ロスト・アポカリプス in ロスト・ワン 滅亡十夜目
「ガブさんは過去に何度か世界を救う旅をしたのか?」
「もちろんだよ! でも、<ガブリエルうざい>って、他の英雄達はソロプレイをはじめちゃったよ。ボクがいなくても世界救える人達だったから別にいいんだけどさ」
「それは旅をしたうちに入るのか……。たしかに、ガブさんは時々ものすごく鬱陶しいな」
「朱雀くんはボクを捨てないよね!? ここいらで英雄と一緒に世界を救っとかないと、ミカエルちゃんが四大天使から堕とすぞ! ってひどいんんだ! だからね? ね?」
ベッドから降りてかさかさと山城に近寄って懇願するガブリエル。
「こういう行動が鬱陶しいと思ったんじゃないか?」
「はっ、盲点!」
「僕は別にいいけどな」
「朱雀くんまじ天使!」
「天使はあんただろう」
「可愛いって意味!? やーん、褒めないでぇ」
「あんた、ほんと道化だよ」
いちいちノリがいいガブリエルだが、人によっては単にうざいだけの存在だろう。大天使がさらに悪乗りをはじめようとしたとき、部屋にノックの音が響いた。
「お客様、少しよろしいでしょうか?」
ドアの外から宿の主人の声がした。山城はククリナイフを腰の皮の鞘に納めてドアを開く。人間の争いがないこの世界では、武器を腰にぶらさげている人は珍しい。だが、それによって警戒されることはまずない。人を殺せばレベルがあがり、殺人がばれる世界において人が人を殺すのはまずありえない事象の一つであるらしく、屠殺場関係に従事する者と勝手に勘違いしてくれる。
「お休みのところすみません」
禿げ頭の店主がぽりぽりと頬をかきながら言った。山城はとりあえず頷いておく。
「街の守衛の方があなた達にどうしても会いたいということでして」
「会うのを断ったらどうなる?」
「さぁ、わたくしにはわかりかねます。ですが、良いことにはならないでしょう」
「わかった。会おう。ガブさん、ついてきてくれないか」
「あいあいさー。ボクはどこまでもキミについていくさ」
普段の山城はここでガブリエルに同行をお願いしたりはしないのだが、嫌な予感がしたので付き添ってもらう。
宿のエントランスで待っていた二人の守衛は、皮の鎧を身に着けていた。腰に下げる武器は安っぽい木の棒だ。魔物の相手は考慮しておらず、暴れる人間を押さえるための装備だった。