表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

俺たちがすごい遠い国から来たという話。

そこは町というよりも、村であった。

広い農地から牛や馬を引いて、うちに帰ってくる人々を見やりつつ、俺たちは小さな店に入った。

パンなどの食品が主だったが、店の一角は飲み屋のようになっており、そのテーブル席に俺―――ミチユキ、と女神。

そしてオロッソ氏とガラム氏が座った。


「―――すると、ミチユキよ。キミと伴侶(はんりょ)の方は、遠い異国からやって来た飛竜乗りであり、本当にこの辺りに来たのは、初めてであると………?」


「そうです」


俺と女神はそういうことになっている。

そういうことにした―――まさか本当のことをいう訳にもいくまいと、女神に口裏合わせを頼まれた。

またトラブルに巻き込まれても困る、見知らぬ異世界の住人と親しく付き合おうという計らいらしい。


そんな彼女も今は、どこから取り出したのか、ローブのようなものを羽織り、田舎町では目立ちすぎる綺麗な髪も後ろで束ねている。

これでフードをかぶってしまえば修道女に近いだろう。

彼女は目を薄く閉じ、静かに事情を話し続ける。


「この辺りは初めてなもので、空中で方角を見失いかけていると、貴方がたが通りかかり、ついて行って、街へ行こうとしたのです―――」


転生の間でのあの堂々とした振る舞いとは、また随分と違うものだった。

むず痒さを感じる―――文句があるわけではないが。


「―――町に行こうとしたのです、ミチユキが」


俺に振ってきた。


「ああ、確かにまあ、俺がそうしようと思っただけです」


俺も重ねた。

ガラム、オロッソの二人は顔を見合わせ、唸る。


「ふうむ―――なるほど話はわかったがね」


「いいや―――わからないね!」


オロッソという、ややロン毛の男がテーブルに身を乗り出す。

俺が追い付いた時にすごい剣幕で怒鳴ってきた男だった。


「飛竜乗りで、しかも俺らの地元に入ってきて、あの急流流れる谷で、あんな飛び方を出来るわけがない」


どうも俺のことを気に食わないらしい―――まあ、確かに少々手荒い追い越しだった感は否めない。

高速道路を走っていたら突然隣に並走して話しかけたような、そんな感覚だった。

俺がやったことは、少なくとも礼節のようなものからは遠いだろう。

彼が睨むのも一理ある。

まー俺もやりたくてやったわけではないがな。


「盗賊団が飛竜を使って悪さをする、その端くれではないのか」


「まあ待て、オロッソ―――異国からやって来たというのはあり得ない話ではない」


「ガラム………お前」


「まあ聞け―――彼らの服装は、この辺りではあまり見ないものだ―――」


俺は、日本で来ていたTシャツやジーパンではないものの、異世界に来た時に変化、それなりにとりつくろわれているようだった。

飛竜に乗っても、風圧にある程度耐えられる頑丈さを感じる革だった。


それはライダースーツという中世に似つかわしくないものではなく―――。

強いて近いものを上げれば、戦時中の空軍のパイロットスーツ………みたいな。

俺もよく知らないけれど。

全く、こんな服を着るとは………どうも異世界転生っていうのは、こういうものなのだろうか。

思っていたのと違う。



「服装ひとつをとってもそうだし、アニチーガの地方から来たのかもしれない………!」


「マジで言ってるのか、あんなもの………噂話だぜ?」


「そもそもドラゴンの起源は、そこにあると聞く………この辺りの地方じゃあなくてな。俺たちよりも高いレベルで飛竜と生活を共にする人々が、そこにはいるという―――伝説だ」


彼ら二人の目の色が変わったが、俺たちはそんな大層なもんじゃあないぞ。

ただクルマに乗ってて事故って来ただけだぞ。

とか何とか思っている間に、異世界の住人、二人の視線に驚嘆や尊敬の類が見え始めたので、なんとなく冷や汗が出る思いだ。


「まあ―――すごい田舎だったもので、山しかないところに住んでいたもので、どこへ行くにも乗り物がないと苦労するんですよ」


ハハハハ………と。

俺は乾いた笑いをあげ、そんな風に言い訳した。

言っていること自体は、意味合い、大まかなフィーリングとして嘘ではなかった。

クルマか飛竜かで、違うだけで。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ