ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡六夜目
「ふぅ……、いくら魔物とはいえ、気持ちいい物ではないな」
腕を引き抜く。シャツの袖には茶黒い血のような体液がついていた。匂いは不思議とない。支えを失った魔物は重力に任せて自然と倒れた。
「もう大丈夫だ。立てるか?」
紳士を気取って山城は、血に濡れていない方の手を少女に差し伸べた。じっくり見る余裕がなかったが、よくよく見ればきれいな金髪をなびかせており、整った顔立ちをしている。
パァンと、手をはたかれた。
「さ、触らないでください! あ、あなたは、今まで何人の、いえ、何十人の、い、いえそれどころか、何千人の人間を殺してきたのですかっ!?」
「……どういうことだ?」
山城の問いに答えるよりも先に少女は立ち上がり、こけそうになりながら走り出す。その姿はあっという間に森に消えてしまった。魔物を見た時と同じか、それ以上の恐怖が救った少女の顔には張り付いていた。
「……先にガブさんと合流するか。何か事情がありそうだ」
とりあえず、周囲に魔物らしき気配はないので大丈夫だろう。さきほどガブリエルを置いてけぼりにした場所に山城は戻ろうとしたが、その途中で彼女と合流した。
「血だらけだよ朱雀くん!?」
「僕の血じゃない。魔物の血だ」
山城はガブリエルと別れた後に起こったことを簡潔に伝えた。
「で、だ。一人の少女を助けたのはいいんだが、僕が化物にでも見えたのか、逃げ出したんだ。なぜだ?」
「数十年たってもこの世界は変わってないんだね。うん、実はぁ、一つ説明しとかないといけないことがありましてぇ……」
ガブリエルが両手の指を突き合わせてうじうじとやっているのを見るに、やはり事情があるようだ。山城はじっとガブリエルをねめつけた。
「こ、殺したりしないでくれたまへよ?」
「内容によるな」
「ひぃい!?」
「冗談だ」
「君は冗談を真顔で言うからいちいち心臓に悪いよ……。この世界の人間はね、基本的に人はレベル1なんだよ」
「ふむ? それと僕が恐れられるのにどう繋がるんだ?」
「少し話が長くなるかもしれないし、近くの街を目指しながら歩こう。朱雀くんが言っていた遺跡は知ってるんだ。たぶん、ここは人間領と魔物領の狭間だよ。数時間歩けば街があるはずだよ」
「魔物領の近くなら魔物が多そうだがさっきの子は大丈夫か?」
「遺跡に住み着いてた魔物を倒したなら、その女の子も大丈夫じゃないかな。昔から事情が変わらないなら、そこには定期的に魔物が住み着いて生贄を近隣の村に要求してたんだ。倒しても倒しても他の魔物が住み着くから対処に手を焼いてるみたいだけど、住み着くのは基本的に縄張り意識が強い一匹だけみたいだからね。人間領に完全に入ってしまえば、魔物の存在はほとんど心配する必要はないよ」
ガブリエルが歩き出したのでそれについていく。右手についた魔物の血を洗い流したかったが我慢する。山城の三歩はガブリエルの四歩。ペースを天使にあわせながら歩く。山城のいた世界ではみたことのない巨大でグロテスクな青い実が生えている木々の下を通る。