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第28話 防衛王


 『防衛王』ヘクターの右手の甲で、爛々と輝く蒼き光。


 魔感覚に身を委ねれば、凄まじい力を内包していることに気づけるだろう。


 それは、たしかに神の時代から存在し、ヘクターの二つ名の由来ともなっている、古き神秘の残り香だ。


「その輝き、もらうぞ」


 いにしえの力の恐ろしさを知るクリフは、その発動を認めると、すぐさまヘクターの魔力を断つべく飛びかかった。


「叛逆者め! 触れるな!」

「っ」


 ヘクターが右腕をかかげると、彼を中心に風の圧力が膨れあがり、飛びかかるクリフを寄せつけない。


 踏み切った路地がわれるほどの脚力で打ち出されたクリフの″重さ″は簡単に押し返されてしまった。


造血魔術(ぞうけつまじゅつ)で身体強化された俺を吹き飛ばすだと……?)


 クリフは魔術師にはないはずの奇手で攻めたと思っていたが、それは誤っていたと理解した。


 正確には、ソレは″自分だけのカード″ではないと判断したのだ。


 ただの魔術師が、宮廷魔術師になれるはずがない。


(『防衛王』ヘクター。瞬間的にドラゴン級剣術者の動きにも対応できる反射神経をもっているのか)


 クリフは感心して、瞳に好戦的な輝きを宿しはじめる。


「そうか、なら、もう少し()()()()()()ぞ」


「いいだろう、叛逆者。貴公のおさめた技のすべてをぶつけてこい! 吾輩は真なる秘術の競いあいがしたいのだ」


 クリフは杖を数度軽くふり、風の球をヘクターへぶつける。


 しかし、手に持つ蒼輝のまえにすべて霧散してしまう。


(魔術の高速に平気で盾をつかうってことは、こいつは一流の魔術師ではなく、一流の戦士ということか)


 撃ち返してくるヘクターの風の魔弾。


 クリフは短杖の先に風の衝撃をつくりだし、たやすく弾いて相殺(そうさい)させる。


「何が、秘術の競いあいだ。笑わせるなよ、『防衛王(ぼうえいおう)』」


 クリフの低い笑い声が神秘の沼地に響く。

 彼は力なく首をふり、呆れたとばかりに諦観のこもった表情で一言つげた。


「お前は魔術師ですらないだろうがーー」

「ッ!」


 ただ、ひと言だけ、ヘクターの耳に残った声。


 その声が聞こえたと同時に、ヘクターは戦士としての勘にしたがって、その場を思いっきり飛びのいた。


 中空を、赤い粘性の尾をひく()が飛んでいく。


「は?」


 回避したヘクターと入れ替わるように、その場に立ち尽くす()()()をした魔術師は、そっと手に持つ大振りナイフについた血をはらった。


 足場の屋根に血がピシャリと叩きつけられる。


「っ、ぁ、がぉああ、! なんだ、と……!?」


 遅れて気づく、ヘクターはすでに亡くなった右腕の激痛にもがき、建物のうえから転がり落ちて、沼のなかへ沈んだ。


 しぶきを上げ、起きあがり「まだ倒れてなるものか……ッ、」と歯を食いしばって、彼は屋根上のクリフを睨みつけた。


「ぅ、ぐ、叛逆者……貴公、何者、だ? そんな、ありえないはずだ、熟達の戦士にすら気づかれない魔術師の近接戦闘能力など……!」


 クリフを瞑目し、目をよくマッサージしてから、黄色い瞳で息を絶え絶えにするヘクターを見下ろした。


「吸血鬼に勝てる人間はいない」

「……なんの、話、だ」

「だから、吸血鬼に限りなく近くなれば、負けないという理屈はある程度理解できるはずだ。そうだろう、『防衛王』ヘクター」


 クリフは瞬き2回、ふたたび目を赤く染めあげるとーーその姿を風に掻き消した。


「うぉぉおぉおおおッ!」


 ヘクターは死を目前にした生物的本能と、長年鍛え上げてきた肉体の記憶、歴戦の猛者の直感にしたがって、背後からの死神の足音を聞きわける。


 もう、彼の右腕はなく、そこに宿った古い神秘はない。


 だが、ヘクターは諦めなかった。


 目で追えない、人を辞めた怪力を受けとめるのは、高貴に()()()()


「っ、なんだと?」


 クリフは沼地を拳圧で陸地へ変え、石畳みに足を深くめりこませてヘクターを打ったのだ。


 しかし、禁忌の拳は通らない。


 ヘクターの目の前に出現した神秘の壁が、怪物に匹敵するチカラを決して寄せつけない。


「うぉぉおッ! 奢ったな、クリフノード! 右腕がなかろうと、吾輩には神の盾を使えるのだ! 吾輩こそが『ロンゴの右腕』! 吾輩こそが、『防衛王(ぼうえいおう)』、闇に潜む怪物になりさがった貴公には、決して超えられない究極の守護者だァアア!」

「っ」


 ヘクターを中心に、嵐が膨らんでいき、クリフの体が神意に吹き飛ばされる。


「ァアア! はぁ、はぁ、吾輩は、負けないッ!」

「……くだらないな。一度、展開しただけで、今にも死にそうな顔してるぞ? かの聖遺物は長年の研鑽と″右腕″に宿すという誓約のうえにギリギリで行使可能な奇跡だったはず」


 クリフは涼しげにつぶやき、ナイフを持ち直す。


(防衛力には確かに目を見張るモノがある。が、それは人間の神秘ではない。使おうとすれば、必ずほころび生じる)


 冷徹な思考で論理的に自分が勝てる確率を計算。

 一息の間の思考の末に、クリフはトドメを刺すべく、再び禁忌の魔術を使おうとする。


「っ、なんだ?」


 その時、満身創痍のヘクターの足元が輝きだした。


 神の盾とは(おもむき)の違う光だ。


「おぉ! 魔導王、迎えに来てくれたのですか!」


 苦しそうにあえぐヘクターがそう言うと、彼の体はあっという間に光に呑まれていき、沼の中から消えてしまった。


「遠隔からの空間魔術。魔導王が助けにはいったか」


 霞のように消えていく沼と、やんだ雨嵐に、今の出来事が夢だったのではないかと錯覚する事後の現場。


 クリフはゆっくりと腰を下ろして、おおきくため息をついた。


(すこし、無理をしすぎたか……吸血鬼の血のチカラを擬似的に再現することを目的とした造血魔術、その最新の進化系である一時的な吸血鬼化は、術者に致命的なほど負担をかけすぎる……)


「まだまだ、調整が必要だ、な……ぅ」


 嵐の過ぎた建物の屋根のうえ、寝転がり、クリフは崩れた宮殿をなんとなく見つめる。


 すると、宮殿のちかくで爆発的勢いで、天を貫くほどの大火炎柱が立ち昇った。


 しばらくして、火炎の勢力はおさまっていき、ついには消えてなくやってしまう。


「……はぁ、なんか凄い事になってるな」」


 安心したように優しくつぶやき、クリフは体を寝かす。


 束の間の休憩を取ることにしたようだ。


 ーーピチャピチャ


 眠る彼のもとへ近づく小さな足音に、クリフは気付いていない。

 


           ⌛︎⌛︎⌛︎


 

 向こうの空に大きな暗雲が立ちこめ、空に冥界への渦の門を開かられる。


 この世の終わりを拝ませる嵐を背後に、涼しげな顔でたたずむ青年。


 完全に崩壊した宮殿前の瓦礫の広場を、わずかな悲しみと狂熱の興奮を孕んだ綺麗な瞳で見わたしている。


「あはは、あーはははっ!」


 青年は高らかに笑う。

 

「こんなものが、こんな屈辱的なことが、やろう思っただけ、即刻叶うのか! なんという芸術、なんという陵辱、なんという破壊! 素晴らしい、ァア、素晴らしいぃイ!」


 この世への称賛。

 事成した者への憧れ。

 己が道を至上とする賛歌。


 青年は壊し尽くされた城のうえで、踊り笑いつづけた。


「ねぇ、あんたいつまで、一人で盛り上がってるの。あたしの相手をしてくれるんじゃないの?」


 踊る青年へ、投げつけられる不機嫌な言葉。


 声の主人もまた、宮殿の残骸のうえに立っていた。

 

 桃色の髪、赤い瞳。

 彼女のキリッと引き締まった表情の、なんと凛々しく美しいことか。


 ドラゴン級冒険者を束ねるリーダー、『爆撃(ばくげき)女神(めがみ)』ギラーテアだ。


 踊っていた青年が、ふりかえりギラーテアへ煌めく澄んだ瞳をむける。


「ええ、もちろん。相手しましょう。僕の愛おしい人。僕が相手とるのは一流であり、理解者であることが望ましい。芸術とは爆発です。可愛いあなたにはよくわかっているでしょう」


「芸術? なに訳わからんちんな事いってるのかしら。爆発なんて攻撃力高くて、派手だから使っているだけよ。あと気持ち悪い呼び方やめて。なに期待してるかわかんないけど、鳥肌が立ちすぎて肌荒れそうだからね。『破壊王(はかいおう)』レドモンド」


「んぅー最高だ……真に理解するものは万人にたやすく理解できる言葉を使わない、と。なるほど、先生の言うとおりですね。ならば、やはり、ギラーテア、僕にすこしお付き合いください。退屈はさせません」


 線の細い青年ーー『破壊王』レドモンドは青い髪を撫でつけて、かるく指を鳴らした。


 よく響く乾いた音は、瓦礫の地平を越えていく。


 なにを始めるのかと、ギラーテアは用心深くレドモンドを見つめていると、視界の端のほうからたくさんの人影が集まってくることに気がついた。


「まさか、人間爆弾……」


 とっさに悟り、ギラーテアは目を見張る。


 走る者たちは街中にいた市民だったからだ。


 暗殺のためにおくり込まれた忠実な臣下、あるいは盲目的な魔導王の信仰者でもない。


 ただの市民が、本人たちですら驚いた顔でまっすぐ走ってくる。


「僕と先生の合作である″人間爆弾″、その芸術性がなによって裏付けられているのか、気になりますが? いいですよ、『爆撃の女神』、同じ芸術家になら教えてあげましょう。もっとも、の破壊を乗り越えられたら、の話ですがね」


「ッ、レドモンドッ!」


 ギラーテアは叫び、速攻で術者の意識を刈り取るために≪風打(ふうだ)≫を放った。


 しかし、レドモンドは手に持っていた短杖で空気の小規模な衝撃波をうみだして抵抗(レジスト)してしまう。


 そして、両手と両足をおおきくあげた運動音痴の走りで、瓦礫の丘の向こう側へ走りさってしまった。


 瞬間、包囲網を縮めていた人間のサークルが、ギラーテアを囲い殺さんとせまる。


「ぁああ! 助けて、助けてくれぇえ!」

「熱い、熱い熱いッ! 身体が、燃え、ぅああああ!」

「痛い、ママ、痛ィよ、いやだああ!」


 苦しさに、熱さに、痛さに、恐怖に泣き叫ぶ人々。


(この人たちは自分の意思で走ってない!)


 ギラーテアは『破壊王(はかいおう)』が人道に反した恐ろしい魔術を使っていることを悟った。


 だが、それでは遅かった。


 彼らは自分の内側から滲み出る、数千度の熱量にもがき苦しみながら地を駆けーーついには、爆発してしまった。


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