ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡九夜目
―――***―――***―――
現在、山城とガブリエルが拠点にする街――アザミーの国の一角であるアルタールは、主に木製の建物で成り立っていた。日本の京都のように味がある建物はあまりなく、全体的に質素で頼りない印象を受ける街並みだ。
アザミーという国が<木の国>と<最弱最小の国>という二つ名を持っており、それが雰囲気に現れているのかもしれない。国に住む人々は日本人のような肌色や顔立ちをした者もいれば、白人や黒人のような特徴を持つ人種もいた。それだけでなく、体の一部に獣の耳や尻尾がまじった者もおり、マリンカリンの世界では彼らは人間にカウントされるようだ。
山城とガブリエルが泊まる宿には、ふたつのベッドがあり二人は各々のベッドに腰かけていた。一つの世界を救うために招かれた英雄と大天使のガブリエルが泊まるには貧相な宿で、天上の隅の方には蜘蛛の巣が張っている。ぼろ小屋にベッド二つだけ置いたかのような宿だった。
この宿に世話になりはじめてからすでに一週間が経過していた。
「朱雀くんも武器の扱いに慣れてきたんじゃない?」
ベッドに座っているガブリエルは、なぜかメイド服姿だ。その姿でも頭にかけているゴーグルと腰にさげているラッパは変わらない。この大天使は日ごとに服装を変えている。大量の服を持ち運べるカバンを持っていないにも関わらず、服の替えには困っていない様子だ。
「そうだな」と答える山城はこの世界にやってきたときと同じ制服姿だ。それだけ長い間同じ服を着ていれば汚れなりそうだが、しみ一つ見当たらない。<天使の清浄>という大天使がデフォルトで持っている能力があり、ガブリエルがそれを使って山城の服の汚れを取っているおかげで、新品同様の清潔さを保てていた。この世界には自動洗濯機はないのでありがたい限りだ。一家に一台大天使だな、と思うほどである。
初日に魔物と戦闘をしたが、それ以降は平和な日々を送っていた。アルタールは守護天使の守備範囲内であるようで、魔物の類の襲撃は一切ない。人間同士の戦争も、みながみな弱い存在であるので起こらない。人を殺せばレベルが上がるせいで、凶行がすぐにわかるので殺人は稀だ。
平和なのはいいのだが、それ故に武器の需要が乏しく武器屋がない。なので、骨董屋に格安で売ってあった黒鉄のククリナイフを購入して、それを裏路地で振るって剣の扱いを学んだ。
武器の代金や生活費は、街のギルドが出している依頼をこなして得ていた。依頼には魔物の討伐は一切なく、店の手伝いや留守番が大半を占めていた。
山城は床に布を敷き、その上でククリナイフの手入れをしていた。やすりで錆を落とし、砥石で刃を研ぎ澄ます地道な作業だ。格安だっただけに、はじめはさびだらけで戦闘では使い物になりそうになかったが、磨くうちに金属独特の光沢が出てきた。今となっては人間の腕ならばやすやすと切断してしまえそうだ。
「うがー、ボクがこんなに頑張ってるんだから、豪華な宿に泊まりたいでござるぅ。ボクって大天使だよ? 夜ご飯に満漢全席くらいは用意されてもいいと思うんだ! もっともてなしたまへ」
布団の上に大の字に寝っ転がりながら不満を吐くガブリエル。
ガブリエルも連日ギルドでお金を稼いでくれている。もっとも、売り子をやっては商品を落とし、留守番をすれば居眠りをしているようで、もらってくるお金がかなり目減りしていた。彼女には人間の労働はあまり向いていないようだ。