ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡十一夜目
「なんの用だ?」
山城はひげを生やした方の守衛に尋ねる。
「なに、大した用ではない。貴様のレベルを確かめに来させてもらっただけなのだ。つい最近現れた流浪人がいるという噂が街に流れていてな。街に入る際にチェックしているのだから、なんの問題はないとは思うのだが、一応、な」
レベルを確かめる。それはすなわち山城が殺人鬼か否かを確かめる行為に等しい。
嫌な予感は当たるもんだな。
言葉で言いくるめるのは不可能だろう。この検査を拒否するのは、どちらにせよ自分がレベル1でないのを認める行為だ。
守衛がレベルを確かめるために使う道具である<真実の水晶>を取り出す。それを通してレベルを見たい対象を覗くと、そのレベルがわかる代物だ。水晶がゆがんだ形の山城を映し出す。
「は――? レベル99?」
予想外の結果に守衛は驚きをあらわにした。
「何かの間違いじゃないか?」
山城は冷静に言葉を返す。ここで焦ってもしかたない。そういう精神的な豪胆さを山城は持ち合わせていた。
「た、確かにな。レベル99の人間なんて存在するはずがない。私の見間違えかもしれないな。おい、お前が見てくれ」
顔に冷や汗を浮かべるひげを生やした守衛は、禿げ頭の守衛に水晶を託した。
「だ、だめだ。こいつのレベルはやっぱり99だ」と、禿げ頭の守衛も顔を真っ青にする。
「その水晶が壊れてるんじゃないのか?」
「あ、ありえない。これは聖神クルシニアス様の加護を得た水晶だ! 壊れるなんて、それこそ聖神様の身になにかあったときしか……」
聖神クルシニアスは、守護天使達をまとめ上げて人間界を治める最高神だ。ここに来て一週間、いろいろな書物を通してマリンカリンの世界について学んだ山城はそれを知っている。
「つまり、こいつのレベルは本物――き、ききき貴様、何物だ! いいい一体何人の人間を殺めてきた!」
二人の守衛は腰に下げていた木の棒を構える。それで山城を捕えることは絶対にできない。
「話を聞いてほしい。僕は人殺しじゃない」
「し、信じられるかそんなもの! 魔物だけを倒してレベルをあげたとでも言うのか? あ、あり得ないぞ!」
やはりだめか、と山城は観念した。
人間が魔物と戦うなんてこの世界の人は想像すらしていない。なぜなら、魔物と戦うのは守護天使の役割であり、その庇護がある限りは基本的に魔物に襲われずに済むからだ。
「こいつは私が足止めする! お前は一夜の騎士団に連絡を! スライブ様を連れてきてくれ!」
ひげ面の守衛が禿げ頭に言って木の棒を振り上げる。その動作は山城にとって酷く怠慢に見える。守衛の顔は恐怖に満ちており、彼も勝てるとは思ってはいないのだろう。
逃げるしかないか。