性の名前を下の名前で呼ぶのは陰キャの俺には恥ずかしい。が、どうしても先輩のあの元気で明るい天真爛漫な性格の圧には耐えられない。それに、先輩は俺が恥ずかしがってあまり言わないのをからかっている節がある。小田先輩は大人しくしていれば、見た目だけではかなり清楚で静かそうな美少女という印象なのだが、清楚で静かとは真逆で騒がしくて、天真爛漫な性格なのだ。まぁ、そんなギャップが良いのか、今年引退した3年の先輩のひとりが、小田先輩に惚れている。
そんなことを思いながら、部活を開始する。俺は今回の劇は役者で出るには出るが、役者兼裏方という感じで主に裏方として働く。そしてその裏方というのがプロジェクターを使ったギミックだ。先生からパワーポイントでスライドを作ってくれと頼まれているので、台本片手にスライドの作成に勤しむ。ある程度パワーポイントの知識はあるし、鍛えられたタイピング力もあるので、効率よく、色々な演出を試していると、
「はい、じゃあ時間になったから終わりにするよ〜」
小田先輩のよく通る声が、活動場所全体に響いた。俺は現在の進行状況を保存して、パソコンを閉じ先輩の元へと行く。
「「お疲れ様でしたー!!」」
一通り先生から連絡事項や今後の練習の日程などを聞いて解散になった。俺はとりあえずどんな感じのレイアウトにするのかを先生と相談し、学校から出る。
「あ、あっきーだ!どう?プロジェクター」
「あぁ、お……愛奈先輩。まぁ、ぼちぼちといった所ですかね。いまいち僕の中ではビジョンが見えてないので」
「確かにね〜、1回通しでやってみないと分からないこともあるもんね〜」
そう言いながら先輩はさっきのじゃがりことは違ったお菓子の袋を開けて食べ始める。
この人、どんだけ間食食べるんだろう。
「あ!今また太るなぁ〜とか思ったでしょ?!」
「い、いや、全然。全く、これっぽっちも」
「むー、怪しい………」
そう言いながら先輩はお菓子を頬張る。本当に子供みたいだな。
「食べなきゃやっていけないのですよ!アレやったりコレやったり、お昼だけじゃあ足りないんだよね〜」
「確かに、大変そうですもんね」
「うん、でも、絶対に手は抜けない。だって、だって……」
先輩は少しだけ言葉を濁す。その先に続く言葉を言えば俺たちに対するプレッシャーが強くなると、気を使ってくれているからだろう。
「僕も、やるからにはできる限り全力を尽くしますよ」
「おっ、頼りになるねぇ〜!頑張ろうね、目指せ全国!」
先輩はそう言いながら拳を上に突き上げる。
先輩は本気で全国に行こうとしている。たった6人で。俺たちの演劇部は現在、2年生1人、1年生5人の計6人。演劇をやるにはほとんど最低限の人数だ。それに部員の大半が初心者の1年生だ。先輩への期待も負担も計り知れないほど大きい。
それでも先輩が頑張る理由。それは、演劇の大会は運動部とは違って上に勝ち進めるのは年に1回しかない。つまり、今回が先輩にとって実質最後の大会なのだ。去年は県大会まで行ったが入賞はできなかったらしい。その事がとても悔しかったらしく、今年はさらに力が入っている。
「あ、迎えが来た。じゃあね!またあした!」
先輩は大きくてを振りながら車に乗って行ってしまった。俺も自転車に跨り、電車に乗り遅れないようにそこそこのスピードで漕ぎ進める。だいぶ余裕の状態で駅に着いた。改札を抜けて、ホームまで行くと
「あ、あっきーだ」
「あ、青木さんに前村さん」
同じ演劇部の同級生、青木さんと前村さんが居た。
「お疲れ様です」
「おつかれ〜ってかさ、あっきーはどうなん?」
「え、何がですか?」
「部活」
「えっと、どういう………」
「だってさ夏休み中お盆以外休み無しだったじゃん?しかも、予定表見るとさこれからも休みないじゃん」
「そ、それはまぁ大会近いしさ………」
「でもさぁ…………」
そう言いながら青木さんと前村さんは部活に対して愚痴を吐く。俺はそれを適当に流す。
運動部と比べればうちの部活は比較的休みは多い方だし、融通も聞く。更には遅くまでやらないからかなり良心的だ。
なので別に部活に対して不満はないし、なんなら大会なのにこんなに緩くて大丈夫なのかとか思っている。オーバーワークはいいことは無いが、詰めなさすぎるのもどうかと思うが。まぁ、そこは先生の考え出し、俺が口出しできることではないが。
それでもなんだろう、この2人の愚痴はなんというか、俺の心に引っかかる。言葉では上手く言い表せないが、妙な苛立ちを覚えてしょうがなかった。
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