ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡十二夜目
一歩下がり、振り下ろされた木の棒をかわす。そして、ガブリエルの体をお姫様だっこをするようにかかえた。
「店主、今日の分の宿代は返さなくてもいい。今まで世話になった」
山城は後ろの方で何の騒ぎかと見ていた店主に一言言って、守衛の脇をくぐる。その際、木の棒の一撃をもらったが、その程度ではダメージは受けない。彼は外に出るなり、跳躍して屋根の上に飛び乗った。
「気を付けろ! 殺人鬼だ! 殺人鬼がそこにいるっ!」
ひげの守衛は叫びながら木の棒で山城を指しながら叫ぶ。
「おい! 私の一撃に恐れを抱いたか! 逃げるな!」
先ほどの一撃で山城がダメージを受けたと勘違いしてるみたいで、恐怖は麻痺してしまったようだ。レベルというわかりやすい基準がありながらも、力の差を圧倒的に見誤っている。相手の力量を図るセンスは戦いの中でしか磨かれないのかもしれない。
山城は屋根の上を伝って街の端っこまで移動する。そして、そのまま木の壁を飛び越えて街の外へと出る。追手がないのを確認してからガブリエルを降ろした。
「お姫様だっこされたのは初めてだけど、けっこうきゅんきゅんするね!」
「大天使様はずいぶん呑気だな」
「ボクが与えた力でこんなことになって、申し訳ないとは思ってるけど、謝るより明るく振る舞った方が朱雀くんにとってはいいかなって!」
「それは、言わぬが花だな」
なんにせよ、この街にはいられなくなった。追跡が来る可能性が高いのでさっさと森の中へと隠れる。
「次の街に着くまで野宿生活か」
「さも当然のように言うね、キミは。けど、少しの間アザミーから離れた方がいいかもね。レベル99の人間がいたなんてわかったら国中大騒ぎだ」
ガブリエルは野宿生活に対して乗り気でないようだ。次の国についても、もしかしたらすぐに追い出されるかもしれないのに大丈夫なのだろうか。
「そういえば、あんたはお風呂とかトイレは必要あるのか?」
「大天使は本来お風呂は必要ないし、トイレにもいかない究極のアイドル的存在ですぅ! でも、お風呂は気分的に入りたいよ!」
デリカシーなさすぎ、と呆れ気味に首を振るガブリエル。山城は男女へだてなく付き合う分、性別的に聞きにくいこともずげずげ聞いてしまう部分が昔からあった。過去にそれで女子からビンタを食らったのだけれど、本人はなぜぶたれたのかをいまだに自覚していない。
「ここから一番近い隣国はどこだ?」
「クレセントだよ」
「最大最強の鋼の国――だったか。噂のゴリラエルがいるとかいう」
「うん、噂のゴリラエルがいるはずだよ」
ゴリラエル。その名前をはじめて聞いたとき、山城は柄にもなく噴き出してしまった。その名前の通り、ゴリラの姿をした守護天使がクレセントにはいるらしい。
「アザミーではフェリエルに会えなかったが、クレセントのゴリラエルには一度会ってみたいもんだ」
「フェリエルちゃんにはコンタクト取ろうと試みてるんだけど、忙しいらしいんだよね。アザミーは魔物達の領土である暗黒焦土に隣接する地域だから、守るのが大変みたいなんだよ」
「それは、僕達が手伝いにいかなくていいのか?」
「大丈夫、守護天使の守りはそう簡単には突破されないさ。しかも、フェリエルちゃんは魔物に対する最強の盾――<慈愛の大盾>を持つ天使だから、護ることに関しては一流だよ」
「性格は家庭を守ってほしくなるようなタイプだろうな」
「時々ものすごくずれたこと言うね!? ちょっとツンツンしてるけど、誰よりも優しい守護天使だからあってるけどね!」
「アザミーを離れたくなくなるな。ゴリラエルなんかよりフェリエルに会ってみたい」
「そういうタイプが好みなの!?」
「安心して家庭を預けられる人がいい」
「思考が妙に高校生離れしてるね……この歳の男子って普通もっと向こう見ずじゃないの? ひたすらにかわいい子がいいとか!」
「かわいいも正義だな」
「単に守備範囲がとんでもなく広いだけみたいだね……。煩悩まみれというかなんというか」
クレセントに向かって二人は歩き続けたが、徒歩では日中のうちにつかなかった。日が暮れる前に森の中に建っていた木こり小屋を見つけてそこを間借りする。小屋には暖炉があり薪を外から取ってくれば火には困らなそうだ。イスは一つだけしかなかったので、外にあった丸太で代用する。ベッドはないので床で雑魚寝することになるだろう。