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第4話 魔術師への第一歩


「ぷはぁ、先生、わたしもうお腹いっぱいです! あのホットドッグという食べ物、が美味しかったです!」

「うーん、そうかそうか、美味しかったか、よしよし」


 公園のベンチ、青く芝生がはえたゆったりとした空間でひと休み。柔らかい緑の髪の毛を、細心の注意をはらって優しくなでる。

 ウィンディは心地よさそうに目を細め、おでこをグリグリと擦りつけてくる。


 20歳の俺、歓喜です。


 まさか、俺が弟子を取ることになるなんて。

 暗黒魔術教団にいたころは、考えもしなかったな。


「ああ、そうだ、ウィンディひとつ確認しておこう。どうして、ウィンディは俺の弟子なりたいなんて言い出したんだい?」


 ノリと勢いで迎え入れてしまったが、よくよく考えれば、この子は『(かぜ)巫女(みこ)』であり、命を助けたのなら、里に帰してやるべきなのが正しかったような気もする。


「先生、と共にありたいと思ったからです! わたしの里は大きな木がたくさん生えた、深い深い森のなかにありまして、そこはとっても退屈なんです! わたしは『風の巫女』という大事なお役目を森から授かったとか、おばあちゃんも、おじいちゃんも言ってたんですけど、たぶんわたしが居なくても、妹がお祈りを頑張ってるはずなので、問題はないはずです! ええ、きっと、大丈夫です! おーるおーけー、です!」


 全然、大丈夫な気がしないが、可愛いので良しとする。


 ふむ、にしても、退屈な日常からの脱却が理由か。

 これくらいの村娘ならば、同じようなことを考えると、どこかで聞いた。


 神秘の森の民といえど、平穏に退屈さを感じてしまう、どうしようもない性質は変わらないらしい。


「あい、わかった。それじゃ、俺が退屈な日常なんて、おくれないような素晴らしい『人間の神秘』を教えてあげよう。ウィンディ、ついて来なさい」


 ウィンディの手を引いて、立ちあがる。


 昼下がりの公園を出て、向かうのは、クリスト・ベリアで冒険者ギルドの次に、もっとも多く利用した場所。


 俺の魔術工房(まじゅつこうぼう)だ。


 魔術工房とは、主に魔術師が所有する仕事場のことで、そこでは個性あふれる興味深い風景を見ることができる。

 偏見かもしれないが、だいだいどんな魔術師の魔術工房でも散らかっていることがおおい。


 人気(ひとけ)のない路地裏にはいり、いくつかの角を曲がった先で、誰も気にもとめないような扉のまえに立つ。


 周囲で人が見ていないことを確認して、魔術工房の防衛機能の一部を解除、魔導の扉を押し開く。


「わあ! ここが音に聞く魔法使いのお仕事場ですね! すごいです、きっちり整頓されて綺麗です!」


 ふふ、そうだろう。

 俺は基本的に綺麗好きなのさ。


「フッ、魔術師ならば当然だよ。ふふん、常に気品・誇りを持って自分の魔術工房は管理してこそ一流ってね」


 よし、今、頼れる先生っぽいこと言った。


 キラキラした水色の目が見上げてくるのに、満足しつつ、俺は棚から一冊の本を取りだす。


 本の名前は『人体強化の魔術 Ⅰ』。

 本の著者はバルトメロイ、つまり俺。


 表世界に逃げて、名前を変えて、冒険者になってから、俺は自分の知識を編纂(へんさん)してまとめた。これは強化魔術の決定版である。


 作った時は、誰が使うかもわからなかったが、魔術の歴史の1ページに自分自身の名前を刻みたくなるのは、もはや魔術の学徒としての(さが)なので仕方ない。


 それもこうしてちゃんと役に立つ時がくるのだから、人生とはかくもわからないものだな。


「さあ、ウィンディ、これをあげよう。立派な魔術師になりたいならば、まずは本と友達になることからはじめるんだ。この本は、そのためのまず第一歩となる」

「わたしの魔導書……ぅぅ、感激して涙がとまらないです……っ、ありがどう、ごじゃいましゅ、ぜんせいっ!」


 俺の著書を抱きしめて、ウィンディはとても嬉しそうに目頭を赤くした。


 この日より、俺の魔術工房では魔術師見習いウィンディが、日夜、魔術の修行に取り組むことになった。


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