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ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡十四夜目

「まな板はないけど、地面で斬るなんて真似はしないよね?」

「それについてはアイデアがある。任せろ」

 起こしておいた火の上にダッチオーブンを置いて水を張る。その水がゆだってからが本番だ。

「さて、お立合い」

 じゃがいも、たまねぎ、にんじん、鶏肉、にんにく。この五つの具材を切るわけだが、それらをすべて宙に放り投げた。

「まさか!」

 ガブリエルも山城がなにをやろうとしたのか察したようだ。山城は集中力を高めてククリナイフを振るう。極限の集中の中で、スローモーションで宙を舞うじゃがいもの皮をむき、芽を取り、一口サイズに斬る。たまねぎ、にんじん、とりにく、にんにくも同様に処理していく。次々と下処理を終えた食材たちが鍋へと向かっていた。

「レベルの無駄遣い……」

 ダッチオーブンに収まりぐつぐつと煮られる野菜たちをみてガブリエルは呆れかえっていた。ここまでやってしまえば、しばらくやることはない。

「朱雀くんはさ、どうして人を助けようと思えるの?」

「ずいぶん唐突だな。簡単だ。僕は人に幸せに笑ってほしいんだ。僕は親父みたいに人を笑わせられない。だから、人の役に立って人を笑わせられたらいいなと思ったんだ」

「親父みたいに――って、キミのお父さんは、確かサーカスのピエロをやってたんだっけ?」

「そうだな。親父は道化として人を笑わせてきた。笑わせることで人を幸せにした。僕は、そんな親父に憧れたが――知っての通り、僕は不愛想で面白味の欠片もない人間だ」

「不愛想気味ではあるけど、面白味は存分にあると思うんだけどね?」

「そうか?」

「主に天然由来の変態成分がね。ただ、言われてみれば冗談は笑えないことが多いね」

「その通りなんだ。僕は人を笑わせるのが致命的に下手だった。道化失格さ」

 たとえば、他のピエロがやすやすと笑いを取っていく鉄板のシナリオを山城がやると客が白ける。山城の演技はどこかずれており、決して人の心を掴めなかった。

「人を笑わせたい――その手段の一つに、たまたま人助けがあっただけだ。実にくだらない理由だな」

「それは、違うと思うよ! 素敵だよ! メイドとしてご奉仕してあげたいくらい素敵だよ! うん、やっぱりキミを選んでよかった」

「……そりゃどうも」

 具材が柔らかくなったタイミングでカレーの元を入れる。食欲を刺激するスパイスの香りが部屋に漂いだした。

「カレーを食べるのは久しぶりだな。こっちの世界の料理は調理過程は似ていても、材料が変わってるのが多いからな。身よりもぱりぱりな鱗がおいしい龍ノ子魚たつのこうおの油揚げとか、十足鳥のもも焼きとか」

「故郷が恋しくなってきたかい?」

「そりゃあな。あの世界の僕は死んだのか?」

「死んだ――というよりも存在自体を抹消したって言うのが正しいかな。わざわざ君を殺したのも、世界から存在を消す手続きだからね。もし、僕が今でも君を元の世界に帰せると言ったら帰るかい?」

「いや、こっちの世界問題が解決しない限りは帰らないな」

「朱雀くんは、そういうとこがとことん英雄気質だね。呆れちゃうくらいだよ。さて、カレーができたみたいだし食べようよ! ボク、もうお腹ペコペコだ! 英雄が作ったおいしいご飯に期待しよう」

「おいしいかはわからんが、さすがにカレーを失敗することはないだろう」

 白いご飯がないのが残念だが、そこまで贅沢は求められないだろう。皿にカレーをついで二人でいただきますを言う。

 山城はガブリエルが先に食べるのを待った。彼女はスプーンでじゃがいもとカレーを一緒にすくって口に運ぶ。そして、もぐもぐと口を動かした。

「うわ、おいしくない!」

「なんだと」

「これは、味が致命的に薄い! 水の量が多かったみたいだよ! あはは、ご飯がおいしく作れない人だったんだね。仕方ないなぁ、今度はボクが作ってあげよう! 楽しみにしていたまへ」

 もう一口、今度はお肉をぱくりと食べるガブリエル。 

「あはは、おいしくないおいしくない! 全然おいしくない!」

 なぜか、ガブリエルは嬉しそうに笑う。

「なら、食べるなよ」と言いつつも、笑うガブリエルの姿を見られて山城も嬉しくなってきてしまった。

「朱雀くんが作ってくれたカレーだから全部食べるよ」

「あんたもしかして僕のことが好きなのか?」

「は、はい!? どうしてこの短期間でこの大天使の心を落とせたと思ってるの!?」

「その好きは行きすぎだろう」

「あ、あぁ、ね。うん、好きだよ好き」

 失態を誤魔化すかのようにまずいカレーを口にかき込むガブリエル。できたてのアツアツなので顔を真っ赤にして熱さに耐えている。

 山城もスプーンにカレーとたまねぎを乗せてぱくりと一口食べる。

「あぁ、これはまずいな」

 まずい食事と固い床の寝床で二人は一夜を明かしたのだった。


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