ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡十七夜目
「クレア様を! クレア様を守れぇええええええええええええええええ!」
「パーティー! パーティー! 喰ラエ喰ラエ!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああ足が、俺の足がああああああああああああああああああああ!」
「守護天使様が来るまで持ちこたえろ! クソ! スライブ様さえいれば!」
怒号、悲鳴、咆哮、天幕の中は狂乱に満ちていた。足元にはじゅうたんが敷かれ、会議に使われていたテーブルとイスも無駄に豪勢な作りになっている。だが、それらはことごとく破壊されてすでに原型を留めていない。天幕の隅の方には、隙間から土砂が入り込んでいる。その土砂の間際まで人間は魔物に追い詰められていた。護衛対象になっている人物は、おそらく一人だ。一人の少女が大盾を持った護衛四人に守られている。それ以外の人は、すでに砕けた鎧の隙間から皮膚の内側を晒して床に伏せている。
天幕内にいる魔物は六匹。
まずはそれを片付けるのが先決だろう。
「しっ!」
一番手近にいた魔物にククリナイフを投げつける。キリンのように首が長いタイプで、その後頭部にナイフが刺さり断末魔が上がる。倒したのを確認せずに、新たに一本ククリナイフを複製して残り五匹の魔物に接近する。
レベル1の人間にとっては絶望的な強さを持つ魔物だが、中位存在の頂点にして限界のレベル99に到達している山城にとっては赤子の手をひねるよりも容易い戦いだった。五匹の魔物を一瞬で全滅させる。それができただけに、山城は恐れで足を止めていた時間を悔やんだ。もし、恐怖に震える時間がなければ後何人救えていただろうか。
生き残っていた五人の人間がぽかんと口を開けて、魔物の血に濡れた山城を見ていた。
「あなたは、何者ですか」
護衛対象である少女が口を開いた。この危機的状況にあっても、恐れは一切感じられない芯の通った強い声だ。目じりの方がわずかに垂れているエメラルドグリーンの瞳がじっと山城を見る。カチューシャを付けている亜麻色の髪は腰まで伸びており、手で触らずともくしがすっと通る想像ができるほど綺麗だ。両肩がはたけているショルダードレスは薄い緑色。先ほど叫ばれていた<クレア>という名前から、山城はその人物がアザミーの王妃であるアリタリウス・クレアだと推測した。マリンカリンの世界の七王の一人だ。
「僕は山城朱雀――と答えればいいか」
「人間、なのですか?」
「人間だ」
「……」
沈黙。アリタリウスがなにを考えているのかは、新緑の瞳からは読み取れない。取り巻きの護衛は毛を逆立てた猫のように山城を警戒している。それはこの世界では当然の反応だ。やすやすと魔物を蹴散らした山城は明らかにレベル1ではなく、レベル1でない人間はこの世界において殺人鬼のレッテルを貼られる。彼らもまた山城を狂った殺人鬼と考えているのだ。