ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡五夜目
「想像以上の力だな」と、自分が得たモノに対する驚きはそれだけだった。
人間のような歯並びをした巨大な口がすでに眼前にある。血生臭い。一体、何人もの人間をこの口で喰らってきたのか。
その前歯を勢いのままグーに固めた拳で殴る。そこに迷いはなかった。ガブリエルに与えられた力が、どの程度通用するのかは謎だ。だが、いけるだろうという予感があった。
腐った木の板を砕くかのように簡単に魔物の歯が砕ける。
――がぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!
「よし、いけるな」
予感が確信に変わる。拳を見ても傷一つついていない。山城の攻撃を受けた魔物は、痛みをこらえきれずその巨大な右手を空に振って暴れている。その口からあふれ出した唾液が辺りに飛び散った。
「なぁ、あんた、一つ聞いていいか?」と、山城は祭壇の床にぺたりとしゃがみこんでいる少女に聞く。
「は、はひ!?」
言葉は通じるようだ。ガブリエルがマリンカリンの世界で生きていくための小細工をしてくれているのだろう。
「こいつは悪者なのか?」
「私の村を脅かす魔物です……」
「なら、遠慮なくぶっ飛ばしていいわけだ」
「ナニモノダ、キサマ、ニンゲン、ナノカ」と、巨腕の魔物が語り掛けてくる。
「道化だな。どこからどう見ても人間だろう」
「ニンゲンガ、コンナニ、ツヨイハズガ」
「そうなのか。まぁ、どうでもいいな。この世界の事情はまだよくわからん」
山城は供え物に埋まっていた金色の小剣を右手に持って構えた。明らかに装飾用の小剣で、切れ味はまったくない。その上、山城は剣の初心者だ。こんな武器ならば、何も持たずに拳で戦った方が間違いなく強い。
「悪いがあんたには僕の戦闘の練習台になってもらう」
「ナメ、ヤガッテ!」
人間ごときに負けるわけにはいかない。魔物がそう言ったわけではないのだが気迫を感じた。右手が山城の頭部を喰らおうと伸びる。だが、集中した彼には動きがスロー再生のように見えた。
小剣で魔物の右手を下からすくい上げるように払う。アッパーを振り切ったボクシング選手のように魔物の上半身ががら空きになる。そこに小剣の切っ先を突き刺したのだが、先端のほんの数ミリしか刺さらなかった。
「ここじゃあ致命傷にならないか」
「シネ」
怪力で強引に引き戻され、振り下ろされた巨大な右こぶし。それを左手でつかんで止めた山城の体を衝撃が伝わり、祭壇を構成していた石の地面が砕ける。
「ウ、ウゴカ……」
魔物は捕まれた手を振りほどこうとしているようだったが、山城はそれを許さない。
「ダメだな。レベル差があって勝てているんだろうが、もし僕と同等のレベルのやつが出てきたら間違いなく勝てない。戦い方を学ばないとな。とはいえ、あんたじゃあ練習台にすらならないか」
魔物の手のひらにある口に自分の腕ごと黄金の小剣を叩き込んだ。さすがに体内はやわらかく、小剣は容易く肉を貫通した。
――ギャ、ギャ、ギャ……。
だらん、と魔物の全身から力が抜ける。絶命したのだ。