表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/29

町まで飛ぼうぜ


竜に乗って飛ぶという経験は、俺にとって生まれて初めてだった。

………当然だろ?

前世でもそうだし、今世(こんせ)でも―――そうだ。

交通事故で転生して、異世界に来てからが初乗車―――乗車?ということになるのだから、死んでから初めてなのか。

乗車ではなく、乗竜か。

しかし、竜は俺の素人(しろうと)、初めてを感じさせない、しなやかな飛び方をする。


似ている点もあった。

竜の内部から―――これは心臓の音なのだろうか、あるいは人間の何倍もある喉からの咆哮か。

猫がゴロゴロと喉を鳴らすようなものなのだろうが、巨大な竜が行うそれは、尻と背中から身体全体にじっくりと伝わる、エンジンのアイドリングとなる。

力強さ、どこにでも連れて行ってくれるというようなエネルギーを感じる。


コーナーの前でブレーキを踏む動作の代わりに、巨大な翼が風を捕まえてエアブレーキをかける、身体がふわっとさらわれる感触が心地よい。


竜の鱗は巨大な爬虫類染みたものというよりは、泳ぐ魚の体表面のようになめらかだ―――、輝いて日光を白く反射していた。

飛んでいる魚という点ではトビウオに近いのかもしれない。

崖の間をすいすいと抜けていく。

手前味噌だが、自分が乗っている竜の走空性能の高さに(おのの)いた。


またひとつ、高速コーナー染みた谷間を駆け抜けるのは、心地よい。

空まで伸びる岩肌の隙間を、縫って飛ぶ飛竜。

最初は状況の異常さ、無理難題に驚いていたが………。


「すげーぞ!すげえぞこれ、こいつ飛ぶの速い!―――なあ、女神さんよォ!」


テンション上がる。

俺のテンションとは違い、女神がテンション低い。

低いというか、うんともすんとも言わない。

もしや怪我でもしたのかと怖くなり、背後を振り返る。


女神は目を回して姿勢がひん曲がり、だらんと、そう―――脱力していた。

失神である。


「………」


さっさと村か町か―――人里に、着いた方がいいな。

幸い女神はシートベルトではないにしろ、飛竜から落ちないためにロープが肩回りまで伸びていた。

俺は手綱を握りしめる―――、竜と体幹を合わせるイメージ。

足を締めて、ふくらはぎの辺りに竜の鱗を感じる―――乗馬に近い姿勢だ。


「とりあえず町についてから色々聞きださなきゃあならないな」


しかし、俺の愛車に比べると、最高速度に関しては不満が残る。

時速百キロも出てないぞ?

ここは日本ではないらしい。

異世界には速度制限の表記がないのだから、もう少し出してくれよ?


「さあ!うるさい女神も失神したことだし、前の竜から引き離されないようにいくか」


左手をシフトレバーに伸ばし、ギアを上げる―――つもりだった。

だが手は空を切る。


「ぁれ………?」


だが、マニュアル車ならそこにあるはずのシフトレバーが、飛竜にはついていないことに気付く。

そうか、そういえばそうだ、これは飛竜だぞ、変速機などついているはずもない。

なぁ、ええと―――相棒。


いけない、いけない―――。

前世での癖が出たな。

俺は恥ずかしくなり、一人赤面した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ