1話
新連載です。
お手柔らかに
西陽が射し込む生徒会室。全く整理されていないこの部屋は少しだけ埃っぽい。そんな中、2人の男が数枚のカードを握りしめ、緊張の表情を見せる。展開されるはEカード、生徒会長との一騎打ち。もちろん一筋縄では行かない。数多の敵(たった2人)を蹴散らしてきた俺は目の前に伏せられた皇帝側のカードと、生徒会長の顔を交互に見る。3本先取の現在2対2。生徒会長は皇帝、そして俺は奴隷。5分の4の確率で勝利できる皇帝側に対し、5分の1でしか勝つことが出来ない奴隷側。現在の手札枚数は2枚。つまり俺は3ターンも相打ちをして敗北を防いできたのだ。
「どうした〜秋坂〜?早く出さないか?奴隷をよォ……」
相手を見下すような表情だが、目だけは真剣だ。鋭い刃のような眼差しは俺の目を通して、思考を読んでいるかのようだった。まぁ、目付きが刃のように悪いのは事実なので、もしかしたら勘違いかもしれないが。
「急かさないでくださいよ」
「早く奴隷出して楽になった方がいいんじゃねぇか?」
俺が奴隷を出すのを誘っているのか、それともあえて奴隷に触れさせることで市民を出させようとしているのか。今までの彼の行動パターンを振り返ってみても、ここで皇帝を出す可能性は五分五分。俺にはまだ、会長の行動の先を予測することは出来ない。
確率は2分の1。市民か皇帝か。ここは賭けるしかない。相手を信じて、俺はカードを掴む手に力を込め裏返しで場に出す。
生徒会長はにっと笑う。それは勝利を確信したものなのか、それとも………
「いっせーのっ!」
掛け声と共にカードをひっくり返す。俺のカードは市民。対して会長のは―――――
「あーあ、俺の負けかぁ」
会長の出したカードも市民。つまり、向こうの手札は皇帝だけで、俺は奴隷だけ。
「いやぁ、大したもんだぜ。やるじゃあねぇか」
会長はカードを片付けながら俺の肩をバシッと叩いて言う。まぁ、確率は2分の1だし、ここまでもほとんどの運ゲーで何とか勝ってきた所はある。実際、俺こと秋坂優希のステータスは運に極振りしているのだ。そのため勉強も運動も、もちろん顔も普通ぐらい。特出した特技なんてものはなく、強いて言うなら身長が高いぐらいしか特徴はない。クラスでは身長のでかい眼鏡をかけた陰キャというのが第一印象で、目立たない影の薄い存在なのでゲームとかで言うところの村人B的な立ち位置だ。
それに対して先程まで対戦していた我が校の生徒会長、藤ヶ谷先輩は運動も勉強もでき、人前では臆せず自分の意見を真っ直ぐに言う度胸も持ち合わせている優秀で、俺の憧れでもある先輩だ。唯一の欠点といえば目付きが悪いので、普通な状態でも怒っているように見えて結構怖い。
「あ、あざっす……」
「んだよ〜、しゃきっとせい!お前には意外と期待してんだから」
「入ったって言っても、僕は立ち位置的には補佐。僕一人の能力はそこまで高くないですし、正直役に立つかどうかは………」
「………先ずはそのひねくれた性格を矯正しなければいけないようだな」
「えっ?」
「いいか?補佐とか関係ねぇ。生徒会に入ったからには全力を尽くしてもらう。まぁ、部下の能力を最大限に発揮させられるかは俺の力量だが、そこは大丈夫だろう。だから、俺の求めるクオリティについてこれるように頑張れ」
「ぜ、善処……します………」
俺がそう答えると藤ヶ谷先輩は俺に1発蹴りを入れて、また「しゃんとせい!」といい、鞄をもって帰ってしまった。
高校に入ってからの素行の良さから担任に生徒会に入らないか?と誘われ、内申目当てで入ったはいいものの、他の面子を見て正直俺には出来ないのではないかと思ってしまう。
「じ、じゃあ僕も先にあがります。お疲れ様でした」
「はーい、お疲れ〜」
生徒会室内はスマホをいじっている人や、参考書を開いて勉強している人、中の良い奴と談笑している人。そのどのグループにも俺とは仲のいいやつはいない。そもそも、認識すらされているか不安である。本当に俺はここでやって行けるのだろうか……………。
―――――――――――――――――――――――――
「え、お前生徒会に入ったの?!」
電車通学の俺は別の高校に通っている中学の同級生、棚橋奏汰と偶然会ったので報告をする。コイツとは小学校からの仲で、歳の近い兄弟的な感じで色んなことを相談してもらってる。とても頼りになる。
「うん、まぁ、ノリというかなんというか………」
「本格的に高校デビューかよ!やるじゃん!」
奏汰は俺を小突き笑いながら言う。もちろんのこと、村人Bな俺は中学でも同じような感じ………というか中学の方が拗らせてたな、うん。今はだいぶ丸くなったな。
「あの優希が生徒会って、世も末だな。お前の学校終わったな」
「そこまで言う?!」
ははっ、冗談だ!といいながら奏汰は俺の肩をバシバシと叩く。なんか若干藤ヶ谷先輩と似てるな。
「まぁでも、いいんじゃねぇの?高校生の間でしかできない貴重な経験だし。だけど、俺は心配だよ。厨二病で根暗キモオタ陰キャのお前が、他の人達に迷惑かけてないか」
「そこは安心しろ、厨二病は治った」
「いや、他も治さなきゃダメだろ!」
カッカッカと奏汰は笑う。
この感じ、いじっていじられて、本心から話している感じ、懐かしさと楽しさを感じる。奏とは中学2年までは同じクラスだったが、3年からは別のクラスになってしまい、それと同時に俺はひねくれ陰キャになったのだ。それに高校も別なのでこうして会うことの方が珍しくて。だからこそこういう時間がとても貴重に感じる。
「頑張れよ、最後まで」
「まぁ、色々と不安要素だらけだけど、自分で立候補したからには最後までやり通すよ………」
アニメにありそうなこの雰囲気。それは奏汰も感じ取ったのか拳を突き出す。それにならい、俺も拳をだしてコツッとぶつける。
「んー、やっといてなんだけど………ダセェな!」
「……確かに、恥ずいな……コレ………」
そうして俺たちはくだらないことを話しながら帰路に着く。
こうして俺の、なんの取り柄もない”村人B”の非凡な日常が幕を開けたのだった。
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