第5話 あれ、これ、もしかしてゴーレム……?
ウィンディを弟子にとって1週間後。
「先生、出来ました! 見てください、葉っぱがこんなに硬くなりましたー!」
ニコニコ楽しそうなウィンディは公園で拾ってきた葉っぱで、作業机をたたいて、コンコンッと、小気味良い音を奏でる。
無邪気な笑顔を見せるウィンディのため、魔術協会から取り寄せた学術論文を読むのをやめて、作業机に歩みよった。
充分な硬度、魔法はたしかに「現象」ーー魔術を行使して起きる結果のことーーとなって実を結んでいる。
「凄いじゃないか、ウィンディ。物質の単純硬化はとても有意で実用性のある強化魔術だよ。うまいうまい。ただ、このままだと、まだ人間には使えない。人体はより複雑で、それに対して狙ったように益になる強化をほどこすのは、難しい作業なんだよ。そうだね、それじゃ次は葉っぱたちにかけた魔術を解いてみるといい」
俺は作業机のかたわらに寄せてあった、″硬くなった葉っぱ″がたくさん入れられた木箱を、ウィンディの目の前にスライドさせる。
ウィンディは「はーい!」と元気よく返事すると、木箱をひっくり返して、ふたたび葉っぱと魔術と向かい合う時間にはいった。
一息つくか。
腰に差した中杖をぬいて、キッチンへむかう。
昨日、覚えた現代魔術、もっともポピュラーな『四大属性式魔術』のうち、火属性式魔術の≪火≫を唱えて、薪に赤き熱をともす。
魔物狩りのため冒険者がつかったり、敵国を滅ぼすため国家の軍隊がつかったりする戦闘に適正化された魔術。
本当の神秘を探究してきた、近代魔術の専門家としては、ちょっと悔しいが、ほんとうに便利な魔法だ。
流石に、洗練されている。
これが人類と魔術の歩みの最新というわけか。
感慨にふけりながら、紅茶を淹れて、作業場へともどり、ソファに腰を下ろして、ふたたび学術論文に視線をおとす。
いや、それにしても驚愕のひとことに尽きる。
ウィンディに秘められた魔術の才能は、とてつもない物だ。
俺の本をあげた日から、さっそく魔術の詠唱を成功させるし、たった1週間で物質の単純硬化までやり遂げた。
「フフ、フフフ……」
これは凄まじい魔術師になるぞ。
きっと、俺を超える。
世界に名を轟かせることができるくらいに。
「ーーいや、だが、だとしたら、このままでいいのか?」
紅茶カップを握る手先が震える。
自身の考えが途端に、ひどく愚かなものに思えてきたからだ。
世界に名をはせる稀代の才能。
それを、俺は″強化魔術″などという、暗黒魔術教団が発祥の意味不明なマイナー魔術のために、費やしていいのか?
彼女に、たまたま強化魔術の才能があっただけ、ならばいい。
だが、もし仮に、もっと実用的で魔術世界全体が注目するような、華型の魔術分野に才能があったとしたら?
俺は彼女の若く可能性に満ち溢れた貴重な時間を、いたずらに使わせることになる。
それは、魔術世界の損失だ。
大事な大事な、可愛い弟子には、ぜひとも光のなかを歩いてほしい。
俺は、自分の弟子だからという理由で、その才能を自分色に染め上げ、現代の主流ではない、あまつさえ暗黒に類する魔術を教えこもうとしてる。
「ぁ、ぁ、なんて、ことだ……! 俺は、俺は!」
俺は恐ろしくなった。
世界で一番可愛い弟子が、より伸ばすべき才能を伸ばせないのが、悲しいことだと感じてしまった。
そんな時、ふと作業机のほうから声が聞こえた。
「先生! 先生! 助けてください! なんか、葉っぱが動きだしました!」
助けを求める弟子の声。
俺は学術論文の紙束を放り投げて、中杖を手に立ちあがる。
「ウィンディい! 大丈夫か!?」
「うぅ! 先生、葉っぱが、葉っぱがあ〜!」
駆け込んでくるウィンディを抱きしめ、中杖を握る手に力をこめる。
「我が魔力よ、ウィンディを守れ」
魔法をかけ、俺は立ちあがる。
怯えるウィンディが指差す作業机のうえへ視線をうつすと、俺は自分の目を疑った。
なんだこれは。
葉っぱがくねりくねりと蠢いて、作業机のうえを動きまわっているではないか。
なんとも奇怪な絵面。
ウィンディが集めてきて、さきほど硬化した分のほとんどが勝手に動いてるため、遠目からでも虫の大群が反逆をおこしてるみたいで、とても怖い感じだ。
どうして、葉っぱが動く?
なにか呪いでも掛かっていたのか?
俺は油断せず作業机により、うごめく葉っぱを手のひらに乗せて≪分析≫と≪解明≫をおこなった。
そして気づいた。
「あれ、これ、もしかしてゴーレム……?」
なんという事だろう。
俺の作業机はいつの間にか、見ず知らずのゴーレムたちに占拠されてしまっていたらしい。