転生者ミチユキよ、いけ!
前を走る―――と表現してはいけない。
前を飛んでいるのだ。
前方を鳥のようにすいすいと飛んでいくドラゴンは二頭、シルバーとブラックだ。
彼らに追い付くのはそれなりに苦労したが、彼らを追いかけなければおおよそ人里にはたどり着けない、迷子だろう。
―――――――
前方を駆ける、二人のドラゴン乗りは、焦っていた。
「おい―――なんか、後ろのドラゴン、追いかけて来たぜ」
長髪の男が言った。
「なんだか見かけない奴だなぁと思ったんだけどよォ………やばいやつじゃねーのか?」
もう一人、目つきがおどおどしている青年は、あからさまに見知らぬ飛竜乗りを警戒している。
「あの竜は妙な場所で飛んでいたな―――もしやとは思うが―――盗賊団のたぐいである可能性がある」
「ちょっ………ヘンなこと言うなよ!ヤベエじゃん、ガラの悪い連中に絡まれたら―――俺ら今、仕事の途中だぜ?」
二頭の竜の腹には、山の向こうの町まで届けるはずの荷物が、ロープとベルトによって括り付けられていた。
彼ら二人は飛竜乗りの中でも運び屋を生業とする空の宅配便。
強力な飛竜に乗るからには、危険が少ない仕事であるようにも思える。
だが実際は危険も多い。
竜を扱う同業者が多い―――これだけでもトラブルの可能性は増える。
竜だけでなく、乗り手にもいろんな性質の人間がいる。
火花を散らす場面もあるし、それこそ、炎を吐いてしまう場面もある―――竜が、であるが。
当然、野生のドラゴンも少なからず存在する。
「落ち着け―――こういう場合を考えないで何が運び屋だ、飛竜発送団だ―――」
手綱を握り、竜の行き先を変えた。
「まずは低空飛行だ!いくぞオロッソ!」
「………っ!わかったぜ、ガラム!」
二人は考えた―――盗賊に襲われる恐れがあるならば、《《例の場所》》を通ることも、已む無しか、と。
――――――――――
「―――おい、下に行ったぞあの竜たち。。つまり、人里が近いのか?」
前方の様子を見る。
だが、行き先があった。
眼前に険しくそびえたつ山がある。
「なんだ?その方向だと、山に突っ込むことになるぞ!」
景色はやや懐かしさを感じる場所に行った―――俺の日本での実家は坂道や畑に囲まれているのだが、そんな地域に突入する。
自然の中だ。
それは、山自体は緑が生い茂る、自然と言ったふうだったが竜が飛び込んでいくのは
いつだったかテレビ番組で見た、グランドキャニオンに似ている巨大な岩。
その亀裂というか、谷間に向かっていく二頭の竜は―――渓谷を飛ぶつもりなのか。
前の二頭は、下を激流が流れる谷間に侵入、飛んでいく。
「そうか!谷間を飛ぶ気なのか!」
予想とは違ったが、それでも人間について行かないと、この状況はマズいと、そんな気持ちがあった。
右も左もわからない異世界、人間とはぐれてしまえば、最悪の場合そのまま行方不明―――いや、遭難である。
こんなことなら、引き返して、最初に遠目に見た、城にでも行くべきか―――?
いや、もう方向を覚えていない。
それに前の二頭について行ける自信が、自分にはあった。
俺は日本にいた頃、竜に乗ったことは一度もない。
クルマの運転しかしたことがない。
だが、それはあくまで日本にいた頃の話、前世での話。
俺は飛ぶ竜に乗って、それを操ることが出来る―――今はそういうことに、なっている。
俺が乗っている竜は力強い生命力に満ちていた。
竜は谷間にまっすぐ飛ぶことになっても、怯んだ素振りは、見せなかった。