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ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡二夜目

―――***―――***―――


 ガクンッ。

 大きな揺れを感じた山城は目を覚ます。ずれた眼鏡を外してから大きく欠伸をする。彼の視界に入るのはイスやテーブルなどの引っ越し道具。山城は軽トラックの荷台に荷物と一緒に乗せられていた。彼は休日にも関わらず制服姿だった。もっとも、その着方は少しだらしなく、長そでワイシャツのすそをずぼんから出した状態だった。

 眼鏡を鼻の上に乗せ直しながら辺りを見渡した。

「なんにもないな……」

 ショッピングモールも、ゲームセンターもない。代わり映えのしない田んぼ道は見飽きた。三月も終わりに近づいてきており、ぽかぽかと暖かいのでついつい寝てしまった。道路が塗装されていたのなら、まだ一、二時間は寝られていただろう。

「こんな場所に高校があるのか」

 町の駅にやってくる電車も一時間に一本だと言う。

 山城は高校二年生。両親も健在。にも関わらず、高校一年生のときに通っていた高校には行けず、今年から別の学校に通う羽目になった。

 転校するきっかけを思い出す。それは、理不尽としか言いようがない出来事だ。

 通っていた高校の通学路で女子高生が不良に絡まれていた。たまたまその近くを通った山城は助けを求められた。見てみぬふりはできない性格なので、手や足も出る事態になりながらも不良から女子高生を助けた。そこまではよかったが、問題はその後だ。女子高生に手を出していた不良が、通っていた高校の理事長の息子だったのだ。理事長の息子の行為は伏せられ、山城の暴力行為だけが学校で広められた。後は決められた筋書きを辿るかのように問題が大きくなり、山城には退学処分が下された。

 きっとあの時に見ず知らずの赤の他人を助けなければ、今頃平穏な学生生活を送れていただろう。だが、一切の後悔もなかった。間違ったことをやっていないという確信があるからだ。

「腰が痛いな」

 ちなみに、山城が乗りたかった軽トラックの助手席にはゴールデンレトリバーが座している。運転席に乗る叔父のペットだ。残念ながら、今の山城は厄介者であり犬よりも立場が低い。

 ガタンッ!

 未塗装の道の凹凸でも踏んだのか、大きく軽トラックが跳ねた。頭が揺れて、一瞬だけ視界が青い空の方に浮く。

「ん……?」

 山城はついメガネをかけ直してしまう。まばたき一つ分の間に、彼の真正面に一人の少女が現れていた。正確には伸ばしている足のひざの上に乗っかっている。

「こんにちは! いい天気だね! 愛の告白をするときは夕暮れにしたいタイプだけど、こういう青空もいいかもしれない!」

「どうも」

 図太いと友達に評される山城は特に動揺せずに、澄んだ湖のように大きな蒼い瞳を持つ少女を観察する。

 ゴーグルを頭にかけており、髪は肩にかかるほどまで伸びている。髪の色合いが独特で薄い緑色だ。顔立ちは整っており、口元のキュートな八重歯の影響で綺麗というよりかわいい系だ。一見してこの世の者ではなさそうな彼女だが、なぜか服装は見知らぬ学校の制服で腰にラッパを下げている。

 突然現れた以外にも、不思議な点が一つ。膝に乗っているのに、重さをまるで感じない。山城の足に体重をかけないように気遣っている風でもない。

「あんたは誰だ? どっから湧いてきたんだ?」

「ボクはあの有名人――いや、有名天使のガブリエル! どっから湧いてきたかってのを説明するとややこしいから省かせてくれたまへ!」

 ガブリエル。宗教の用語に詳しくない山城だが、小説や映画、アニメ、ゲーム等に腐るほど出てくるその名前はさすがに知っていた。たしか神様の言葉を人に伝える役割を持つ天使だ。この少女がガブリエルであるならば、腰にぶら下げているラッパも納得いく。最後の審判の訪れを告げる際に吹きならされる物騒極まりない楽器だ。

「四大天使様が僕の元になんの用だ?」

「あれ? 反応薄くない? もっと驚いてもいいとこだよ? むしろ驚きたまへ」

 両手をうがーっと上げるガブリエルからは、天使の威厳は欠片も感じられない。

「驚いてあんたが現れた謎がすべて解けるなら驚くんだがな」

 春の陽気に誘われてまた夢の中に入ってしまった可能性を考えて、こっそり自分のふとももをつねってみるが普通に痛かった。

「わおー、現代の若者は冷めておりますなぁ! ちょっと寂しいけど、本題を話しやすくて助かるし、まぁいっか」

 ただでさえ近いのに、ガブリエルはずいっと顔を近づけてくる。山城はその分下がろうとしたが、軽トラックの運転席と荷台を分ける壁を背にしているのでできなかった。天使にしてはベタな石鹸のいい香りがする。

「美少女がこれだけ近づいているのに顔色は変わらないね? 一応、キミの好みをリサーチしてかわいい制服を着てきたんだけど」

「似合ってはいるが、新品感がある点は評価マイナスだな。日々着られてる感がないといまいちだ」

「んんー? ずいぶんマニアックな意見ありがとう!」

「で、ぼくがなんの用だ? と聞いた返事はいつ返ってくるんだ?」

「ボクは君に助けて欲しいことがあってここに来たんだ! 実は非常に困ってるんだ。ある世界に滅亡の兆候が出ててね、ちょっくらそれを救ってきてほしいのさ!」

「……なるほどな。そういう感じか」

「また驚きが薄いなぁ」

「今のご時世、その程度で驚く道化はいないさ。そういうのは読み飽きたし、見飽きた」

「ううっ、確かにありきたりすぎる誘い文句だよ。わかる、ボクも痛いほどわかるよ。実際、自分で言う時、あれ? 昨日読んだラノベの女神役が言ってたなーとか思ったけど、そこはフィクションと現実を分けて考えてよ」

「大天使なのにラノベ読んでるのか」

「あーあ、ダメか。流行りに乗って誘ってみたけど、やっぱり普通の誘い方しないとね。こりゃあ振られたね」

「別に行ってもいいぞ」

「え? マジまんじ? 軽くない?」

「困ってるんだろ」

 山城は助けを求められれば、誰であろうと拒みはしない。相手が人外の天使だろうが関係ない。自分には一切関係がない人を助けたせいで、転校をさせられている最中なのにおかまいなしだ。

「見込みがあって来たわけだけど、これは予想以上にあっさり乗ってきてくれたね。それじゃあさっさと逝くとしよう」

 ガブリエルの右手にいつの間にか真っ黒い鉄の塊――殺人アイテムが現れていた。拳銃だ。それを山城の頭に突きつける。人間として精神は図太い方だが、これにはさすがに総毛立った。

「お、おい、なにするつもりだよ?」

「他の世界に生まれ変わるのに死ぬってのもお決まりだよね。もう読み飽きたし、見飽きてるでしょ」

「飽きは関係ないだろ。そこは穏便な方法で――」

 ガン!

 火薬が弾ける音と一緒に、山城の頭蓋には穴が空く。だが、本人はそれに気づくだけの意識を保てるはずもなかった。


―――***―――***―――

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