ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡八夜目
「人間は、どうやって魔物から身を守ってるんだ?」
レベル1の人間たちでは弱肉強食の世界に生きる魔物になすすべがないはずだ。ましてや魔神なんて存在がいる世界だ。それが人間の支配を目論んだ場合、人類はあっという間に魔物の下に押しやられるはずだ。
「当然の疑問だね! この世界には、守護天使っていう人間を護る存在がいるんだよ! 人間の国は七つあるんだけど、その各々に一体ずつ担当の守護天使がいて国を守ってるのさ!」
「一つの国を一体で、か。相当強そうだな。ガブさんが守ってるとこはあるのか?」
「いんや、ないよ。ボクはこの世界の天使じゃないし、守れって言われたって無理だしね。ともかく、守護天使のおかげで魔神のワンランク下、魔王クラスでもやってこなきゃ人間は安全な生活を送れると言いたいんだけど、なかなかうまくはいかないよね。住む場所によってはさっきみたいに魔物に生贄を強要されるし」
「天使も万能じゃないわけだ」
「そそ」
それからかなり歩き続けた。山を一つ越えて森を抜けると、明らかに人の手が加わった木の壁が視界一杯に広がった。街を護る役割を担っているようでその高い壁の奥からは人々の喧騒が聞こえてきた。
魔物の進行を食い止めるには、木製の壁は頼りないだろうな、と山城は思った。
「ここはアザミーって国が治める街の一つだね」
「入り口はどこだ?」
「言い辛いんだけど、入り口からは入らない方がいいかな。昔のままなら、検問があってレベルのチェックをされるんだ。そしたら君のレベルがばれて……」
「殺人鬼扱いされると」
「その可能性が高いよ。この世界の特性を説明せずに連れてきてごめん! 力があっても、世界を救う英雄として堂々と出歩けるわけじゃないんだ。むしろ、上手くその力を隠さないと忌み嫌われる。でも、力がなければ世界を救えない。ジレンマに満ちた世界なんだ。朱雀くんはたぶんこの世界の住民には認められない」
「それは別にいい。人を助けられるならそれで僕は満足だ」
「……そういうとこが人間離れしてるよね。根っからの英雄気質だよ」
「そうか?」
「そうさ。大天使ガブリエルが認めるんだ! 胸を張っていいよ! さて、正面から入れないからさ、ここからこっそり壁を越えて入るとしよう」
「やることはコソ泥みたいだな」
「仕方ないさ! それじゃあお先~朱雀くんは跳び越せるはずだから自分で入ってきてね」
ガブリエルの体はこの世界の重力が反転したかのように宙に浮く。そしてそのまま高さ五メートルはある壁を越えてしまった。
山城がいた世界ならば、この高さを人間が飛び越えるなんて無理だ。ひざを折ってかがむ。そして、そのまま地面に垂直にとんだ。
余裕だった。壁の一番上よりさらに人二人分くらいの余裕がある。壁の向こうはちょうど家が並び立つ裏路地で人気がない。壁の淵に手をかけてそのまま向こう側へと超える。足を痛めかねない高所からの着地もなんなくこなした。
「さっきの魔物との戦闘でも感じたが、あんたのくれた力はすごいな」
「でしょでしょ! 英雄を創るという点においてボクは誰にも負けないさ!」
「それじゃあ、しばらくはこの街を拠点にして世界の事情を掴んでいこうか。もしかしたら、さくっと破滅の予兆を見つけられるかもしれないし」
一つの世界を救うのにどれだけの過酷が伴うのか、この時の山城はまだ知らなかった。だが、仮に知っていたとしても、世界を救う意思は揺るがなかっただろう。
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